『カフネ』の世界にもっと浸れる…阿部暁子さんインタビュー!

こんにちは、ブクログ編集部です。
2025年4月の「【特別企画】2025年本屋大賞受賞作『カフネ』の阿部暁子さんに聞いてみよう!」ではみなさんご参加ありがとうございました。
頂いた多くの質問に、阿部さんが答えてくださいました!

『カフネ』に関する内容や、普段聞けないような質問にも答えていただき、とてもボリュームのあるインタビューとなりました。
改めて作品の世界に浸れるような素敵な内容です!ぜひチェックしてみてください。

※質問と回答の一部には、『カフネ』のネタバレを含む可能性がございます。作品を読んでいる途中の方はご注意ください。

『カフネ』に関する質問

Q.本作を書こうと思ったきっかけや出来事はありますか?

担当編集者と長編小説の打ち合わせをしていた時に「死んだ男性の姉と元恋人の話はどうか」と提案をもらいました。「姉」と「元恋人」と聞いた時に、薫子とせつながやり合っている冒頭のカフェのシーンと、ラストの二人の姿が浮かび、「書きたい」と思いました。

Q.登場人物たちのモデルはいますか?

モデルはとくにいません。

Q.登場する職業や食べ物は、ご自身の経験からストーリーに反映されているのですか?もしくはストーリーが思い浮かんで付随的に情報収集・勉強に努められたのですか?

自分自身の体験や記憶がストーリーに反映されることが多いです。
たとえば、せつなが薫子の落としてしまったケーキをパフェにアレンジする場面は、自分が食べようとしていたケーキを落っことして、せめてもの思いで冷凍庫のアイスをのせて食べた体験がもとになっています。

Q.登場人物たちが、「スキルがあって他人のためには頑張れるのに、自分のこととなると手が回らない」という共通点を持っていたのがとても印象的でした。登場人物についてなにか教えてもらうことができますか?

自分では思いもよらない共通点でした。
私自身、仕事やするべきことがある時は張り切るのですが、ぽっかり時間が空いてしまうと「どうしよう」と少し途方に暮れてしまうところがあるので、そういう部分が物語ににじみ出たのかもしれません。

Q.登場人物たちを通じてどのようなメッセージを届けたいと考えているのか、少しで良いので教えてほしいです。

小説を書く時、「これを伝えたい」という気持ちはあまり持っていないので、少しご質問からは逸れてしまうかもしれませんが、今は多くの人が毎日いっぱいいっぱいになりながら頑張っている印象があります。
だから、部屋が片付けられていなくても、毎日きちんとごはんが作れなくても、恥ずかしくはないし自分を責めることもない、という気持ちで書いていました。

Q.登場する料理がどれも美味しそうだし、作ってもらいたい料理ばかりでした。登場する中で阿部さんが一番好きな料理はなんですか?

私は、チャーハンが好きです。
なぜかというと、チャーハンは冷蔵庫の残り物で手軽に作れる上に失敗も少なく、一品で炭水化物も野菜もたんぱく質も摂ることができ、お皿も一枚でいいので洗いものが少なくて済むからです。

Q.物語の中で登場する「養子縁組」について阿部さんの思いや登場するきっかけがあれば教えて下さい。

少し前に手術を受けたことがあるのですが、その時、家族の同意を求められたり、手術が終わるまで家族に待機してもらうことを求められたりしました。コロナ禍が尾を引いていた時期だったせいもあると思いますが「家族」と「他人」の線引きがとても厳しく、どんなに大切な相手でも、公的に保証された関係がなければ何もできない(何もさせてもらえない)場合がある、と身に迫って感じた出来事でした。
男性と女性であれば婚姻制度がありますが、現時点ではそれを使うことのできないある人とある人が、感情や想いをこえて現実的に相手の力になりたいと願った時、現存する制度に則ることでそれは実現できないのか、と考えた末の展開でした。

Q.阿部さんがもう一度会いたい人はいますか?

他界した父にもう一度会えたら面白いなと思います。

Q.『カフネ』の舞台は東京都八王子市ですが、なぜこの土地が選ばれたんでしょうか?

別の作品で恐縮ですが「パラ・スター」という小説を書いた時に、昭島市を取材し、舞台にしました。その時に隣の八王子市にも足を延ばしたのですが、水辺がきれいな心地いい街だなと感じました。その縁で今回舞台にしました。

Q.八王子市内で阿部さんがお気に入りの場所やおすすめのスポットがあれば教えてください。

東京法務局(八王子支局)の近くの歩道橋に立って、ここを薫子が歩いていくんだなとずっと景色をながめていたので、思い出の場所です。
でも今ふり返ると不審人物だったかもしれないと心配になってきました。

作品以外の質問

Q.私も岩手県出身です。岩手という土地だからこその経験や文化は、何か阿部さんに影響がありましたか?

岩手だからこそ、というのとは少し違うかもしれませんが、冬は毎年雪かきをします。「どれだけやったら終わるんだろう」とか「もう疲れた」などと考えると嫌になってしまうので、終わるまでひたすら黙々とやり続けます。
小説(とくに長編小説)を書くのも、これとどこか似ていると思います。
何十万字もの文字をつらねて物語を作り上げていく時、遠くを見過ぎず、目の前の人物のことをひたすら考えて書くという作業が、昔からずっとやってきた作業と似ているので、長続きしているのかもしれません。

Q.現在も岩手県在住ということですが、岩手での生活で気に入っている点などあれば教えて下さい。

春になると裏庭をキジがひょこひょこ歩いているのが好きです。

Q.『カフネ』は読み終わった時に人に優しくしたい気持ちになりました。阿部さんが読んできた本の中で、読み終わった時に優しい気持ちになった本があれば教えてほしいです!

たくさんありますが、稲見一良さんの『セント・メリーのリボン』は本当にあたたかく愛おしい物語でした。今も初めて読んだ時の気持ちが残っています。
小川洋子さんの『博士の愛した数式』もとても胸を打たれた作品です。

Q.執筆する時のこだわりはありますか?飲み物や音楽など、お供にしているものはありますか?

すぐに気を散らしてしまうので、「書くぞ!」と決めたらスマホを隠します。その日の目標にしていたところまで書くことができたら板チョコアイスを食べていいことにしています。

最後に阿部さんからブクログユーザーにむけて

拙著を読んでくださったみなさん、本当にありがとうございます。お忙しいなか、質問を寄せてくださったみなさんも、どうもありがとうございます。

おわりに

今回の回答を受けて、阿部さんのほか作品やオススメの作品も読んでみたくなりましたね!
改めまして、阿部さんご協力ありがとうございました!
ユーザーのみなさんも素敵な質問ありがとうございました!次回も楽しみにしていてくださいね!

登場した作品

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