「新書大賞2018」の舞台裏!時代を映しながら時代を超える「新書」の魅力を歴史から振り返る――「新書大賞」担当工藤尚彦さん独占インタビュー!

こんにちは。ブクログ通信です。

今年で11回目を迎える「新書大賞2018」が発表されました!こちらで10位までの著者プロフィールから内容紹介を一挙紹介していますのでお見逃しなく!

今回、「新書大賞」主催する中央公論新社担当の工藤尚彦さんにインタビューを実施しました。4回もブームがあった「新書」の歴史から、2008年「新書大賞」創設の経緯、今回の「新書大賞2018」の意外な票の傾向?などさまざまにお話をお伺いしました。読めば「新書」と「新書大賞」がよりわかることうけあいです。

取材・文/ブクログ通信 編集部 持田泰

4回もブームがあった!?「新書」の歴史を振り返る

中央公論新社『中央公論』編集部「新書大賞」担当工藤尚彦さんにお話をお伺いしました!
過去の「新書大賞」冊子と『中央公論』特集号も一同ずらり!

―よろしくお願いいたします!こちら机に並べていただいた「新書大賞」の冊子というのは、毎年作っているものなんですか?

「新書大賞」は、2008年に月刊『中央公論』3月号の特集企画としてスタートしました。それが好評だったので、2009年、2010年には「別冊」として刊行しましたが、別冊単体で採算が合うほどではなかったので(笑)、2011年から再び特集企画に戻し、現在も続いています。

―なるほど。そもそも「新書大賞」スタートの経緯からお話をお伺いしていいですか?

皆さんの記憶にも新しいと思うのですが、2000年代半ばに「第4次新書ブーム」がありました。養老孟司さん『バカの壁』(新潮新書 2003年)は累計で400万部を超え、そこから2006年にかけて樋口裕一さん『頭がいい人、悪い人の話し方』 (PHP新書 2004年)や、『さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学』(光文社新書 2005年)など、モンスター級のヒットが新書で相次ぎました。そのブームを受けて、2008年に「新書大賞」が創設されたんです。

養老孟司さん『バカの壁』(新潮新書 2003年)

―「第4次」というとそれまでも何度か「新書ブーム」があるんですね。その歴史も振り返っていただけますか?

はい、「新書大賞」の企画として、新書の歴史を振り返る企画をやったことがあるので、それら資料から振り返ってみたいと思います。まずは今年で80周年になる「岩波新書」が1938年に刊行開始されました。こちらは1937年にイギリスで創刊されたペリカン・ブックスにヒントを得て、翌38年から刊行されたそうですが、その発案者は昨年マンガ化されて大ヒットした『君たちはどう生きるか』原作者、吉野源三郎さんだそうです。

―おお!そうなんですか。岩波書店さんは昨年から吉野源三郎さんが何かと噛んできますね(笑)。

そうですね(笑)。そして戦後の1954年2月に中央公論社から出た伊藤整『女性に関する十二章』が新書判型でベストセラーになり、翌1955年にかけてさまざまな新書判の本が各社から出ました。この期間が「第1次新書ブーム」です。当時はまだ、「中公新書」というレーベル名はありませんでした。

1954年ベストセラー伊藤整『女性に関する十二章』(中公文庫Kindle版)

―そうだったんですか。

そして1962年に満を持して「中公新書」がレーベル化されると、翌1963年に「講談社ブルーバックス」、更に1964年「講談社現代新書」と今なお続くレーベルが刊行されます。その他にも、さまざまな新書レーベルが生まれます。当時、筑摩書房さんは「グリーンベルト」(1963~1966年)というレーベルを出されていたようです。その60年代半ばが「第2次新書ブーム」ですね。

―「グリーンベルト」なんて新書レーベルがあったんですか!初耳です。

今の「ちくま新書」の先代にあたるものでしょうか。一方で、1954年には光文社「カッパブックス」が創刊されています。当時、岩波新書の存在はとても大きく、岩波の「教養」とは一線を画した、「庶民」路線の気軽に読むことのできる新書として誕生しました。こちらも60年代~80年代にかけてベストセラーを連発しています。

―多湖輝さん『頭の体操』(1967年)とかですよね。実家の棚にありました。

うちにもありました(笑)。80年代後半にいったん新書ブームが落ち着きますが、90年代に入ると本川達雄さん『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学』(中公新書 1992年)、野口悠紀雄さんの『「超」整理法』(中公新書1993年)、永六輔さん『大往生』(岩波新書 1994年)など大ヒット作が続出して、90年代後半から再び新書レーベルラッシュが起こります。1998年「文春新書」、1999年「集英社新書」「宝島新書」、2001年「光文社新書」などが続々と創刊されました。ここが「第3次新書ブーム」になりますね。

