歌よみに与ふる書 (岩波文庫 緑 13-6)

著者 :
  • 岩波書店 (1983年3月16日発売)
3.82
  • (9)
  • (15)
  • (14)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 233
感想 : 23
4

なんてエネルギーに満ちた文章だろう。一気呵成とはこういうことか。なにを言っても、生半可な思いでは太刀打ちできない。今こうして書いているものだって、子規の肉声(と称してもいいだろう)の何分の一も伝えられはしない。

この文章の中に常に先だって存在しているのは、非常なる「我」、前面に立ち出でたる「我」である。語る主体なしに書かれるものなどないはずだが、文章に語り手の名を付した途端、思想と人間とが紐づけられて生じる責任に、人は尻込みしてしまう。その思想がradicalであるだけ、失うものを考えれば言いにくい。
子規にはあまりにも明確な使命感があった。自分が書くのだ、自分が美しいと思ったものをこそくだらない様式に左右されず真実選び取って表すのだ、その風土を根付かせるため、土台をいま自分が作るのだ、という。

そうして書かれた文章に満ちる力は、子規の持てる分から切り売りされてきたものではない。書けば書くほど、不思議にこんこんと力が湧いてくるかのようだ。すがすがしい、気持ちよい、痛快、どう言葉を並べてもまだ足りないように感じる。魅力的であることには間違いない。
信念というものがどれほど人を、その作り出すものを、強くするか。パワーに圧倒されながらも、背中を押してもらえる本だ。

−−−

和歌は三十一文字だから、論ずるときにかならず全部を引用することになる。前後のコンテクスト云々の問題が生じない。ただし詞書きとの関連。このことについてもう少し考えたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 評論
感想投稿日 : 2012年6月23日
読了日 : 2012年6月1日
本棚登録日 : 2012年6月22日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする