吉田健一の小説は、基本的に登場人物が美味しいお酒を飲んで気の置けない友人と気の利いた会話を楽しんでいるだけで、とくに波乱万丈な事件も起こらず、トラブルを起こしたり感情的になってストーリーを引っ掻き回したりする登場人物もおらず、たまたま日常の一部を切り取っただけ、というテイでそのまま終わる印象ですが「絵空ごと」もまさにそれでした。
すでにあくせく働かなくても余裕で食べていける立場の優雅なおじさまたちが、偽物の絵を集めたり、偽物の英国紳士を量産したり(笑)しつつ、みんなで集まって酒飲んで音楽聞いて絵眺めて過ごせる共有の豪邸があるといいよね、と一人が言い出したら早速実行に移しちゃうという、庶民にとってはまさにそれこそが「絵空ごと」のような生活。なんというか、事件に巻き込まれない有閑倶楽部おじさまバージョンとでもいいましょうか(笑)。
倉橋由美子の『夢の浮橋』でジェーン・オースティンの小説について「不愉快きわまる人物は出てこない」「未成熟の人物が出てこない」 「下のクラスの人間が出てこない」と評されていましたが、吉田健一の小説にも同じことが言えるのかもしれません。
同時収録の短編「百鬼の会」は、やっぱり優雅なおじさまが美女だらけの素敵なバーをみつけてお酒を飲んで楽しむのだけれど、どうやら美女たちの正体は・・・というような話で、個人的にはこちらのほうが面白かったです。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
>やらわ行
- 感想投稿日 : 2014年6月26日
- 読了日 : 2014年6月25日
- 本棚登録日 : 2014年6月16日
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