岩波新書(1938年創刊)、中公新書(1962年創刊)に続き、1963年に創刊された科学新書レーベル「ブルーバックス」。今年1月に山崎晴雄・久保純子著『日本列島100万年史』で2000番(タイトル)を突破したことを記念して、4週にわたり、編集部への独占インタビューを通じてブルーバックスの魅力に迫ります。さらに、ブルーバックスの人気タイトルを様々にプレゼントする企画も実施いたしますので、最後までお見逃しなく!
第一弾は、編集長・篠木和久さんにブルーバックスの半世紀にわたる歴史をブルーバックス歴史スゴロクを眺めながら振り返っていただきました。ロングセラー本やチャレンジングな作品、さらに篠木さんの忘れられない作品をご紹介します。
取材・文・撮影/ブクログ通信 編集部 持田泰 猿橋由佳

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「人工頭脳」から始まったブルーバックス。そして2001番目も・・・
―2000番突破おめでとうございます。今回、篠木さんにはこの54年のブルーバックスの歴史を振り返っていただこうと思います。まずは講談社から科学新書「ブルーバックス」を創刊した契機についてお伺いできればと思います。
残念ですが、私も創刊時から在籍していたわけではないので、当時の状況を詳しく知っているわけではありません(笑)。創刊時の社内報からの知識でしかないのですが、1963年当時は科学といえば専門書しかなく「科学とは難しいものである」という認識が一般的でした。そんな時代の中で、カッパブックスさんの『数式を使わない物理学入門 – アインシュタイン以後の自然探検』(猪木正文著 1963年)がベストセラーになったんですね。そこで講談社でも「一般の人が科学書を読むような時代になりつつある」とみて、一般の方向けのわかりやすい科学解説本のシリーズをやろうという機運になったことがブルーバックスの出発点です。
第一弾として、菊池誠『人工頭脳時代』、古田昭作・牧野賢治『世界を変える現代物理』、崎川範行『科学の手帖』の3タイトルが刊行されました。

菊池誠『人工頭脳時代』/古田昭作・牧野賢治『世界を変える現代物理』/崎川範行『科学の手帖』
―創刊一作目が『人工頭脳時代』(1963)であったことに驚きます。まるで今の時代を予言したかのようですね。
そうなんですよ。まだコンピュータがとんでもなく大型で「電子計算機」と呼ばれていた当時に、それを「人工頭脳」という言葉に置き換えて、その将来の可能性を論じています。これからコンピュータが社会に浸透してきた場合、今後社会はどうなるのだろうかと。現代のAI(人工知能)にも通じる状況を見据えていたのには驚きます。著者は戦後日本のエレクトロニクスの基礎研究をリードされていた物理学者の菊池誠先生ですね。残念ながら、現在は絶版になっています。

奇しくも2001番目は小野田博一先生の最新刊『人工知能はいかにして強くなるのか? 対戦型AIで学ぶ基本のしくみ』(2017)となりました。狙って出したのではないのですけど(笑)

―なんと!何かとても「宿命的なもの」を感じますね。
昨年、Googleが開発した囲碁プログラム「AlphaGo」が、李世石との5番勝負の第1局に勝ちましたね。囲碁においてはまだAIが人間に勝てないと言われていた中での驚くべきニュースでしたが、本書はそのAIが「学ぶ」とはなにか?AIが「考える」とはどういうことか?という核心をわかりやすく解説しています。
現在も刊行中!52年のロングセラーであるプロジェクトマネジメントの古典
―1965年刊行の加藤昭吉『計画の科学』が累計部数歴代8位ですが、こちらはまだ刊行中なんですか?
そうです。現在のシリーズ既刊の中で最も古いタイトル(35番)になりますね。プロジェクト・マネジメントの基礎であるPERTの入門書です。長年愛されて今でも読者を増やしています。初版から52年を経て現在77刷(増刷)ですね。

