日本画の大家である祖父と、鄙びた田舎で働くこともなく、自然に囲まれ、静かに暮らしていた一之宮藍。けれど、その祖父が突然亡くなってしまう。
呆然とする藍に残されたのは、莫大な祖父の遺産とそれに伴う相続税。
家と土地だけでも膨大なのに、何気なく藍が使っていた食器類まで価値のあるものだと知らされ、また祖父の絵自体にもとんでもない値段がついていて、それら全ての相続税を藍が支払うことなんて不可能だった。
藍に残された選択肢は「相続放棄」しかなく、働いてもいない藍は住むところもお金も全てを失うことになってしまう。
そんな途方にくれる藍の下に現れたのは、志澤グループの後継者・志澤知靖だった。
志澤は、グループの会長である祖父と藍の祖父が旧知の仲であったと告げ、祖父の作品を藍の住む家ごと買い受けたいと言い出したのだった。
すっかり諦めていた藍の下に差し伸べられた救いの手だったが、志澤は更に、藍に新しい住処と仕事を与えてくれるという。
選択する余地なんてなかったけれど、それでも藍に考える時間と調べる時間とをくれた志澤の申し出を藍は最終的に受け入れる。
そして、志澤に案内された新居は、志澤の自宅であった。
おまけに、突然カードを渡され、生活費はすべてそのカードで支払って構わないと言われる。
志澤は藍に自分が何をしたいのか考える時間をくれたのだった。
当初、祖父以外の人間とほとんど接することがなかった藍は、志澤との同居に不安を覚えたが、志澤はほとんど自宅に帰ってくることがなかった。
そんな志澤と藍は何とかコミュニケーションをとろうと、階下のオフィスに泊まり込んでいる志澤に食事を差し入れたりし、徐々に志澤との距離をつめていく。
ところがそんな日々も長くは続かず、再び志澤が帰ってこない日々が続き始めた。
藍は志澤を失いたくないと思い、何とか自分の身体で志澤を繋ぎとめようと、衝動的に自分には何も返せるものがないから身体を差し出す、と口にしてしまうが……
というような内容でした。
話としては、藍が自分の気持ちに気付くまでの日常的なシーンが2/3くらいを占めています。
でも、そのシーンの書き方がとってもうまくて。
どちらも過去にトラウマを抱えていて、お互いがお互いを想い合ってて、でも、想い合ってるがゆえにすれ違ったりしていて、そういうのがとてもよくわかる書き方がされていて、とてもよかったです。
おまけに、藍が「自分のやりたいことを見つけろ」って言われたにも関わらず、数ヶ月経っても何も見つけられなかったのもリアルかなー……と思いました。
だって、「見つけろ」って言われてすぐに見つけられたら苦労しないと思うんですよね。
この話には続きがあるようなので、藍のそういうことに決着がつくのは、そっちを読んでからなのかなー……と思います。
静かな話が好きな方にはオススメです。
- 感想投稿日 : 2012年1月21日
- 読了日 : 2012年1月21日
- 本棚登録日 : 2012年1月21日
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