月刊群雛 (GunSu) 2015年 09月号 ~ インディーズ作家を応援するマガジン ~

  • NPO法人日本独立作家同盟 (2015年8月24日発売)
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普段とは逆で、先に各作品の寸評から。主文後回しみたいだね←

波野發作『オルガニゼイション』
連載に入ってから「ホームランか三振か」的なハマり具合なのですが、今回は低い弾道性のライナーでホームラン(?)。全体的に不思議な空気感を漂わせつつ、良いテンポのしゃべり具合ですらすら読める。
幹の部分は少女と猫の日常モノで、枝葉がSFという印象を持ちました。ただ、枝葉の繁り具合がハンパないわけで。個人的には「まだない」のくだりがツボ。

神光寺かをり『のこり香』
既に指摘している方もいらっしゃったのですが、文章がストーリーの足を引っ張っていると感じた。ストーリー自体がシンプルな流れなので、それを殺さぬかたちで文章自体も整えるとより読みやすかったのでは。何をどう書くのかという足し算と同じくらい、伝わらない邪魔な部分を削る引き算の技術も重要だと思う。

神楽坂らせん(文)×しんいち(イラスト)『あいどる・とーく』
ストーリーの展開の中で、「ここはどう繋がっているんだろう?」という箇所が一つあったのですが、それはまあ枝葉末節ということで。
全体的には「面白い!」の一言。SFをエンターテイメントとして、楽しくかつわかりやすく書ききっている。らせんさんはコレを書くのが楽しくて仕方がなかったんだろうなー、と思いつつ。
特に文体の部分において、少女のあどけなさとアイドルという立場の大人っぽさを上手く使い分けているのが好印象。それがストーリー全体の厚みにも繋がっているのではないでしょうか。
しんいちさんのイラストもキュートで、物語のイメージづくりに大いに貢献してくれたのではないでしょうか。
前号で竹島八百富さんが、今号で神楽坂さんが群雛に累計10回掲載を達成したのですが、まさしく「群雛第2世代」(と僕が勝手に言っている)の中心核として、追いつけ追い越せでいきたいと思っております。
たっくんは某アイドルグループSの元メンバーMくんの設定も入っているかな? と一瞬思ったのはここだけの秘密だよ!

くろま『リアリストの苦悩』
初回も充分引きつけられる内容だったのですが、2回目も「おおっ!」とテンションが上がる内容。火サスだなんてとんでもない、もっと重厚なミステリーと人間ドラマになってきている。くろま氏に適した作風はこういう影があるほうなのでは? とも思う。
忽然と第3の男が現れて役者が揃う一方、ストーリーはいい意味でカオスになってきている。色々と想像力が膨らむ。とにもかくにも、続きを読みたい。

きうり『奥羽根本線 新町踏切』
お馴染みになってきた超能力カメラマンもの。ストーリーの安定感も健在で、安心して最後まで読める。そして、謎解きに心地よい裏切りがある。きうりさん自身の特性として、密室的な限られたシチュエーションほど力を発揮すると感じた。
あと、過去のシリーズよりもアクションシーン(?)が大胆になって、よりパニックものに近い雰囲気が新しかったですね。

幸田玲『夏のかけら』
群雛に掲載していた別の作品を読んだ際に「何だか物足りない」という旨を書いたのだが、実を言うと今回もそれを感じている。ストーリーとしての流れをあまり感じないのだ。
文章自体は悪くないのになぜ、そう感じてしまうのか? これを突き詰めると、作品が「良い(と思っている)シーンの寄せ集め」になっていて、ストーリーになっていないのでは? という点に行きついた。表現したい/伝えたい大きなストーリーがあって、それを実現するための場面や人を配置して……というのとは逆の流れになっているのではないだろうか。
あと5回連載が続くのだけれども、ちょっとこの流れのままだったら困る。入稿したものをどこまで発展するのかは不明ですが、時間を有効に使って良いストーリーへと変えて欲しい。

西野由季子『実録!パリJapan Expo』
群雛自体でも久々のノンフィクションものですかね? (一応)同じノンフィクションベースの作家としては、もっと参加者の幅が増えて欲しいなあ、と思っております。
「海外で日本の××が大人気!」と言われてもピンとこな部分があったのですが、日本が生み出すソフトパワーというのは、外側から見ると相当新鮮に感じられているんだな、と。鮮度が高いと感じられているうちに、色々と売り込んでいきたいところですね。スポーツ界でも最近は「某サッカーチームがアニメの××とコラボ!」というのが出てきたのですが、スポーツ文化の本流&王道の欧米各国でも出てこないだろうか。

【表紙】神谷依緒『天体の指先』
6月号の薄い色合いも好みなのですが、混合の濃紺具合もスゴく好き。青色の使い方は僕の好みということで。隣の猫はディックくん……ではない

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そんなわけで、総評です。
辛口の姿勢というのは本意じゃない(大体スポーツ界で辛口評論家を名乗る人間はry)のですが、ちょっとそういう部分を出させて頂きました。
9月号は今までよりも各作品の「ムラ」を感じた号でした。群雛は巧拙を問わない雑誌ですし、そういう設定だからこそ僕自身も参加できている訳です。
その一方で、この場を通して作家が「成長」しているかは常に問われるべきだと考えています。それはこの雑誌を期待してくれる読者に対してもそうですが、自分自身にとってもこの姿勢を見せていくのは大切なことです。
「成長」という意味ではくろまさんが作家としての鉱脈を掘り当てつつあると思いました。話の本筋については最終回でどばどばレビューするつもりですが、今から楽しみです。(※あと2回ありますが)
あと、波野さんと神楽坂さんがフリーダム(!?)に物語を生み出していく様も壮観ですね。
話を戻しますが、成長のためには「読む」ことが大事だと考えています。自分は書くこと以上に、読むことで色々と学んでいると感じています。
レビュー内で引き算の技術やストーリーの流れ云々と述べましたが、それが上手に出来ている話は群雛のバックナンバー内にたくさんありました。ぜひ皆様も探して欲しいと思います(宣伝)

僕も10月号頑張ろう……

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 群雛
感想投稿日 : 2015年9月8日
本棚登録日 : 2015年9月8日

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