万能鑑定士Qの事件簿XII (角川文庫)

著者 :
  • KADOKAWA (2011年10月25日発売)
3.68
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本棚登録 : 2300
感想 : 198
3

〇 総合評価
 蓬莱瑞樹の失踪の謎,太陽の塔から盗まれた金属片の謎,ハリスがなぜ絡んでくるのか,凜田莉子に謎の鑑定をしている人物(団体?)は何者…といくつもの魅力的な謎で引っ張る。しかし,真相が脱力モノ。蓬莱瑞樹の失踪の謎は,永友エンジニアリングがマシンの開発ができず,中に人を入れて作業をさせるという計画を立て,蓬莱瑞樹はその「中の人」の1人であり,バイトを辞めたいと言ったので,ばれないようにかくまったというもの。金属片はGPSで,空輸中に落としてしまったもの。これを捜索するためにミステリーサークルを作ってしまったが,ミステリーサークルの元祖がアメリカ政府だとばれると損害賠償請求とかされてしまう可能性があるから盗んだというもの。これもバカミスチック。トータルで見ると,謎の魅力に真相が追い付いていない。凜田莉子と小笠原悠斗の仲が,シリーズ後半で急接近しているのは微笑ましい。ミステリとしては,高いレベルではないがエンターテイメントとしては及第点。このシリーズらしい作品。★3で。

〇 サプライズ ★★★☆☆
 蓬莱瑞樹の失踪事件の真相,ハリスが絡んできた理由,太陽の塔から盗まれた謎の物体の真相など,サプライズはそれなりにある。真相そのものは,バカミス的なオチではあるのだが…。サプライズは★3で。

〇 熱中度 ★★★★☆
 蓬莱瑞樹が失踪したのはなぜか?太陽の塔にはどのような謎が隠されているのか?ハリスは何を企んでいるのか?といった謎で引っ張る。莉子が鑑定のテストをされるという展開もある。雨森花蓮まで絡んでくるなど,読者サービスはたっぷり。最後まで楽しく読める極上のエンターテイメント。熱中度は高い。★4で。

〇 インパクト ★★★★☆
 蓬莱瑞樹の失踪の真相が,「太陽の塔で展示されるマシンの中の人として働くバイトをしていた」という脱力モノの真相だったというのは,ある意味インパクトがある。さらに,ハリスが絡んできた理由が,GPSの空輸中の落下に端を発するミステリーサークル騒ぎの元祖がアメリカ政府であることを隠すため…というこちらもバカミスチックなオチで,これもなかなかインパクトがある。あまり,いい意味ではないが,インパクトはあるので★4

〇 読後感 ★★★★☆
 凜田莉子と小笠原悠斗の関係がシリーズを重ねることに親密になり,この作品のラストは,ウェディング姿の写真撮影をしているという。この展開そのものは微笑ましく,この点の読後感は悪くない。雨森花蓮の絡みもよい。作品全体としても,永友エンジニアリングの今回の不祥事(マシン開発ができず,中の人を使おうとした)を隠す代わりに,ハリスの企み(GPSの金属片をこっそり回収。ミステリーサークル騒ぎの元祖がアメリカ政府であることを隠そうとした)を隠すことにしたというラストも,まぁ,悪くない読後感。そこそこ。★4

〇 希少価値 ☆☆☆☆☆
 人気シリーズのラスト。希少価値はない。

〇 メモ
〇 蓬莱浩志が,万能鑑定士Qの事務所を訪れる。太陽の塔のニュースを見た翌日,妻が太陽の塔に連れ去られ,そのまま失踪したとのこと。捜査のため,莉子に太陽の塔の鑑定を依頼する。
〇 莉子は依頼を受け,警察の立ち合いのもと,太陽の塔を鑑定するが,何も見つからない。
〇 蓬莱浩志の家での捜査。「6114 6111 6108 6105」という謎の数字を見つける。
〇 蓬莱浩志の家に「凜田莉子様」宛ての手紙が投函される。千里高校前に午後7時に来るようにという内容
〇 千里高校では,さまざまな紙の鑑定が行われる。最後にフランク紙の表裏の鑑定があり,莉子が鑑定できないと答えると区民センターに来るように言われる。
〇 区民センターではフランク紙の表裏の識別をできるという丹内という人物がいたが,これはいかさま。紙の角の堅さが違うことを利用したトリック
〇 太陽の塔の展示品が盗まれる盗難事件が発生する。蓬莱浩志は容疑者となる。
〇 莉子は太陽の塔を警備している日本統合警備で捜査をする。
〇 スペイン料理店で太陽の塔に関心があるハリス教授に話を聞く。
〇 莉子は再び,謎の人物に呼び出され,日用品の鑑定のテストをされる。
〇 蓬莱浩志の家に,莉子宛の手紙が投函される。1000万円の報酬で仕事をしてほしいとの依頼
〇 莉子は,呼び出された箕面のホテルに出向くが,仕事の説明会には参加せずに帰る。
〇 莉子はジャンク品の販売主であるAstr00017に話を聞きに行く。ネットオークションに@地名で出品できるように静岡県の「地名(ちな)」という土地に住んでいた。
〇 笠松刑務所にいる雨森花蓮に,写真から盗難された部品の作成を依頼する。
〇 雨森花蓮と莉子の推理。太陽の塔事件で,警備員は全員グル。花蓮は贋作を完成させ,出品者がイギリスの農場の持ち主のイギリス人と分かる。
〇 大阪府知事の太陽の塔の訪問。太陽の塔での謎解き。蓬莱浩志の妻,瑞希は,太陽の塔の機械の中で作業をするバイトをしていた。
〇 真相は太陽の塔の展示マシンの中に人が入っているという秘密を隠すための騒動だった。ハリスは,そのことに気付いたが,展示されていたGPS装置を盗み出すために,
恩義を売った。
〇 ハリスは1978年に空輸の際の事故でイギリスの農地に落ちたGPS装置がネットオークションで売りに出されていたことをしり,回収を図ったのだった。このときのGPSの捜査でミステリーサークルができた。
〇 ハリスと莉子の取引き。お互いに知りえたことを口外しないことにした。ハリスは,ミステリーサークル騒ぎの賠償金をアメリカ政府に負わせないため,莉子は,日本の技術が息の根を止められないため。
〇 莉子は花蓮に礼を言いに行く。花蓮からは「コピア」にだけは近づくなと助言を受ける。
〇 エピローグ。角川書店の建物で,小笠原と莉子がウェディング姿での撮影。そこでもダイヤの盗難事件が起こり…。というところでエンド

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 文庫14
感想投稿日 : 2017年9月3日
読了日 : 2017年9月3日
本棚登録日 : 2017年9月3日

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