文庫で600頁近くなるとその分厚さにまずちょっと引くんですが(苦笑)、章立てが細かいので、読むのはさほど苦ではありませんでした。言葉遊びの類いは、なんだか80年代の小劇団の戯曲みたいなノリで、個人的には好きだし(笑)。文庫とはいえ装丁のスタイリッシュさは流石。
ストーリーはとても説明しづらいけれど、ざっくり言ってしまえば作家である主人公(カタリテ)の内的世界の彷徨。現実なのか妄想なのか夢なのか劇中劇ならぬ作中作なのか、とにかく混乱させられるけれど、結局すべて主人公の内面世界での話だったのだと私は解釈しました。
子供の頃好きだった北杜夫の『船乗りクプクプの冒険』をちょっと思い出しました。作者ではなく読者が本の中の世界に入り込んでしまうという話なら、エンデの『はてしない物語』とか、他にもたくさんありそうだし、作家が自分の作品の登場人物たちと出会うというのも、それ自体はそんなに目新しい題材ではないでしょう。
最終的にフェリーニの『8 1/2』を引き合いに出しての大団円は、私も好きな映画なので上手いこと持ち込んだな~とか思いましたが、なんていうか、どうなんだろ、こういう構成や発想そのものが、作家として「反則」のような気も、ちょっとする。同業者が読んだら、共感するかそれとも「業界の暴露もの」(笑)として嫌悪されるか両極端なような。
にもかかわらず、最終的に不思議なカタルシスがあったのは、きっと作者の「言葉」や「書くこと」に対する真摯な向き合い方、その誠実さが感じられたから。マイナス面をあげるとしたら「作家はこんなに苦しんで作品を生み出してます」という苦労話は、読者としてはそれほど知りたくなかったかなという点(苦笑)。それでもトータルで読み応えがあり面白かったです。あとからじわじわ効いてきそう。
- 感想投稿日 : 2013年6月17日
- 読了日 : 2013年6月16日
- 本棚登録日 : 2013年6月11日
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