不感症の男女の恋物語。と言っても顕子は肉体的に、昇は精神的に不感症。昇は人を愛さない冷たい男で、石や鉄で出来た無機質なものが好きだった。彼は偶然、顕子に出会い、無感動な彼女に興味を持つ。二人は人工的な愛を作ろうとするが、結局これは失敗し、昇は満たされることがなかった、というあらすじ。
三島は問題提起ばかりで解答はくれないみたいだね。リアリストということかな。ならば、読者は昇を観察して、精神的不感症の構造を暴いて、各自の参考にするべきだろう。精神的不感症の要因は、次の文章にあると思う。《昇が石や屍のような不動のものだけを愛するのは、それだけが疑いようのないものだったからではなかろうか。》つまり、人を愛さないのは、多種多様な可能性を排除して考えられない(=人を信じられない)ということが、暖かな人間関係を阻害すると。言ってしまえば、それだけのことなのだけど、実践的にそういう人間の生き方を虚構に照らして見ると、そのような簡単なことも普段の生活のなかで見出だせなくなっていることが分かる。小説って馬鹿にならないな。
また、三島の小説は、人物の機微が細かく活写されるので、僕のような人の気持ちを想像する力の欠けた人間には大いに勉強になります。
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文学作品
- 感想投稿日 : 2011年12月16日
- 本棚登録日 : 2011年12月16日
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