戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

  • 筑摩書房 (2004年5月10日発売)
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目から鱗の一冊。
実際の戦場は、兵士同士が機械のように殺し合いを繰り広げている冷淡なものではない。同じ人間を殺したくないという葛藤がある。第一次大戦では銃は音による威嚇と銃座による打撃に使われていた。一方、軍指導部は訓練に人型の標的を用いたり特有の連帯感を持たせることでこの課題を克服した。(事実、第二次大戦まで兵士の発砲率が2割以下であったが、湾岸戦争では9割まで上昇した。)

ベトナム戦争で多発したPTSDへの考察も鋭い。第二次大戦時の帰還は船舶輸送が主流で、戦場から社会生活に戻るまで長い助走期間を持つことができ、戦争体験を共有することでトラウマを消化できたのだ。一方ベトナムでは兵隊たちは飛行機で輸送され、短期間で気持ちの整理がつかないまま社会復帰を強いられ心を病んでしまった。

最終章では、現代の暴力的な映画やゲームが殺人への抵抗感を薄めていて犯罪に繋がっているという指摘しているが、強引で説得力に欠ける。


戦争をすることで莫大な経済的コストが発生するのは当然だが、それ以上に目に見えない心理的コストが発生すると知らされた。前線の兵士は特にその負担が大きく、戦争が正しかったかどうかの判断はさておき、社会は彼らを肯定する必要がある。戦争をするとはどんな意味を持っているのか、その責任は兵士だけでなく彼らを送り出す側にもあることを痛感させてくれた良書。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2015年9月24日
読了日 : 2015年9月24日
本棚登録日 : 2015年9月24日

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