―50年を超えるロングセラーが、今でも様々に刊行されているプロジェクト・マネジメント本だったことに素直に驚きます。
1960年代が現代社会のトバ口だったからこそ、今にも通ずるのだろうと思います。
科学の真打登場!『相対性理論の世界』シリーズ最多の100刷!
1966年に刊行された『相対性理論の世界』『量子力学の世界』と量子物理学本が累計部数歴代3位と6位になっていて、こちらも今なお刊行されているロングセラーですね。
創刊4年目に出した最先端の物理学をやさしく噛み砕いたものになりますが、『相対性理論の世界』はブルーバックスシリーズ最多の100刷になります。『量子力学の世界』(現在は電子版のみ)は、日本人初のノーベル賞受賞者、湯川秀樹先生に序文を書いていただいています。
―科学の真打登場って感じですね。創刊当初から「科学」という軸はぶれてないんですね。
当初は科学だけでなく社会問題にも切り込みたいと創刊編集長は語っていましたけれども、創刊時の想定読者は学生とビジネスマンだったんですよ。というのもあって、さきの『計画の科学』や『人工頭脳時代』などはそういうところ狙っていたんだろうなと思います。
過去累計10万部以上のヒットは118タイトル、5万部以上は380タイトル
―古い時代のロングセラーはやはり累計部数も多いのだろうと思いますが、全体的にみてブルーバックスはロングランになる本が多い印象を受けます。
そうですね。通常5年から6年で絶版になってしまう本が多い中で、ブルーバックスは2000タイトルを出して過去累計10万部以上のヒットになったのが118タイトル、5万部以上で380タイトルありますね。
―ブルーバックスは科学以外にも様々なジャンルがありますが、当初からこの枠組みはあったのです?
初めは手探りで手広くやっていたものがだんだん焦点が絞れてきて、物理学、生命科学、数学が三本柱になっていきました。ただ時代によってジャンルは増えたり統合されて減ったりはしています。昔は工学や化学などのジャンルも多く出していましたが、今は数が少なくなっています。逆に80年代くらいからコンピューターの本が出始めて、Windows95年以後はパソコン本が増えました。
ブルーバックス史上最大累計部数76万部!『子どもにウケる科学手品77』(後藤道夫著/1998)
―今までユニークなジャンルにチャレンジしたことはありますか?
もちろん今まで様々にチャレンジはしてきてます。このブルーバックス歴史スゴロクに出ているのは話題になって売れたものが中心ですが、陰ながら芽吹かなかったものもたくさんあります(笑)。振り返ればやはり科学としてオーソドックスなタイトルが版を重ねていますね。その中でも実は現時点のブルーバックス史上最大累計部数76万部を出しているのが、後藤道夫先生の『子どもにウケる科学手品77』(1998)です。身近にあるものだけで、「超能力だ!」と子どもの目を輝かせるような不思議な現象を再現できる科学の仕組みを利用した手品本なんですが、ブルーバックスの本流ではない中で、今までにない一般の読者層に届けることができた、画期的な本だったかなと思います。

―確かにこれ以後、米村でんじろう先生などがTV出演されて「科学手品」がジャンルとして広く認知された印象がありますね。
一回の増刷で10万部を超える部数を刷ったのはこれくらいではないでしょうか。情報番組などでも取り上げられてすごい勢いで捌けていきました。もう一つ同じ年に刊行した『英語リスニング科学的上達法』(山田恒夫/足立隆弘 ATR人間情報通信研究所)もインパクトが大きかったですね。CD-ROMの付録がついていて、リスニングテストの結果を特設サイトで採点を受けられる仕組みになってました。いち早くインターネットを活用する試みをしたものです。発売当日の新聞紙面で「講談社 オンラインで英語学習サービスを開始」と報じられたりもしました。

―98年というとWindows98で本格的にインターネットが一般の方に普及したころですね。
その2「2000タイトルを突破した科学系新書「ブルーバックス」、編集長が忘れられない3作品」に続きます!
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