ハイテク社会と労働: 何が起きているか (岩波新書 新赤版 70)

著者 :
  • 岩波書店 (1989年5月22日発売)
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感想 : 2

現在コンピュータは,社会の隅々にまで浸透して,人間の仕事を代替したり高速化させたりするといったことで,その有用性は十分認知されている.またインターネットの登場により,世界中の場所に関わらず即自的なコミュニケーションが可能になるなど,人々の社会生活に十分寄与している.現状コンピュータの利用に関して,何らかの疑念を抱いたり敵視したりするような風潮はまったく感じられないように思う.しかしながら,本書刊行当時では,コンピュータの利用に対して少なからず懐疑の念があったようだ.本書はコンピュータの利用に関して概ね肯定的だと思うが,印象的だったのは,コンピュータによる例えば生産の自動化によって,従来の労働者の仕事が奪われる,といった表現があったことだ.現在ではコンピュータの利用によって効率化が図れるとは思っても,労働が奪われるといった発想そのものがなかなか出てこないのではないだろうか.本書は,そのような当時の様相をうかがわさせつつ,コンピュータによる人間労働環境の変化が,人間労働の意義をどのように変化させていくかについて考えさせる.

約20年前に刊行された本書の著者あとがきにこうある.
この小著を,とくに,二十一世紀に働いて生きる若い諸君に贈りたい.君たちがこの小著を介して先輩たちと,また君たち同士で労働について話し合い,実践してくれればうれしい.多くの職場やコミュニティで,そのようなドラマが生まれることを期待している.
コンピュータや機械の登場によって,コンピュータや機械ができる労働の価値は下がり,できない労働の価値は上がった.コンピュータが担える仕事の範囲にはまだ制限があるが,その範囲はどんどん広がっていくだろう.現時点で人工知能はまったくだと思うが,人間の脳の仕組みが解明され,将来それがコンピュータ上でシミュレートできるようになったとき,人間はどう生きていくのだろう.芸術に生きるのかなぁ.

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2013年10月26日
読了日 : 2010年3月12日
本棚登録日 : 2013年10月26日

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