火花 (文春文庫 ま 38-1)

著者 :
  • 文藝春秋 (2017年2月10日発売)
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感想 : 1084
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芥川賞でも直木賞でも本屋大賞でも、どの賞であれ賞をとったからというだけで読む本を決めたことは今までなかったのですが、この本に関しては「芥川賞を受賞した」ことが手に取った理由の8割9割を占めている自覚ありです。著者の経歴と芥川賞受賞が重ならなければきっと読まなかったと思います。残る理由は文庫化されたことで、価格的に「読んでみるか~」のハードルが下がったので。

文章は拙いということはないのですが、どこかぎこちない。テーマの扱い含めて初々しくて読みながらこっちが照れていました。ぎこちないながらも体当たりの直球勝負という印象。文章力はもっと磨く余地があるかな、と正直思います。このこなれた感じのなさも味なのかもしれませんが、小説を書きつづけるならもっと練っていける。
テーマは心の叫びというか、むしろ呻きというか。本音なんでしょう。若いです。でも悩むよね、己れの求める最高の表現、と、読者に寄り添って理解される伝達、この乖離というか齟齬っていうか。平たく言っちゃえば理想と現実の距離なのかな。自分の若いときを思い出して変な笑みがこみあげました。
誰に見られることなくても、芸術は芸術として存在するのか?
紡ぐ当人の思惑を完璧に映し出していれば誰にも理解されなくても芸術なのか?
あるいは、伝えて受けとめられて、そこで初めて芸術は完成するのか?
どの立場が正しい間違っているということはないのだと思います、単純に自分と作品の向き合いかた、というだけの話。でも自分が信じる道を歩いていくなら作品への態度は決めていたほうがきっと迷わないよね、というだけ。それだけの、重大なお話。
(「芸術」「作品」というのはこの物語でいえば「お笑い」に置き換えてください。そしてそれはたとえば社会人なら「仕事」に置き換えられるかと思います)

ラストは…これでいいのか。とちょっと唖然としましたが。唐突な感は否めない。ある意味ハッピーエンドなのかなぁ、どうなのかなぁ。

途中途中で時々ひっかかったのが、著者が主張したいことを勢いにのって書くあまり、饒舌に表現を重ねすぎて焦点が却ってぼやけてしまうところ。あと自分のなかで辻褄をあわせきれないまま書き進めたのか、理屈を並べ立てて、コーティングしすぎて、説明に走ってしまうところ。が、ちょっともったいなく見えました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 物語:吾が国
感想投稿日 : 2017年4月27日
読了日 : 2017年4月27日
本棚登録日 : 2017年4月27日

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