こんにちは、ブクログ通信です。
でんぱ組inc.のメンバー、夢眠ねむさんの『本の本―夢眠書店、はじめます―』(新潮社)発売記念ロングインタビュー第2回をお届けします!
前回のインタビュー1回目「いろんな人が携って本が作られていることを、どうしても知ってほしくて」では、夢眠さんが小さかったころの本との関わりから、『本の本』誕生にいたるまでのお話をうかがいました。第2回では、『本の本』で夢眠さんが訪れた取材先の思い出をうかがいながら、「夢眠書店開店日記」連載をしたあとの影響をお聞きします。
取材・文/ブクログ通信 編集部 大矢靖之 猿橋由佳
5. 書店修行をふりかえる
─今回取材をされた中で、夢眠書店としてここが一番勉強になった、やりたいことに近い店だな、と思えたところはありましたか?
勉強になるところはいろいろあったんですけど、「夢眠ねむ」という看板ありきで本屋をやるというところで言えば、やりたい本屋に近いなと思ったのは内沼晋太郎さんとの取材場所、渋谷のHMVさんでした。
自分にやりたいものに近いのは、HMVさんの「出会いをプロデュースする」こと。本をたくさん置くというより、誰かには合うだろうなという本をいっぱい置いて、それを誰かが受け取って読んでくれるって形がすごくいいなと思いました。
─なるほど。
私は80年代を過ごしていないので、上の世代が体験してきたこととかにすごく興味や憧れがありました。だからHMVに80年代についての棚があると知って、自分が興味を持っているものに、そこを見に行けばたどり着ける、または何かしら興味を持てる。何かにたどり着ける幅がある、っていう棚づくりがおもしろいなと思いました。内沼さんの店の作り方はちょっとおもしろいなと。
─こちらの求める本と、書店にあるものが必ずしも一対一でなくてもいい、という考え方をされているのは他の店ではなかったような気がしますね。
他の書店さんはいろんな世代のかたが店に来て、すでに「本を買うぞ」って意欲がある人が多いと思うし、人気ヒット作を必ず置いたり、ある程度売れるものを置くと思うんです。けれど廃盤になっているものとかをむりやり並べるようなこともやりたいと思ってるので、書店のモデルとしてはHMVが一番参考になるし、一番やってみたい書店だな、っていうのがありました。
─HMVさんだと、一つのビルの中にCD、DVDも扱われていますね。そしてファッションの店、カフェや食べ物屋さんも本の売場と繋がってる。あえて雑多で、統一感がないようなところもありますね。
そうですね。雑多なところを許される、「ちょっと開けた」本屋さんをやりたいなと思いました。自分がアイドルながら出版業界に少し足を突っ込ませてもらっているからかもしれませんけど、自分ができることはなんだろうって思うとやっぱりそういう店だと思って。本が嫌いだけど来ました、って人に「そんなあなたにはコレ!」みたいなお薦めを許される場所というか。
紀伊國屋書店さんが「ジャジャン!」と品格ある本を扱うのももちろん大事。でも「あ、わかってる!」っていうお店ばっかりだと、萎縮しちゃったりする人もいると思うんです。
─なるほど。連載ではHMVさん以外のところにも行かれていましたが、その時のエピソードや、勉強になったことなどもお聞きできたらと思うのですが。秋葉原の有隣堂ヨドバシAKIBA店についてはいかがですか?
この店はよく行くところだったので、どんな店員さんがいるかもうっすら分かるような感じでした。店員さんそれぞれが、それぞれの仕方で棚を担当しているんだってことに私はびっくりして。大手書店は「こういう風に作りなさいよ」ってマニュアル通りに棚を作っているのかしらと思っていたんです。
もちろんそういうテンプレートがある棚もあるとは思うんです。けれど、店員さん一人一人が「今はこの街でこれが流行っているからこれを」って陳列をするような、意志がある棚なんだなということに驚きました。書店取材としても最初の方だったので。
後は「書店員あるある」を話せて「あー!」とか話が盛り上がったことが嬉しかったですね。
─ダンボールの持ち方についてお話しされていましたね。
そう、腰骨に置くとかって、明らかに重そうだし無理でしょ?って思ったけどそのダンボールに本が入ってたらやらなきゃいけないっていう。なんか謎の使命感でできちゃうっていう。
─「Title」の店主辻山さんとはかなり深いお話をされていたなと思いましたが、いかがでしたか?
