夕方5時20分、ショッピングモールに『メロディ・フェア』の旋律が流れるといつも、
表情も年齢もわからないほど濃い能面メイクをして化粧品フロアを闊歩する女性。
今年読んだ本の中では、『ともしびマーケット』でネスカフェの大瓶を抱っこして
スーパーをうろつく「ネスカフェおばさん」に勝るとも劣らない衝撃の人物で、
私、気になります!
そんな「能面おねえさん」を気にしつつ、
化粧品カウンターでビューティーパートナーとして
失敗を繰り返し、伸びない売上に悩みながら、日々成長していく結乃の物語。
真っ赤な口紅の似合う女性に父を奪われたトラウマが
結乃には、「無人島に何かひとつ持っていくなら、口紅!」と迷わず口にするほどの
メイクへの強い執着となって表れ、
妹の珠美には、薄化粧さえ毛嫌いするほどの拘りとなって表れているのが切ない。
いつも引用に残しておきたい文章が多すぎて、
栞をいくら用意しても足りない宮下奈都さん作品にしては、
胸に刺さる言葉がかなり少なめだったのは
私がいつまでたってもメイク下手だからなのかな?と思いつつも
今夜が峠という夫に会う前に、少しでも明るい顔にしてほしいと結乃に懇願する浜崎さんも
思春期になった途端に「かわいさ至上主義」に取って代わった女子の評価基準に愕然として
能面メイクの鎧をつけて「世界征服」をもくろむミズキも
きれいになりたい誰かのために、
そのひとの良さをいちばん素直に引き出せるメイクをしてあげたい、と決意する結乃も
みんなほろっとするくらいいじらしくて、
あんまりかまってもらえなくて可哀そうな私の肌も、
今日はちょっと丁寧にお手入れして、よろこばせてあげなくちゃ、と思う1冊です。
- 感想投稿日 : 2012年9月13日
- 読了日 : 2012年9月13日
- 本棚登録日 : 2012年9月13日
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