事件を端的に知らせるような筆致なのに、序文からすぐに小説の世界へ引き込まれる。
詩的な、感情的な表現を用いていないため、人々の非力さが却ってくっきりと際立っている。
哀しい群像劇をじっくりと味わうことができた。
また、自然の描写が美しく、しかも扱い方が上手い。
淡々と綴られていながら、雪に閉ざされる北海道の荘厳な風景が目にありありと浮かぶよう。
凄惨な事件の最中に描かれる、午後の渓流の牧歌的な雰囲気が、事件とのコントラストを強め、また日常の地続きで一連の事件が起きているということに対する恐怖を高める。
『高熱隧道』でも感じたけれど、合間に差し込まれる過不足ない自然描写が、物語に一層奥行きを与えて、まるで映画を観ているかように思わせる。
すっかり吉村昭の世界にハマってしまった。
ただ事件内容を描くだけでなく、その後色々と考えさせてくれるのも良い。
次も次もと読んでしまう。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
父の書庫
- 感想投稿日 : 2017年5月19日
- 読了日 : 2017年5月19日
- 本棚登録日 : 2017年3月28日
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