文學界2015年6月号

  • 文藝春秋 (2015年5月7日発売)
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本棚登録 : 18
感想 : 7

加藤秀行「サバイブ」
外資系エリート2人と、居酒屋バイトの主夫の、同棲生活。
仕事小説が広く受け入れられているのは、今を生きる人にとって「仕事」の比重がかなり大きくなっているからだと思う。
傍から見れば順風満帆なエリートの亮介が「他人の人生まで責任が取れる気がしないんだ」「生き延びるだけで必死さ」と独白するところに、妙に共感した。
そして彼は「俺にはお前のような奴が必要なんだ」と主夫であるダイスケに告げる。
「俺はダイスケのことがうらやましい。飲み過ぎてソファで潰れているお前を見るたびに、お前の中に俺が無くした何かが息づいている気がしてならない」
この気持ちは、現代の働く人の多くが抱えているものではないだろうか。
そこをうまく小説として切り取っていると思った。


島本理生「夏の裁断」
こういう男、いる、と激しく納得した。
優しくしたり強引にしたりして気を惹いておいて、急に冷たく突き放す。答えが知りたくても、何も考えていない。「ただ、あなたを刺激して、自分のほうに意識を向けたら満足して気分で突き放すだけ」
柴田という編集の描写が非常にリアルで、頭でわかっていても従ってしまう主人公と一緒に振り回された。
いい意味で毒気も加わった文章に惹きこまれ、一気に読めた。

読書状況:未設定 公開設定:公開
カテゴリ: 雑誌
感想投稿日 : 2015年6月14日
本棚登録日 : 2015年6月14日

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