写楽 閉じた国の幻(下) (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2013年1月28日発売)
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感想 : 126
4

この本を読んでしまうと、写楽の正体はコレしかあり得ないと思えてしまうのだけど、真実はどうなのだろう。

ただこの本の面白さは、写楽の正体を解き明かしていく点だけでなかった。

その過程で描かれる当時の江戸庶民の生活事情(倹約が義務付けられていた)や、将軍に謁見する為、出島からオランダ人がはるばる上京する江戸参府(彼らも厳しい監視体制下にあり自由行動が許されなかった)など、勉強になることが多かった。

あと、浮世絵が絵師(下絵)、彫師、刷師、三者の分業で行われていたことも。彫り、刷りの過程を熟練の職人が行うことで、下絵のオリジナリティが薄まり、絵師写楽の正体の謎を深めた様だ。

"写楽現象"に関わった人たち(本書の仮説の様だが)がまたいい。
浮世絵の版元で蔦屋重三郎という人物も男気があって魅力的だし、若かりし春朗(北斎)の素朴さもいい。
前半で生涯が描かれる平賀源内の天才ぶりもまた、興味深かった。

現代編だけでなく、江戸編で生活者の目線で当時を見せてくれるあたりも上手い!と思った。
現代編では主人公の厳しい現実が迫ってくるので読む方もキツイが、江戸編で救われる。

でも何といっても、一見無関係に思える回転ドアの悲劇的な事故と、写楽作品、そして混血の女性教授の共通点には、こう来たか!と唸らされた。緻密なプロットがあったのね。

ただ、あとがきによれば、思い入れが強い分想定以上に頁数が増え、書くはずだった裏ストーリーが一行も書けなかったらしい。

確かに前半は説明的に長々と同じ内容を繰り返し描かれており読み進めるのが少々辛い。後半はスピード感がありサクサクいけた。
裏ストーリーがあるなら続編も読みたい。

あとがきで、以前の浮世絵軽視の風潮や初期の推理(探偵)小説への蔑視を"常識の暴力"と呼ぶ作者。固定観念を嫌い、浮世絵の常識を打ち破った蔦屋に敬意を払う熱い気持ちが伝わってくる。

"写楽現象"の写楽の正体とは。個人的には今までそんなことを考えてみたことも無かった。
でも改めて浮世絵を見比べると確かに写楽の(特に初期)は他と大きく違う。面白いなぁ。

この本を読み終わった今、江戸時代の魅力的な登場人物や、人々の暮らし、歌舞伎や浮世絵、もっと安価に楽しめたはずの落語、色々なものに派生して興味が湧いた。
しばらく江戸がマイブームになりそう。。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2014年1月18日
読了日 : 2014年1月19日
本棚登録日 : 2014年1月18日

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