半島を出よ (下)

著者 :
  • 幻冬舎 (2005年3月25日発売)
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村上龍氏の大作「半島を出よ」の下巻です。今(2016.1)から10年以上も前に書かれた作品ですが、この様な事件が起きたらどうなるかについて、考えさせられた小説でした。

福岡ドームのプロ野球開幕戦で観客を拘束した状態で、その近くのホテルを接収して、市長に独立宣言をさせる、必要なお金は、不正蓄財をしていた人々を逮捕して彼らから拠出させる、よく考えられたストーリーでした。

飛行機でやってきた先発部隊に続いて、船でやってくる10万人以上の人が上陸したらどうなるかと、ハラハラしながら下巻を読み進めました。意外な展開で、日本は難を逃れることができた、というのも面白かったです。

この様な異常な状態で活躍する人は、歴史の例を見る通り、いわゆる「正規」では無い人達のようですね。これがパラダイム変換というものでしょうか、これから不透明な時代を生きていく私達にとっても参考になる小説だと思いました。

以下は気になったポイントです。

・趣味に必要なのは、時間的・経済的・精神的余裕である(p63)

・住民票コードを納税者番号に転用、さらに民間利用が認められた後は、もう歯止めが利かなかった。税金の申告、証券取引、年金の一元化、健康保険や生命保険業務、銀行の名寄せ、仮名口座開設防止等、問題は、様々な個人情報がブドウの房のように住民票コードという11桁の番号の下にぶら下がっていること(p89)

・他の人からの助言に頼ってしまうと、自分で考えなくなる。まず最初に自分で考える。(p145)

・鳥の腸管は、インフルエンザにとって理想的な生息場所で、あっという間に増殖して糞とともに次の宿主に移る。そうやって新しい世代のインフルエンザウィルスは他の鳥が泳いでいる水に溶け込み、感染していない水鳥がその水を飲んで新しい宿主になる(p221)

・ニューヨークのテロが当時のブッシュ政権の自作自演だったという陰謀説の中心にあったのが、V字型成形爆破線、であった。プロの発破屋たちは、このことを話さなくなった(p251)

・超高層ビルの場合、軽量鉄骨の開発で、90年代位から中高層部分に鉄筋コンクリートを使うことは殆どなくなった。(p253)

・ボツリヌス菌の毒素は最も強い、青酸カリの約一千万倍、1グラムあれば1700万人を殺せる。ヤドクガエルの毒は青酸カリの5000倍の強さで、コブラやサリン、ウミヘビ、VXガス、ふぐ毒よりも強いが、中南米のジャングルから離れると、その毒は消えてしまう(p260)

・脳には脳関門というバリアがあって、変な化合物は通さない仕組みになっているが、覚醒剤と麻薬はらくらく通る。窒素を含んだアルカロイドという有機化合物で、脳内物質である、アドレナリン、セロトニン、アセチルコリンもアルカロイドなので。皮膚がはがれた傷口からの侵入が楽だろう(p311)

・儒教では、自殺は魏びしく禁止されている(p341)

・12万人の本隊を攻撃すれば本当に液化天然ガス基地はテロ攻撃を受けるのかという問いは一切なく、液化天然ガス基地がテロ攻撃を受けるので、高麗遠征軍(先発隊500人)を攻撃できない、という論理のすりかえを行った(p442)

2016年1月9日作成

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 小説・歴史小説
感想投稿日 : 2016年1月9日
読了日 : 2016年1月9日
本棚登録日 : 2016年1月5日

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