みちのくの人形たち (中公文庫 ふ 2-5)

著者 :
  • 中央公論新社 (2012年5月23日発売)
3.53
  • (6)
  • (20)
  • (16)
  • (3)
  • (2)
本棚登録 : 333
感想 : 23
4

『洋子さんの本棚』で紹介されていて興味が沸いたので早速。深沢七郎って読んだことなかったっけ、何書いた人だっけと思ったら『楢山節考』の人だった。映画化された頃に家族の誰かが買ってきた原作が家にあって読んだような記憶が微かにあるのだけど、なにせ当時は「こわがり」の子供だったので、ちゃんと最後まで読んだのかどうか自信がない。(※当時、姥捨ては一種の怪談だと思ってました)まあそれはさておき。

表題作は、東北のある田舎の出身の人から、百人一首にもある「みちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに」の歌に出てくる「もぢずり」の花(ネジバナの別名らしい)を見せたいと誘われてそこへ出かけた老作家が、思いがけず目にした奇妙な風習の話。「旦那さま」と呼ばれるその家では、産婆であった先祖代々、出産の際に部屋を仕切る「屏風」を貸し出しており、それを逆さに立てた場合は生まれた赤ん坊を死産とする(つまり殺してしまい、なかったことにする)という暗黙の了解がある。堕胎に手を貸した罪を悔いて自らの両腕を切断した産婆の仏像、それがやがて「こけし」の姿と重なる、というおどろおどろしいオチ。「こけし」の語源が「子消し」だというのは実は民俗学的には根拠のない都市伝説だそうですが、貧しい東北の村で子供を間引いたことは多々あっただろうから、こんな風習ももしかして本当にあったかもしれないと思わされてしまう。

「秘戯」も同系統の話で、かつて住んだことのある博多に息子らを連れて出かけた主人公が、当時の仲間と再会、彼らには「人形」にまつわるある秘密が・・・というもの。「みちのく~」同様、本当にこういう秘密の風習(博多人形の裏側にこっそり春画の細工をしておくような)があるのかも、と信じそうになってしまうところが秀逸。きっと作者の創作だと思うのだけど。

「アラビア狂想曲」は、国籍不明の変なあだ名の村人たちが大勢出てきて、一見日本の昔話風の雰囲気なのだけど、終盤「しゃれこうべの丘」が出てきたあたりから「おや?」と思っていたら、磔にされた死刑囚が蘇って・・・ってつまりその話は。そういえばゴルゴタって確か髑髏=しゃれこうべの意味だったっけ。

全体的に民俗学的な要素がちりばめられていて(でも創作なのだろうけど)面白かった。

※収録作品
みちのくの人形たち/秘戯/アラビア狂想曲/をんな曼陀羅/『破れ草紙』に拠るレポート/和人のユーカラ/いろひめの水

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  >は行
感想投稿日 : 2017年10月31日
読了日 : 2017年10月31日
本棚登録日 : 2017年10月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする