壬生義士伝 上 (文春文庫 あ 39-2)

著者 :
  • 文藝春秋 (2002年9月3日発売)
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感想 : 805

「永遠の0」がコレのパクリだ、というのを読メのコメント等で見たため、その真偽見たさに読んでみました。
うーん、確かにパクリと言われてもしょうがないかな、率直なところ。吉村貫一郎という一人の侍について、当時の関係者からその人となりを訪ねまわる。インタビュー形式で当時の関係者の回想録として記載されていく、という点では、話の作り方が一緒ですね(笑)
あと、吉村貫一郎と宮部久蔵も、人となりは相通ずるものがありますし。生き抜くことを是とし、家族のために生きて、そして死んで。これからを生きる若い者を大事にして。
だからと言って、「永遠の0」を否定するものでもないかと。永遠の0を読んでの感動,衝撃,哀惜等々の感情は間違いないし。

こちらの方は、大泣きはしなかったけど、読みながらチョイチョイ涙ぐみました。嘉一郎に関する話がどれもこれも辛くて。母との誓いを守り、文武に精進し、だけども身分ゆえの壁は越えられず。宮部もそうですが、世が世なら、もっと生きやすかっただろうに。むしろ、平和な時代にこそ生きて、多くの人を導いてほしかった。(フィクションなのにおかしいですね、こんな書き方は)

吉村が侍,義を踏まえた上で家族のために生きるとしているのに対して、宮部はただひたすら家族愛のために生きている感じ。お金に触れている点で、吉村の方が意地汚くも映るが、より現実味が増している。宮部の方がそのような記述がないので、理想的な清廉さが出ているかな。

歴史にまったく疎く、新選組のことなんてマンガ「るろうに剣心」で得た知識くらいしかないので、新選組ってこんな陰のある人達だったのか、と妙に感心したり。
ちょっとね、言葉に馴染みがないので、初めはなかなか感情が入りきりませんでした。石高や股立ちをとるとか、鯉口を切るとか、よく知らないんです。
けど、南部訛りも盛岡を愛してやまない、その描写がまた涙を誘うのです。転勤が続いて、故郷を持たない身としては、なかなか沸いてこない感情なのですがね。

日本人って、なんでこんな面倒くさい生き方をするようになったんだろう。切腹とか、死んでお詫びとか、潔く死ぬことこそ誇り高き、なんて。あとは見栄と建前。いや、奥ゆかしさと言えば、まあ、いいのかもしれませんが、あまりにも自己犠牲感が強いというか、本音を言わないというかね。近藤勇が医者に行く件も、なんでこんな茶番をせねば医者にも行けないんだ、とかね。

何事も程度だよね。行き過ぎたるは・・・ってやつ。この本を読むと、武士道とはなんぞや、と思います。世間でいうほど、正しきことなのか。吉村貫一郎、まっとうで真っ正直。だけども、この人もまっすぐ過ぎたのか。
しかし、これだけの覚悟,矜持をもって生きているかと問われれば否。流されているな・・・

でも、中途半端な侍魂が後の第1次世界大戦,第2次世界大戦の戦略的失敗を引き起こしている気がしますね、「永遠の0」や「失敗の本質」を読んでみると。
日本人の切腹思想はどこから来ているんだろうか。本当にDNAに刷り込まれているのではないかと思えるくらいの日本人的思想。もしこの感覚が無かったら、日本って全然違う国になっていたんだろうな。ま、歴史にタラレバを言っても詮無きことですが。

でも、この日本が人の半生の間に、こんな劇的なことが起きていたというのが不思議。婢田利八(池田七三郎)他が、人を斬りながらも、その後の人生を全うしているというのが不思議な感覚、想像できないんだな。刀を振り回していた人が飛行機を見て、ビールを飲んで、サラリーマンを傍目で見ている、という時代の流れが、なかなか想像できない。本当にこの時代を生き抜いた人ってのは、どんなことを考えながら生きていったのかなあ。

さて、この吉村貫一郎、私の脳内では堺雅人さんでしたね。ひょろっとした優男、いざという時には鬼貫とも畏れられる北辰一刀流免許皆伝の侍。月代にほつれ毛、憂い顔。普段の笑顔と刀を構えた三白眼、ってな感じがですね、私の中では堺雅人さんだった。
にしても、ちょっと長いかなぁ。聞き手の正体も謎のままだし、下巻を読まねば。

体罰だ、鬱だ、就職難だ、等々、生きづらい現代だとは思うが、切った張ったの無い平和な世である。生き続ければ、生き続けなければ。「死ねばいいのに」(京極夏彦)の読後に感じたものと同じような感慨になります。

学校の歴史も、なんかこういうとっかかりみたいなもの、人の息づかいが感じられるドラマに触れさせれば、もっと勉強する人増えると思うんだけどな。ほんと、小中高と歴史が苦手で全然知識がないんですよね、ウチ。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年1月28日
読了日 : 2013年1月27日
本棚登録日 : 2013年1月28日

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