辻山さんは師匠になってくださったんですよね。辻山さんは「ピリッとしたものを効かせる」ということを教わりました。
─売れているものではないが棚に置く、という話もありましたね。
それって本当に何というか「粋」というか。衝撃を受けました。「背中を見て学ぶ」ことが本屋にあるんだって。
マニュアルがあるんじゃないかと思っていたけど、こう、マニュアルには書けない、経験から得ることがあるんだなあ、と。
生活していて自分がちょっと「粋」だなと思うこととか、こうしたらちょっとオシャレになるとか、こうしたらちょっとイケてるなとか……こういう感覚ってこの歳になってくるとみんな一つは学んでくるんだと思うんです。それこそ差し入れの一つにしても。
でも、本棚作りにも、習っていなくても何となく身についたものがあるんだ、っていうことがすごく刺激的でしたね。
─Titleさんは何か本を読みたい、けどどうしよう、と思った時に僕もよく足を運びます。
取材に行ったのにやっぱり本を買っちゃいましたし、あの二階への階段を登っていく感じもすごくよかったです。『本の本』をやっていて正直に思ったのは、本好きが好きそうなものって、ちょっと小粋ないい感じのこのエスプリ……みたいなものかなあ、って思いました。「書店あるある」みたいですけれど、そういうところを刺激されて行っちゃう展示だったりトークショーがありますよね。本が好きな人すべてに何か通じるものが、Titleさんにもすごくあった。
─いわば「はまり込む空気感」がTitleさんのすごさですよね。辻山ワールドみたいな。
ありますよね。辻山さんはやっぱり今風のしゃれた書店でもあるけど、分かっている本好きにも、新しい若い世代の本読みにも、ちょっと他とは違うぜという人たちにも、お客さん全員に響く本棚を作られているのがいいなと思いました。
─三省堂書店のPOP王、内田剛さんについては実際いかがでしたか?
もうPOP王はキャラがいい。しかもこの取材のあと、どこに行っても「内田さんのところに行かれたんですね!」っていうくらい有名です。「POP王」がキャラクターとして成立しておるなぁという。『本の本』でもPOPはカラーにさせていただきました。
─『本の本』はカラーページが結構ありますね。
はい、今回は要所要所、ところどころでカラーページを入れました。POP王はなんていうんでしょう、「先生!」という存在。今までインタビューっていうことで、対談の形式をとりながらも教えていただくことばかりって感じだったんですけど。内田さんはもう、ホワイトボードを使いながら説明してくださって、なんだか授業を聞いてるみたいでワクワクしちゃいました。実際、内田さんがいろんな方に教えているそうなんで、一生徒としてお話を聞いてたんですけどね。先生からPOPの合格をいただいてすぐに使いたいと言ってもらえて。
「ほんのひきだし」連載の中では、それぞれの方が紹介してくださった本を読んで、ポップにするということをやっていたんですけど。そのポップを是非うちで使いたいと言ってくださったのが内田さん。何となくやっていたことが、実際のお店で使われることに感動して。
「ほんのひきだし」連載中、内田さんにPOPを習ったときくらいから、細々と字をいっぱい書くPOPをやめましたね。その本にまつわる色で書きがちだったのを、内田さんの教え通りに反対色を使って書くようにしたり、色でバーンって映えるようにしたり。
─夢眠書店プレ企画「ねむの本棚編」で、その教えは生かされましたか?
