シャンタラム(中) (新潮文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (622ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784102179420

作品紹介・あらすじ

スラムでコレラが発生し、リンは獅子奮迅の活躍。だが、何者かの陰謀で投獄されてしまう。苛烈な拷問、同房者との対決、さらにはシラミや線虫との闘い-。疲弊して出所した彼はボンベイ・マフィアにスカウトされ、不正両替やパスポート偽造の手口を学ぶ。収入にも恵まれてスラムを離れたものの、かけがえのない者たちを喪ったことをきっかけに薬物がもたらす奈落へ沈んでゆく。

感想・レビュー・書評

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  • 猥雑で掃き溜めのような、それでいて絵も言われぬ魅力を感じてしまうインド・ボンベイ。インドを訪問した人の多くはその魅力に取り憑かれてしまう。そんな描写に溢れている「シャンタラム」中巻。
    ブラバガル、アブドラというリンにとってもっとも大事な人間に…
    人との出逢いと別れに満ちた巻だった。

  • 備忘録のためネタバレしていますのでご了承ください。

    上巻では貧しいながらも良い関係を築きつつあったボンベイでの生活ですが、中巻では事件がいろいろ勃発。

    ===
    スラムでコレラが流行。リンはできる限りの医療行為を行う。
    そしてずっと愛していた美女カーラともついに結ばれる。

    だがその直後にリンはいきなり警察に捕縛され、理由も分からず刑務所に送られる。
    警官たちによる過酷な拷問の日々。
    数か月後、ボンベマフィアのカーデルの力でリンは釈放され、カーデルは自分の元にいる限りリンの身の安全を保障する。
    自分を嵌めたものの正体と目的を知るため、再びカーラに会うため、リンはボンベイに留まる。
    しかし刑務所の心身の後遺症のため、スラムに戻ることはせず医療所を他の人たちに任せて町に暮らすことに。
    リンはカーデルの紹介でマフィアの仕事を次々に覚えてゆく。
    カーデルを父のように尊敬し、哲学講義により考えを深めてゆく。

    そしてインディラ・ガンジーが暗殺されたことによりインドでの治安は悪化し、民族宗教の違いによる衝突が増えている。
    リンは、大切な愛する友人たちを失う。
    心を喪失したリンは、麻薬宿に数か月籠もる。
    そこからリンを出したのは、カーデルの力と、カーラからの信頼だった。
    カーラはリンからの愛情に対しては一貫していた。「愛していない、これからも愛さない」
    親しい人間としてのカーラとの距離は、繋がりかけたら離れてゆく、近づいたと思ったら正しい問いかけをできずに離れていったり…というものだった。

    ヘロイン中毒を抜くための数週間の苦しみから立ち直ったリンは、カーデルから「アフガニスタンに渡って一緒に戦ってほしい」と依頼される…。

    ===
    上巻の小説の始まり、「刑務所で縛られ警官に拷問されながら自分が自由だと気が付いた」のはこの中巻での出来事だとわかります。そしてなぜそのような心境に至ったのかが釈放後に語らています。
    憎しみとは、犯罪の線引きとは…。闘争と犯罪に生きる者たちの哲学も語られています。
    警察はリンを逮捕し拷問し、しかし同時に身辺確認を行う。そして白人でありながらスラムで無料診療所を開く人物だと知ると、保釈金(賄賂)を受け取り釈放する。この行為を「インドは心の国だ」と書かれています。「ヨーロッパだったら賄賂を受け取るが保釈はしない。インドだからこそ保釈されたんだ」ということ。
    人がインドに惹きつけられ、インド人の心に魅了されるのはこういう国だからだ…、って拷問されたリンが納得してるならそれでいいんですけどね。

  • すごい小説。
    人生の大切なことが詰まっている。

    とにもかくにも下巻へGO!

    “「リン、男はいい女を見つけなきゃならない。そして、いい女が見つかったら、彼女の愛を勝ち取らなきゃならない。彼女にくそ尊敬されるようになって、信頼を裏切らないようにしなきゃならない。そして、自分と相手が生きているかぎり、そうありつづける。ふたりとも死んじまうまで。それが人生のすべてじゃないか。それがこの世でくそ一番大切なことじゃないか。それが男というものだ。男はいい女の愛を勝ち取り、その女に尊敬され、信頼されつづけて初めて、本物の男になる。そうなれるまでは男じゃない。」”

  • 貧しく、疲れ、不安に苛まれていても、彼らはインド人だった。インド人なら誰もがこう言うだろう―愛はインドで作り出されたものではないかもしれないが、まちがいなくこの地で完成されたものだ、と。(P97)

  • 上巻で、ムンバイに確固たる生活の基盤を築いたかに見えた主人公に、この中巻では大きな危機が降りかかる。

    それは、無実の罪による投獄であり、大事な人の喪失である(これは、カバーのあら筋に書いてあります)。
    過酷な獄中生活とそれからの脱出は、「モンテ・クリスト伯」をちょっと思い起こした。

    再生したかと思えた主人公に、自己崩壊の危機が訪れる。

    自分を陥れた人物は誰か?
    底に潜む陰謀は何なのか?

    この中巻でも若干の解決が提示されているが、まだまだ秘められた謎が下巻で明らかになるようだ。

    ミステリー仕立ての様相も加わり、これから主人公がどのような運命をたどるのか、興味は尽きない。

  • スラムでのほほんドクターコトーから急展開。

    これが本当に作者の体験をもとにしているなら、刑務所での地獄の日々に耐え抜いたことに驚く。想像を絶する打擲、不衛生。自分なら1週間ともたないだろう…

    持ち前のタフさで刑務所から生還したリンの身にあらゆることが次々と起こる。マフィアの一員のとして犯罪に手を染める、相次ぐ友の死、薬物中毒。 

    リンシャンタラムの心身はボロボロ、傷だらけの中盤。さらにこれからアフガニスタンの戦地へ赴くという。なんだこの人生!
    そりゃ小説書くよね。
    もうこの物語にすっかりハマっている。
    どんな結末が待っているのだろうか?