本川達雄さん『ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 』(中公新書 1992年)

―なるほど。確かに世紀の変わり目あたりから「新書」が爆発的に増えた印象がありますね。

そして先ほどの2000年代半ばに養老孟司さん『バカの壁』(新潮新書 2003年)を皮切りにして「第4次新書ブーム」が起こる、という流れです。

「新書大賞」の採点方法

―その4回のブームを経て、ついに「賞」が創設されたと。それまでにこういった、「新書」という判型のみのアワードをというのは、過去、各社さんどこもやってなかったんですね。

第1回「新書大賞」の『中央公論』2008年2月号の特集から始まった!

はい。ちょうど「第4次新書ブーム」の少し前から、書店員さんや読者の方が選ぶ「本屋大賞」や「このミステリーがすごい!」など、「身近な人が薦める本の賞」が創設され始めました。識者が選ぶ、伝統的な「芥川賞・直木賞」などとは違う形のものですね。

―確かに、ちょうどそのタイミングですね。「本屋大賞」が2004年で「このミス」が2002年ですものね。

そうです。そういった時代の波に乗ったという感じです。

―ちなみに僕はそこまで新書を買うほうではないとは思うのですが、2008年から2018年まで毎年5位までのタイトルを眺めてみると、そのうちの1冊はやっぱり持ってるんですね(笑)。やはりどれも話題作ですが、これはもともと話題作であったものが選ばれるのか、「新書大賞」の効果から話題になったのか、どちらなんでしょう?

もちろん、大賞として決まる頃には既に話題作となっているものもあります。ですが、2008年の大賞は福岡伸一さんの『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書 2007年)でしたけれど、当時の話を前任者に聞くと、良書として既に話題にはなっていたけれども、売上としてはまだ「大ヒット」作ではなかったようです。「新書大賞」に決まったことで、話題に拍車がかかったそうですね。

福岡伸一さん『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書 2007年)

―そうなると「新書大賞」は、その時の話題作がそのまま選ばれる、とは言い切れないわけですね。

今回で11回目ですが、「新書大賞」の創設時から比べると、話題作が増えている傾向はありますね。その理由として、投票者の人数の増加があります。2008年、創設時の投票者は30人でした。有識者、そして書店員さん、各出版社の新書編集長の合計30人で決めていたのですよ。2009年に別冊化するにあたって、もう少し投票者を増やしたいということで、当初の2倍、60人にしたんですね。そこからいろいろ変動しながら、今年の投票者は86人でした。やはり選考委員が増えていくと、投票が話題作に寄っていくようにはなりますね。

―なるほど。

投票の配点の難しさもあります。皆さんにオススメする5冊を挙げてもらうのですが、当初は、1位に5点、2位に4点、以下、3点、2点、1点という、1点ずつ配点が下がる投票方法でお願いしていました。でもそうすると、得点が分散せず、団子になってくるのです。第1回には、同点14位が17点もあがったことがありました。我々も試行錯誤し、最終的に、1位に10点、2位に7点と、配点にもう少し傾斜をつける方式にしました。

―選考委員が今年は86名とのことですが、毎年こうやって少しずつ増えてきてるってことなんですね。

その年によって増減がありつつ、今は最高人数ですね。

―この86名が選ばれる基準というものはあるんですか?

見識と発言力のある有識者と、出版社の新書編集部、新聞社文化部、そして書店員さんに声をかけています。実際はこの倍ぐらい、150名ほどに依頼し、最終的に投票して下さったのが86名になりますね。

―この得点順位で出す方式に関しては、この10年変わらないスタイルですよね?

配点は少し変わりましたが、1~5位までを挙げてもらう方式は変わっていません。

『2018年新書大賞』を振り返る――識者票・編集者票・書店員票のそれぞれの傾向

―その採点ルールとなると、ゆくゆくは同点1位ってこともあるんですかね?ダブル受賞みたいなことも。

理屈としてはありますね。

―逆にそれも見てみたいような(笑)。それはそれで、「票が割れた!」ということでなかなか面白いかと思いますね。

今回も1位に輝いた前野ウルド浩太郎さん『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書2017年 ※以下略『バッタ』)と、2位の河合雅司さん『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書 2017年 ※以下略『未来の年表』)の得点は10点差です。

前野ウルド浩太郎さん『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書2017年)

―そんな僅差だったんですか!