連載の時には内田さんの教えを受けて、絵を使って書いたポップがたくさんありました。ねむの本棚の時は、私がどんな思いで本を推薦したのかというところに重きを置いてくださってるかな……と思ったのでチマチマ字を書きました。
─なるほど。ニーズに合わせたポップですね。ニーズに合わせることって、内田さんから受けた教えを吟味しながら受け継いでいるようにも思いますね。素晴らしいです。
紀伊國屋書店新宿本店ではどんな思い出がありましたか。
紀伊國屋書店では、なんかすごく本に詳しい方がいらっしゃいました(笑)私がちょいちょい本を出す時、ツイッターで触れてくださっていた方です。それも大きい書店ならではの一つのやり方だな、って。
ふつう小さい書店だと店主の顔が見えて、どういう風に選んでいるのかが分かりやすいんですけれど。大きい書店はやっぱり、売れる本の入荷もあるし、行けば何かしら欲しい調べ物ができるっていう安心感はある。でも新しく出版される本が「ここにあります」っていうのがすごく分かりづらいという印象があったんです。
それに対して、紀伊國屋さんは注目書はTwitterで「ここにあります」とか「こういう置き方をしてます」っていうのをすごく発信していらっしゃって。お客さんの足が向きやすいようにされているな、って取材に行く前から感じていたので、お話をうかがいました。
[仕入速報]夢眠ねむさん(@yumeminemu)の『まろやかな狂気』(星雲社)が最速入荷! 「夢眠書店開店日記」で書店好きにもおなじみ、いつか本屋をつくろうと試みている、ねむきゅんの最新刊です(当店にも研修にいらっしゃらないかな……)1F、2Fにまもなく並びます。Y.O. pic.twitter.com/BZ5ZmWCSQB
— 紀伊國屋書店 新宿本店 (@KinoShinjuku) 2016年11月7日
─Twitter発信は家で見られるPOP、っていうことを見抜いてらっしゃいましたね。
まぁPOP王の弟子なので!(笑)デジタルPOPだと思ったわけです。
─夢眠さんの観察眼が発揮されていました。
でもアカウントで情報を発信しちゃうと、売り切れになったとき、「何でないんですか?」とか聞かれるだろうし、そういう矢面にわざわざ立っているのってしんどそう……と思いました。
『まろやかな狂気』刊行時、紀伊國屋書店新宿本店ではTwitterで入荷情報を書いて、発売日前に完売してくださって。めちゃ人気!みたいな感じが出た(笑)そこからみんな慌てて予約、ってという流れになりました。作者にとってすごくいい流れを作っていただけたなという思いはありましたね。
─しかしファンの方々って品切れについては許してくださるどころか、むしろ人気が証明されていることを喜んでくださっているかたがとても多い印象です。
確かに多かったですね! 逆に喜んでくれました。本当に嬉しいですね。
あと、紀伊國屋書店さんは本に対しての敬意というか、みんな「本さま」みたいな感じで丁重に扱っているのが分かって、すごく嬉しかったりしましたね。たとえば本の下に敷物を敷いたり、とか。
6. もっと出版業界を知ってもらいたい─「夢眠書店開店日記」のあとで起きた変化と影響
─『本の本』の取材は、書店、出版元の有名どころ、有名な方々をおさえていますね。
『本の本』って結構、異常な本だと思うんですよ。いろんな書店さんや出版社さんを回ってお話をうかがって、こんなにいいの?みたいな。
─夢眠さんご自身は、これまでに本は何度も書かれていますけれど、実際の現場でこういった流れがあったということはご存知だったんですか?
やっぱり本屋さんで働いていたので、だいたいこういう流れだとは知っていました。本についての本も好きだったし、本に関わるデザイナーになりたいっていう時期も本当はあったので。でも、流れは分かっていたんですけど、その規模がこんなに大きくて、こんなにたくさん人がいてとか、ここは手動、そこはコンピュータ、などなど知らないことがたくさんありましたね。
─特に『本の本』後半部は、いわば本の裏方たちとお話をされています。そのなかでは、おそらく「本の流通センター」が、読者にも夢眠さんにも一番想像がつきにくい場所だったかもしれませんね。
おもしろかったですね。大きな本屋さんに行っても思うことなんですが、「私はこの世にある本をほとんど読んでないんだ……」っていう喜びと悲しみ入り混じる感情に襲われることが時折あります。本の流通センターではその感情のすごい版が押し寄せてきたんです。この本たちは書店に運ばれて行くんじゃの〜……みたいな感慨もあって(笑)
なんか本当に、広い世界というか、初めて東京に来たときのような気持ちになりましたね。スクランブル交差点を前にしたときみたいな気持ちになりました。
─ありがとうございます。「ほんのひきだし」の連載を始めてから、夢眠さん本人に起きた変化や影響ってありましたか?
