ゲーテの代表作「若きウェルテルの悩み」をはじめとする散文作品とは、まるで雰囲気が異なりますので、最初に読んだときは面喰ってしまいましたが、壮大で遊び心満載の作品です。
「ファウスト」はいくつか版がありまして、集英社(本棚掲載)のほうは優しく読みやすい訳です。おきゃんな挿画もありますので、初めて読まれる方にはお薦めです。また、少し重めの訳が好みの方は、新潮社をお薦めします。詩の表現も美しく、軽さと重みのバランスもほどよい秀逸な訳だと思います。
60年の歳月をかけて完成させたということもあり、作品全体のまとまりやテンポについては、激流のようなギリシャ悲劇やシェイクスピアのそれに比べて少々疑問は残ります。でも、よくよく考えてみれば「ファウスト」は悲劇ではないですし、「神曲」と同様に、名状しがたい結末を迎えるにあたって、作品全体を激流のようなテンポで洗い流してしまうわけにはいかないでしょう。
余談かもしれませんが、ゲーテは「ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代」でもそうですが、さほど関連のない小話をちょこちょこ挟みこんで遊ぶクセがあるようです。小話を挟んで清涼剤にしていたのかしら? そういった遊びクセがあることも、この作品の楽しみのひとつです。
さてファウストの魂の行方は? 素頓狂な旅でファウストが得たものは?
――時よとまれ! おまえは美しい――
愛と美、そして不滅(不死)という壮大なテーマは、ゲーテの哲学や生き様をあらわすものだと感じます。でもそんな小難しいことは傍において、時空を超えたへんな悪魔との冒険は楽しいです(^^♪
「すべて移ろいゆくものは、
永遠なるものの比喩にすぎず。
かつて満たされざりしもの、
今ここに満たされる。
名状すべからざるもの、
ここに遂げられたり。
永遠にして女性的なるもの、
われらを牽(ひ)きて昇らしむ」
- 感想投稿日 : 2017年1月29日
- 本棚登録日 : 2017年1月26日
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