失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

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zerobaseさん 社会・経済   読み終わった 

『失敗の本質ー日本軍の組織論的研究』を読み終えた。『流れを経営するー持続的イノベーション企業の動態理論』を著した野中郁次郎氏の力作。或る公演で「機銃掃射する米戦闘機パイロットと目が合った時、彼がニヤリと笑った気がした」と。敗戦に動機付けられた学問の平和的到達点。

目的の曖昧さと指示の不徹底
→目的を明確に。指示を徹底的に。

合理性ではなく人情論による作戦決定
→合理的に。

会議の席上で直接の反論をせず、雑談で疑問を呈し不同意を表明する態度
→反論は会議で。

グランド・ストラテジー(大戦略)の不在
→「何をもって成功とするか」の明確な定義

概念の創造と操作(科学的方法論、論理実証主義)の能力不足

高級指揮官の行動を細かく規制する統帥綱領(聖典化、視野の狭窄化、想像力の貧困化、思考の硬直化)
→現場の柔軟な行動を縛るな。

「微妙な表現でそれとなく伝える」「察して欲しい」曖昧なコミュニケーション
→はっきり伝えろ。

組織の環境適応は、仮に戦略・資源・組織の一部あるいは全部が環境不適合であっても、それらを環境適合的に変革できる力があるかどうか。
→自己革新組織

日本軍は環境に適応しすぎて失敗した

「分化(differentiation)」と「統合(integration)」という相反する関係にある状態を同時に極大化している組織が、環境適応に優れている

組織の戦略原型が末端にまで浸透するためには、組織の成員が特定の意味や行動を媒介にして特定の物の見方や行動の型を内面化していくことが必要である。このようなパラダイムの浸透には、とりわけ組織のリーダーの言動による影響力が大きい。

年功序列型の組織では、人的繋がりが出来やすく、またリーダーの過去の成功体験が継続的に組織の上部構造に蓄積されていくので、価値の伝承は取り立てて努力をしなくても日常化されやすいのである。

このようなリーダーシップの積み上げによって、戦略・戦術のパラダイムは、組織の成員に共有された行動規範、すなわち組織文化にまで高められる。組織の分化は、取り立てて目を引くでも無い、ささいな、日常の人々の相互作用の積み重ねによって形成されることが多いのである。

組織学習(organizational leraning)
学習するのは、あくまで一人ひとりの組織の成員である。したがって組織学習は、組織の成員一人ひとりによって行われる学習がたがいに共有され、評価され、統合されるプロセスを経て初めて起こるのである。そのような学習が起こるためには、組織は、個々の成員に影響を与え、その学習の成果を蓄積し、伝達するという学習システムになっていなければならない。

不均衡の創造
適応力のある組織は、環境を利用して絶えず組織内に変異、緊張、危機感を発生させている。あるいはこの原則を、組織は進化するためには、それ自体を絶えず不均衡状態にしておかなければならない、と言ってもいいだろう。不均衡は、組織が環境との間の情報やエネルギーの交換プロセスのパイプをつなげておく、すなわち開放体制(オープン・システム)にしておくための必要条件である。完全な均衡状態にあるということは、適応の最終状態であって組織の死を意味する。逆説的ではあるが、「適応は適応能力を締め出す」のである。(…)環境が変化した場合には、諸要素間の均衡関係を突き崩して組織的な不均衡状態をつくり出さねばならない。

自律性の確保
自律性を確保しつつ全体としての適応を図るためには、組織はその構成要素の自律性を確保できるように組織の単位を柔構造にしておかなければならない。自律性のある柔構造組織、すなわちルース・カプリング型組織の特色は次の通りである。(略)
自律性を与える代わりに業績評価を明確に(信賞必罰)。

創造的破壊による突出
ゆらぎ→不安定域を超えて新しい構造へ飛躍
漸進的変化だけでは不十分 突然変異が必要
真価は創造的破壊を伴う「自己超越」現象

自己革新組織は、たえずシステム自体の限界を超えたところに到達しようと自己否定を行う。進化は創造的なものであって、単なる適応的なものではない。

創造的破壊は、ヒトと技術を通じて最も徹底的に実現される。

異端・偶然との共存
およそイノベーション(革新)は、異質なヒト、情報、偶然を取り込むところに始まる。官僚制とは、あらゆる異端・偶然の要素を徹底的に排除した組織構造である。