    ちなみに、恋人カーラはどうも好きになれない。
    思わせぶりだし、秘密主義すぎるし、ヒステリックだし…
    なんかめんどくさい女。
    断然リサに魅力を感じてしまう。



  • 文庫本上・中・下巻、全部で1,870ページの疾走する大作を、疾走する勢いで読了。これはしびれた。
    家庭の破綻からラリって武装強盗をはたらき、オーストラリアの刑務所に投獄。そこから白昼堂々脱走してインドのボンベイ(当時、原文のまま)に逃亡。そのスラム街に住みついて無資格で無料の診療所を営業。その後、ボンベイのマフィアに入り、アフガニスタンに出陣。こう書くと、これがこの長編小説の主人公の略歴と思われるかもしれないが、実はこれは作者本人の略歴。そして、この大作はこの略歴を元にした一大スペクタクル小説なのだ。
    客観的な自伝として書いても十分面白い内容にちがいないが、自分を主人公にして、思い切り主観的に、うぬぼれて、自己愛にあふれた小説に仕立てたことで、この大作の面白さが格段に増している。これだけの長さなので冗長なところもなくはないが、それはうぬぼれ男のご愛嬌と受け止めて読み進める。表現は時に文学的であり、時に哲学的であり。悩める友に、愛する人にそのまま使えそうな心に刺さるフレーズが随所に。そして、特に印象的なのは、登場人物の瞳、顔、表情の表現。わずかな鼓動も見逃さない優れた観察力と繊細な表現力を持ち合わせた者ならでは、と思わせる表現がなんとも美しい。
    分厚い文庫が三冊並ぶと、読むのに勇気がいるかもしれないが、一旦始めてしまうともう止まらない。あふれる疾走感に、読んでいるこちらの疾走も止まらない。これはしびれた。

  • 読了。

    【購入本】
    シャンタラム(中) / グレゴリー・デイヴィッド ロバーツ

    先日のお休み時に、午前中に洗濯などを一気にやって、午後からはスーパー読書タイム発動で2/3ほど読み続ける。それだけハマれる本ということでもありましょうか。

    シャンタラム2巻目
    今は亡き栗本薫氏が彼を題材にして書いたら一章で二冊ぐらいかけるんじゃないかというほどの濃厚な人生。
    自分視点だからか端的にまとめることができて、次へ行くという感じはあるものの、その一個一個が大事件だったりします。
    師であり父であるカーデルバイ
    美しき謎多いカーラ
    リンの最初の友人プラバカル。
    ドロップアウトでインドに入ってきた欧米人
    現地のスラムの人々。
    個性あるよねみな。

    たいへん面白く引き続き下巻に入ろうかと思います。
    また急展開っすか...。

    あぁ...プラバカル...

  • 2012年、最高の一作となる予感の凄い作品。これは面白い。主人公はインドに降り立ったオーストラリア人。脱獄の果てにインドに辿り着き、そこでの邂逅やら異文化との衝突やらを経て、自分の人生を見つめ直す。その過程を描いただけの作品なのだが、これが抜群に面白かった。

    先ずインドの描写。汚く猥雑な国、というイメージしか無いが、厳しく暖かく、そして心がある。それを表現する歌と踊りがある。そんな素晴らしい一面を鮮やかに描いている。何とも泥臭く、魅力的な国だと認識が改められる。そんなインドを描く道具が多種多様の人との出会い。キャラが立っており、彼/彼女がどう思うか、読んでいる側が思い描ける程に緻密でリアル。そして人の心の移り変わりさえも全く違和感が無く響いてくる。主人公の過去やインドでも出来事は何一つ日常的なものは無いが、それでも違和感が無い。むしろ自分に降りかかっているかのよう錯覚から抜けられなくなる出来栄え。作者の筆力と訳者の上手さに下を巻く。

    しかし何と言っても本作の魅力はその詩的な表現の数々。登場人物が皆、気の利いたセリフを言う。とても日常的ではないのだが、いちいち心に沈み込んでくるセリフ群。これまで読んだ本の中でメモをした回数は最大級。覚えておきたくなるセリフや言い回しばかりで、どんどん読書スピードが落ちる。

    この世界から抜け出したくない、という思いばかりが募る大名作。お勧めです!!

  • 『シャンタラム』の2冊目。今回は、スラムで起こったコレラの対処に際して獅子奮迅の活躍を魅せるところからスタート。前回の終わりにカーデルバイの息子・タリクを預かることになっていたが、そのくだりは丸々カットされており、ちょっと残念であった。いきなりタリクを返す3カ月後になっているとは・・・。

    そして、次の展開はリンが何者かの陰謀により投獄されてしまうことに。そこでの生活描写が生々しく少し読んでいて気持ちが悪くなった。筆者の獄中の体験がもとになっているからかだろうか。。。

    出所した後は、ボンベイ・マフィアの一員となり、不正両替やパスポート偽造の手口を学び稼いでいくことになる。そのおかげで収入にも恵まれることになるが、しだいに心が失われていくことになってしまう。さらに、スラムから離れたことや、恋人カーラとの距離が広まっていくこと、「レオポルド」の常連客たちとの死別や別れ・裏切り、義兄弟が殺害されるなどといったことにより、再び薬物漬けの生活に戻っていくことになってしまう。

    作中で語られていた、正しい動機から、悪い行動が生み出される、というのはまさにその通りだと思い、よく行ってしまう過ちの一つだと思う。

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