本は好きだと言っているんですけど、やっぱり読む数は減っていたんですよ。忙しいのを理由に、読む数は学生時代より明らかに減っていた。学生時代は1日2冊とか読んでいたのに、今やもう1ヶ月に1冊読書できればよいくらいにまでなっちゃってたし、本は買うけど積読になってたんですね。それをちゃんと読まなきゃなって思いを新たにすることがあったり。
あと、「この本屋に行くたびにめっちゃ買っちゃうんで読まないとな〜」みたいなことが実際あって、学生時代まではいかなくても空き時間に極力本を読む時間を取り戻せるようになってきて。やっぱり本を読むのって、習慣にしちゃえばいいじゃないですか。開けば読む、みたいな。だからその開く頻度を元に戻す努力をしたら、やっぱり読む冊数が増えていった。学生時代の読書生活が心地よかったので、「あ、あの頃に戻れたらいいな」とも思いましたね。
─アイドル活動に影響するところはありましたか。
そうですね。アイドル活動そのものに直接の影響はないですけど、本のお仕事が増えたっていうことはありますね。たとえばファンの方が「ねむちゃんが本を書いてるから本を読んでみました」って声をダイレクトに聞くだけで嬉しいし、自分のファンの方と同じものを共有できるっていうのは嬉しいことなんです。私の好きなものを好きになってもらえたりとか、逆に「俺にとっての生涯の一冊はこれです!」っていうのをファンレターでいただいたりして、その本を読んだりしたこともありました。自分が読む本の間口を広げてくれたかなというのはありますね。とにかく、本について話せる時間が増えました。
─本に対する問題意識が連載を続けることで深まったり、考えなおしたりすることはありましたか?
最初は本について仕事がしたい!ってただただ何かをやりたい欲から始まったことなんです。けれどいろんな方と話している中で、本当に感謝をされるようになって。「ねむちゃんが言ってくれると盛り上がるよ」とか中央公論新社の東山さんが言ってくれたりもしました。
そういうのがすごいありがたいのと同時に、そんなに力がないかもしれない自分がこんなに喜んでもらえるっていうのは、「本に関わる仕事をしている人は本当にみんな困っているかもしれん!」と思って。極力、力になりたいし、本のイベントとかにも出させていただくことで自分も学びになるし、出版の方も喜んでくれる。こういう仕事を続けていって知ってもらえることがあるなら、この仕事を増やさないと、って思いは強まりましたね。
─なるほど。
ドラマで校閲がすごい仕事ってことが広がりましたよね。本とは違う、テレビなどのメディアが入ってくることでそのすごさを知られることって多いですよね。出版業界内では校閲もすごさが当たり前で、ありがたられるのも当たり前。出版業界内では、すでにそう理解されてるけど。
「うわ!こんなことが繰り広げられてるんだー!」っていうビックリなところ、みなさんが当たり前にやっている技術ってすごいことなんだぞ、っていうのを知ってもらいたい。自分の当たり前の先に、たくさんの人がいるのを知るだけで、ちょっと愛おしくなれる。本に重みが出る。みなさんと触れ合ったことを記事にしたとき、そのことを知らなかった人の反応とかを見て体感したので、これはきっと大事なことに違いないと信じてやろうと思っていました。
─これで締めることができるくらいよい話を聞けました。……でも、もうちょっとだけ夢眠書店の話を聞きたいと思います。
夢眠さん、ありがとうございました!インタビュー第二回目はここまで。三回目では、夢眠さんが実際に選書した夢眠書店プレ企画「ねむの本棚編」のことについて、詳しくお伺いします。「DJのように本と本の流れを考えた─でんぱ組inc.夢眠ねむさん『本の本』刊行記念インタビュー(その3)」をぜひご覧ください!
夢眠ねむさん本人による『本の本』紹介動画、まだご覧になっていないかたはぜひどうぞ!
関連リンク
「いろんな人が携って本が作られていることを、どうしても知ってほしくて─でんぱ組inc.夢眠ねむさん『本の本』刊行記念インタビュー(その1)」
「DJのように本と本の流れを考えた─でんぱ組inc.夢眠ねむさん『本の本』刊行記念インタビュー(その3)」
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