知識の蓄積と淘汰
進化する組織は学習する組織
米海兵隊の戦争教義(ドクトリン)は海兵隊学校を中心に開発された。
戦略的思考は日々のオープンな議論や体験のなかで蓄積される。
教官と学生が一体となった自由討議
このような戦略・戦術マインドの日常化を通じて初めて戦略性が身に付く。

統合的価値の共有
自己革新組織は、その構成要素に方向性を与え、その協働を確保するために統合的な価値あるいはビジョンを持たなければならない。
組織成員の間で基本的な価値が共有され信頼関係が確立されている場合には、見解の差異やコンフリクトがあってもそれらを肯定的に受容し、学習や自己否定を通してより高いレベルでの統合が可能になる。
日本軍は、アジアの解放を唱えた「大東亜共栄圏」などの理念を有していたが、それを個々の先頭における具体的な行動規範にまで詰めて組織全員に共有させることは出来なかった。このような価値は、言行一致を通じて初めて組織内に浸透するものであるが、日本軍の指導層のなかでは、理想派よりは、目前の短期的国益を追求する現実派が主導権を握っていた。

日本軍の失敗の本質とその連続性

日本軍は、独創的でかつ普遍的な組織原理を自ら開発したことは無かった。
欠陥の本質は、日本軍の組織原理にある。陸軍は、ヨーロッパから官僚制という高度に合理的・階層的組織を借用したが、それは官僚制組織が本来持っているメリットを十分に機能させる形で導入されていなかった。
官僚制と集団主義が奇妙に入り交じった組織
階層がありながら、ほどよい情緒的人的結合(集団主義)と個人の下克上的突出を許容するシステムを共存させていた。それが機能しえたのは、1現場第一線の自由裁量と微調整が機能する、2すぐれた統合者を得て有効な属人的統合が為される、3自動的コンセンサスが得られる状況にある(勝ち戦、白星、成長期)、などの条件が満たされた場合だけであった。
以上の点から、日本軍は、近代的官僚制組織と集団主義を混在させることによって、高度に不確実な環境下で機能するようなダイナミズムをも有する本来の官僚制組織とは異質の、日本的ハイブリッド組織を作り上げたのかもしれない。しかも日本軍エリートは、このような日本的官僚制組織の有する現場の自由裁量と微調整主義を許容する長所を、逆に階層構造を利用して圧殺してしまったのである。そして、既述したように、日本軍の最大の失敗の本質は、特定の戦略原型に徹底的に適応しすぎて学習棄却ができず自己革新能力を失ってしまった、ということであった。

戦略について
日本企業の戦略は、論理的・演繹的な米国企業の戦略策定に対して、帰納的戦略策定を得意とするオペレーション志向である。
・継続的な変化への適応能力
・大きなブレイク・スルーを生み出すことよりも、一つのアイデアの洗練に適している

組織について
日本企業の組織は、米国企業のような公式化された階層を構築して規則や計画を通じて組織的統合と環境対応を行うよりは、価値・情報の共有をもとに集団内の成員や集団間の頻繁な相互作用を通じて組織的統合と環境対応を行うグループ・ダイナミックスを生かした組織である。その長所は、次のようなものである。
1 下位の組織単位の自律的な環境適応が可能になる
2 定式化されない曖昧な情報を上手く伝達・処理できる
3 組織の末端の学習を活性化させ、現場における知識や経験の蓄積を促進し、情報感度を高める
4 集団あるいは組織の価値観によって、人々を内発的に動機付け大きな心理的エネルギーを引き出すことができる

長所も短所
組織
1 明確な戦略概念に乏しい
2 急激な構造的変化への適応が難しい
3 大きなブレイク・スルーを生み出すことが難しい
組織
1 集団間の統合の負荷が大きい
2 意志決定に長い時間を要する
3 集団思考による異端の排除が起こる

レビュー投稿日
2012年1月7日
読了日
2012年1月7日
本棚登録日
2011年2月11日
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