イノセント

著者 :
  • 新潮社 (2004年2月27日発売)
3.10
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本棚登録 : 72
感想 : 12
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男の住むマンションを見上げながらガソリンを被って焼身自殺したソープ嬢。
彼女が死んだ理由を探し求める牧師の父親は、信じられない事実に辿り着く。
中村うさぎが描く、愛と憎悪と絶望の物語。

中村うさぎさんって、ずっとエッセイストだと思ってました。
図書館で偶然名前を見かけて、何冊も小説を出されてることにびっくり。
早速1冊借りてみました。読みやすい文章は相変わらず。
そして小説の構成もおもしろくて、ラストも上手い具合に裏切られ、まとめ上げてくれてます。いい小説でした。

ただ、いかんせん内容が私には重たかった。
なんというか、ものすごい狂気に溢れてます。
妄想や虚言癖を持つ主人公が焼身自殺をするのですが、そこに至るまでの過程も、その後もとにかく常軌を逸してます。
誰もがその人なりの真実を話していても、それが真実とは限らない。
嘘と真実と妄想が混ざり合う世界で、何が本当なのかを考えながら読むことに疲れ、消化不良を起こしてしまいました。

過去に、あるいは未来に暗く重たいものを抱えている人が多かったことも疲れた原因の1つかも。
舞台も、人の欲望が前面に出る風俗でしたしね。
キャバ嬢は心が汚れてる人が、ソープ嬢は心が壊れてる人が多い、という記述に複雑な気持ちになりました。実際はどうかしりませんが、並大抵の心持ちじゃ生きられない世界なんだろうと想像はつきます。

ラストはラストで、見方によってはすっきりするラストなんですが、個人的には後味の悪いものが残りました。よくぞやった、という気持ちと、何もそこまで、という気持ちと、単純な嫌悪感と。
タイトルにもある「イノセント」は、人が求めて止まなく、でも実は人が持ちえないものなのかもしれないですね。だからこそ、人はその幻想を何かに投影し、すがってしまうのかも。
幼子に宿るイノセント。それを持って大きくなるには、世界はあまりにも色に溢れているのかも。この世界は、無垢で真っ白なままでは生きられないところなんでしょうね。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本の小説
感想投稿日 : 2012年2月8日
読了日 : 2012年2月8日
本棚登録日 : 2012年2月8日

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