人質の朗読会 (中公文庫 お 51-6)

著者 :
  • 中央公論新社 (2014年2月22日発売)
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本棚登録 : 3129
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遠い異国の地でテロに巻き込まれ人質にされた観光客+ツアーガイドの8人の日本人が、それぞれに書き記し朗読しあった物語の記録。それぞれの話は独立した短編としても十分成立しているのに、あえて付加されたこの設定が、全体に奥行きというかドラマ性を加えていて、なぜこういう形式を作者が選んだのか、ということがすなわち、なぜ作家が小説を書くのか?という問いへの答えにもなっていた気がします。

単に登場人物たちが語る(喋る)のではなく、「朗読」という、一度言葉として書いたものを改めて読むという形にしたのも、巧いなあと思いました。朗読された物語はどれも、「自分のなかにしまわれている過去、未来がどうあろうと決して損なわれない過去」であり、「それをそっと取り出し、掌で温め、言葉の舟に乗せる」のが朗読という作業なのでしょう。

個人的に好きだった話は「やまびこビスケット」と「冬眠中のヤマネ」。どちらも、語り手のもとにお守りのように残された小さなもの(ビスケットや、ヤマネのぬいぐるみ)についてのエピソードだったのですが、これはたまたま目に見える形でそういう「もの」があっただけで、他の物語も全部そういった、お守りのようなもの、お守りのような思い出、それがあるから今生きている自分が支えられている記憶、について語られていたのだと思います。誰の中にも語り得る物語がある、という事実が作家に物語を書かせているのであり、「B談話室」の語り手であった小説家が伝えたかったことがひいては小川洋子自身の姿勢なんだろうな。

※収録タイトル
「杖」「やまびこビスケット」「B談話室」「冬眠中のヤマネ」「コンソメスープ名人」「槍投げの青年」「死んだおばあさん」「花束」「ハキリアリ」

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ:  ○小川洋子
感想投稿日 : 2014年3月3日
読了日 : 2014年2月28日
本棚登録日 : 2014年2月24日

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