ターン (新潮文庫)

著者 :
  • 新潮社 (2000年6月28日発売)
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本棚登録 : 5078
感想 : 564
4

ラブストーリーだった。

北村さんは、本当に膨大な語彙をあやつることができて、難しい表現を使っているわけではないのに豊かな文章を紡ぐ。真に文章の上手い人はこうなんだろう。
ただ、それだけに、すらすら読める文章ではない(私にとって)。一文一文が脳裏に鮮やかな絵を描かせる感じというか、要は一文あたりの情報量が多いんだな。
だからこの作品も読むのにずいぶん時間がかかった。

事故にあって意識不明になった主人公の、意識の方が時間の溝に入ってしまって、誰も居ない世界で昨日と今日を繰り返す話。
物語は二人称で綴られる。実は以前二人称の他の作品を読んでツライ思いをしたので(内容的に)、あまり二人称が好きじゃなくて、それも読むのに苦労した要因だった。
でも、二人称の「正体」が分かった時は感動した。

主人公が時間の溝(《くるりん》の世界)に入ってからがちょっと長くて中弛みした。半年その世界に囚われたんだからその時間を表現するのに必要だったとは思うけど。
だから電話が掛かってきた時、主人公だけじゃなくて私もドキドキした。物語が動く!と(笑)。

電話の繋がったのがイイ人で良かった。
電話だけの関係で恋愛感情が生まれるのは、現代で言えばネット恋愛みたいなものだから、充分あり得ることなのだ。意外にも、姿形に惑わさせることなく、ヒトの核心に触れられるから。

柿崎君の暴君ぶりが数日で終わってホッとした。あれは精神削られる。
このあたりは、読んでいて、付記で北村さんが言い訳してる(って言ったら怒られそうだけど)時間の矛盾みたいなものに、はっきりとは気づかなかったんだけど、なんかモヤモヤした。まぁ些末なことかもしれないけど、ちょっと惜しい。

全体の展開とそれに費やした頁の割合からして、最後のシーンを簡単に書きすぎてる気がする。もう少しじっくりやって欲しかった、感動的な場面なんだから。(感動しました)

泉さんは電話が切れてからどうしたんだろう。多分病室の真希を励まし続けたんだろう。真希が帰ってくることを信じて。
イイ人だなぁホント。包容力があるというか。

静かだけど良い話だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 北村薫
感想投稿日 : 2017年8月28日
読了日 : 2017年8月28日
本棚登録日 : 2017年8月28日

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