精霊の守り人 シーズン1 Blu-ray BOX

監督 : 片岡敬司 
出演 : 綾瀬はるか  小林颯  東出昌大  木村文乃  林遣都  吹越満  神尾佑 
  • ポニーキャニオン
3.50
  • (2)
  • (1)
  • (2)
  • (0)
  • (1)
本棚登録 : 15
感想 : 4
1

これは酷いとしか言いようがない。

本作の原作は小学生時代の私の、いちばんの愛読書と言っても過言ではなく、図書室で何度も借りて読み、借りるだけでは飽き足らず、大人になって当時読んだハードカバー版を買い求めもした。偕成社ワンダーランドというシリーズから出ていて、本作の原作小説のあまりの出来の良さに、小学生の時には「偕成社ワンダーランドの本は、ぜんぶ制覇しよう」と決意し、実際、小学生の間にはそれを実践し続けていたのだ(そしてたぶん、やり遂げたと思う、当時出版されているすべてを読んだはず)。頻繁に図書室に通い、新しい小説が入荷されていないか常にチェックし、シリーズを制覇する傍ら、本作の原作小説を何度も読み直した。

そういうわけで、本作がドラマ化されると聞いた時には、私と同世代の、この本を読んで大きくなった層が是非ドラマを、と制作しているのかと、それなりにわくわくしながら完成を楽しみにしていたのだが、おそらく実際には、この本を幼少期にしっかり読み込んだ人々は制作に参加していない。このドラマの製作スタッフは、おそらく原作をまともに読めていない。本作の死生観、生命観、それから世界の重なりと循環の物語、それらがたったひとりの幼い皇子の肉体を核に重なり合い、層状の空間を際立たせ、イニシエーションの物語としても母性の物語としても、自然の中で共生する我々の物語としても読める、そういう部分がまるごと削られている。

確かに原作者は文化人類学者で、アジアの風景や習俗を下敷きに作られた作品であることには変わりないのだが、その文化や習俗の底にあるのは何か、我々が自然や社会、あるいはお互いをどう解釈し、どう折り合いをつけて生きているか、そういう人間の解釈の仕方についてまで原作小説では行き届いて描かれていたように思う。皇子を核に自然も人も重なり合っているのだ。印象的な女用心棒バルサでさえ、重なっている要素のひとつなのだ。複数の自然と人とが重なり合った結果が、皇子に成長をもたらすのだ。原作小説の重要な特徴は、この重なりにあるし、この重なりの部分をうまく表現していたのが、本作の挿絵画家だったように思う。

このドラマはとにかくメリハリもなく、役者の演技もうまいとは言えない(特に2期)。下手な役者ならばカメラワークや編集を工夫して、せめて役者の間の取り方だけでも手を入れれば良いものを、まったく手を入れて改善しようという気もなく、だらだらと時間の流れを役者の演技に握らせている。音楽にも締まりがない。NHKのドキュメンタリーで、この締まりのなさが本作であると作曲家は述べていたわけだが、それは複数の世界観の同居する原作小説が複雑だということか。

アクションに力を入れていることはわかる。けれども原作を読む限り、アクションはそれほど重要ではない。アクションにもっとも力を入れた『指輪物語』を誰が見たがるだろうか? 制作スタッフは、本作を何の物語だと解釈したのだろうか。

カメラワーク自体も、セットも酷い。あの世界観の中に生きる登場人物として役者を撮っているのではなく、役者の背景に申し訳程度に世界観が映っているような演出だ。主人公たちのためだけに生きているかのような、奇妙に協力的な(そのシーンに同調的な)名もない役の人々が画面に多すぎる。多くの人がそれぞれに別の思惑をもって生きているのが世界だ。主人公たちとて、誰かの人生の脇役にすぎないのだ。主人公のためだけの、都合の良い脇役然とした振る舞いの人間を良しとする感性は、ほとんど学校教育で皆が同じ方向を向いていれば満足する教師のようなものだ。

本作は本当にどこをとっても酷く、褒められる部分と言えば本当にアクションしかない。誰が『精霊の守り人』シリーズに優れたアクションを要求する? 美しい女優がアクションをしていれば良いというなら、せっかく美しい女優なのだ、もっと美しい衣装を着せ、美しい風景の中で、アクションに始まりアクションに終わる、アクションだけの映像作品をつくって売り出したほうが、よほど収入になるのではないか。

日本で娯楽作品を作る際には「国民はお前ら制作スタッフと違ってバカだ」というのを言われるらしいが、少なくとも本作は国民を馬鹿にしすぎである。美しい女優がアクションをしている様子しか、あの原作を読んで思い浮かべられない層が、自分たちのドラマを見ているのだと考えているのであれば。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ファンタジー
感想投稿日 : 2017年3月13日
読了日 : 2016年8月20日
本棚登録日 : 2017年3月12日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする