「若者はかわいそう」論のウソ (扶桑社新書) (扶桑社新書 76)

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  • 扶桑社 (2010年6月1日発売)
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私はバブル世代だと認識していますが、最近の若者は就職を見つけるにしても大変だなと思っていますし、マスコミもそのような論調で報道していると思っています。そのような中で、データで裏付けられた「雇用不安」の正体を示して、「必ずしも若者は可哀相ではない」と主張している本には興味をもちました。

新規採用者数はこの20年間で変化していないこと、就職氷河期は大学数が増えたこと(p115)というのは目からウロコでした。確かに私の若かった頃と比べてみると、携帯電話があり、インターネットがあるので恵まれている面も多くあると思いますし、私の時代にも不遇な思いをしている人達はいたと思います。

なんとなく若者は可哀想という雰囲気を、このような本がデータでその根拠を示してくれるのは、私の仕事を進める上でも役に立つと思いました。

私も何となく感じていたのですが、20年以上前から年功序列や終身雇用制は崩壊したと言われていますが、転職する人は私も含めて少しずつ増えているようですが、昔ながらの制度は、この本に書いてある通り未だに残っていると思います。

また、言い難いことである、いまだに高学歴で大企業に勤めることは安定であるという、世の中で言われていることと逆行する事実をデータを持って証明している(p71)点は認識を改にしました。また正社員の定義は昔と今とでは異なる(p101)という点も同感でした。

以下は気になったポイントです。

・日本型雇用の崩壊の間違いとして、1)昔からそれほど終身雇用でなく、現在でも昔程度には終身雇用、2)大学新卒者の正社員採用も減っていない、である(p28)

・自己信託型の給料後払いと、海外におけるピラミッドは、大学卒ホワイトカラーの雇用においてのみ適用、高卒ブルーカラーは海外移転により崩壊した(p31)

・賃金データを調査する場合、所得別の実人数を調べるならば「民間給与の実態調査」、世帯別収入なら「国民生活基礎調査」、雇用形態別の構成員数ならば「労働力調査」がある、門倉氏は世帯構成や人数把握が難しい「賃金構造基本統計調査」を使用(p34)

・若年離職率の高さは下位高卒層に起因する、上位校×大企業という、いわゆる「エリート」的組み合わせでは、今でも3年転職率は1割程度、5年後には更に下がる(p71)

・かつての正社員には、事務職での一般採用、今ならば派遣に該当するような事務請負、構内製造協力会社(非系列下請)も含まれていた(p101)

・1985年から2008年の、4年制大学・新規卒業者の正社員就職数は減っていないどころか、バブル期(87~91年)の平均31万人を下回っていない、製造・事務・販売スタッフは非正規にシフトしている可能性は十分ある(p105)

・就職氷河期になったのは、企業が新規採用を減らしたのではなく、大学をつくりすぎたことにある(p115)

・正社員を非正規に変えたという表現は、詳しく言うと、高卒もしくは女子短大卒の受け皿を非正規に変えた、ということ(p120)

・卒業後3年間での転職率は、中卒(60%以上)>高卒(40%以上)>大卒(30%程度)であり、1987年から2005年まであまり変わらない(p125)

・2008年の生産年齢人口は、1984年とほぼ同一の8178万人、正社員数は、1984年が3333万人、2008年は3441万人で増加している(p138)

・現在の非正規社員総数は約1760万人、派遣数で考えると、一般派遣(常用:84+登録:281)+特定派遣(33)=398万人、常用就労者数だと(84+80+33=198万人)で非正規全体の1割程度となる(p144)

・派遣解禁により72万人も非正規が増えたことに対して、製造業の一般派遣就労者:48万人のうち30万人程度は、解禁以前は「構内請負企業で正社員」扱いであった、これを除くと解禁で増えたのは20万人程度(p144)

・正社員と派遣社員の人件費を比較すると、34職種中31職種において平均で21%高い、それでも企業が派遣を使うのは「解雇が容易だから」(p155)

・若者を取り巻く本質的な地殻変動とは、1)85~95年にかけておきた為替レートの大変化、2)85年から続く大学進学率上昇、3)80年以降、低下した出生率、である(p205)

2010/09/05作成

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会・生活・労働
感想投稿日 : 2011年10月19日
読了日 : 2010年9月5日
本棚登録日 : 2011年10月19日

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