明治三十年の日本。十津川へ旅をした青年が、妖かしに惑わされるように迷い混む幻想的な時間のお話。古風な言葉や表現を駆使した文体は相変らずで、でも今回は舞台が日本ということもあり、かなりそれがハマる感じで、単純にあーやっぱこのひと上手いなあと感心。
たとえば泉鏡花の『高野聖』なんかを思わせる、隠れ里じみた山奥に棲む美女の妖怪(ここでは西洋でいうところのいわゆるバジリスクですけども)とそれに恋してしまう青年の悲恋というシチュエイションだけでなく、幾重にも交錯した時間軸…夢と現実の区別がつかなくなってゆく青年の、そのどの時点で見ている夢なのか、というのがどんどんわからなくなってゆく多重のパラドックスのようなものに、かなり惑わされます。
ラストは、青年の存在そのものが女性のほうの幻想だったのはないかという、さらなる入れ子構造的夢オチのニュアンスもあり(解釈によってどうとでも受け取れるでしょうけども)不思議な読後感が残ってとても面白かったです。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2015年6月8日
- 読了日 : 2002年9月
- 本棚登録日 : 2012年6月8日
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