はい、かなりの接戦で、1位の『バッタ』と、2位の『未来の年表』の2つが飛び抜けて高得点でした。得点を有識者票・編集者票・書店員票のカテゴリー別に見ると、『バッタ』はまんべんなく得票しています。対して『未来の年表』は、編集者票・書店員票が多く、有識者票は少なめでした。一方、3位の三谷太一郎さん『日本の近代とは何であったか――問題史的考察』(岩波新書2017年 ※以下略『日本の近代』)は有識者票が非常に多かったのです。有識者票だけのランキングにしてみると、1位は実は……。

―なんと!有識者では三谷先生の『日本の近代』が1位だったんですね。

三谷太一郎さん『日本の近代とは何であったか――問題史的考察』(岩波新書 2017年)

はい。有識者には『中央公論』に登場・寄稿してくださる政治学者・経済学者の皆さんが多く、その方たちが圧倒的に三谷さんの『日本の近代』を推していました。『バッタ』も有識者票が集まり、2位ですね。他方で、『未来の年表』は編集者が多いのです。ここ2年くらい特に顕著なのですが、「企画が面白いもの」「売り方がうまいもの」に編集者票が入る傾向にあるんですよ。

―なるほど。

「売り方の妙」は近年だいぶ問われるようになってきた?!

創設当初の「新書大賞」は、編集者の票は、マイナーかつマニアックな「内容はいいけれど、埋もれているもの」に投じられる傾向がありました。しかし近年は、「タイトルのつけ方」や「時代の嗅覚があるもの」のウケが編集者にはいいようです。2018年の『バッタ』は、「内容」「タイトル」「カバー」の三拍子が揃っていましたから、文句なしに一位に推されたのだと思います。

―ほんとに今でも売れてますもんね。前野ウルドさんのほうは、毎日出版文化賞もとっていて、他にもいろいろと。

バッタを倒しにアフリカへ』で2018新書大賞に輝いた前野ウルド浩太郎さん。
おめでとうございます!

さわや書店さんの年間ベストを選ぶ「さわベス新書大賞2017」もですね。芥川賞作家の絲山秋子さんが一年間に読んだ本のなかで一番面白かったものに対して個人的に敬意で与える「絲山賞」も取られたそうです。余談ですが、前野さんは秋田県出身で、私も秋田県出身なんですよ。人口減少などさみしいニュースが秋田には多いので、同郷の方が新書大賞に輝いたのは個人的にも嬉しかったですね(笑)。

―前回の大賞作、橘玲さん『言ってはいけない』(新潮新書 2016年)も読ませていただきましたが、確かにタイトルと帯、中吊広告でも割とセンセーショナルなイメージを前面に出していましたね。

橘玲さん『言ってはいけない』(新潮新書 2016年)

その点でいえば、今年は2位の『未来の年表』が面白いですね。「未来予測の本」はたくさんありますが、「年表形式」というのは、あるようでなかった。また、『未来の年表』というタイトルも簡潔でわかりやすいですね。みんながモヤッと抱いている「人口減少」の不安を、起きるであろう具体的な問題に落とし込んでいる。企画と切り口が優れた一冊だと思います。

―『未来の年表』帯はそのまま広告にかけたような形では新聞広告をふんだんに使っていたのよく見かけましたので、広告が出るたびに売上が上がったのではないですかね。

書籍の「売り方の妙」は、近年強く意識されていると思います。出版不況と長らく言われていますが、ここ1、2年はさらに厳しくなった。その裏返しなのでしょうね。気持ちにもう少し余裕があった「新書大賞」の設立時は、各社の編集者が「スポットライトを浴びてない本」を紹介したいという思いがあったと思うのです。けれど今は、売れるものを作って稼がないことには良書も出せない。そういった編集者の焦り、苦しさが投票にも表れている気がしますね。

河合雅司さん『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』(講談社現代新書 2017年)

「新書大賞」は早い時期に出た方が有利?!

―去年のノミネートで、呉座勇一さん『応仁の乱 – 戦国時代を生んだ大乱 』が今の話から比較するとあまりにも「実直」なんですけど、にもかかわらず大ヒットを飛ばしました。去年はタイミング的に……。

呉座勇一さん『応仁の乱 – 戦国時代を生んだ大乱』(中公新書2016)

そうなんですよ。新書大賞は2016年12月~17年11月までに刊行されたものが対象なので、2016年10月刊行の『応仁の乱』は昨年の対象でした(新書大賞2017で5位)。もし刊行日がずれていれば大賞だったのでは……、と妄想してしまうのですが、それは各社の編集者がそれぞれに抱く思いなので(笑)。

―やっぱり、年間で早い時期に出る方が有利なんですかね。今回も10位まで入っているのは、2017年上半期までのものばかりですね。二桁月、10月・11月っていうのは、やっぱり下に来ますもんね。

対象期間において早い時期の刊行だと、内容も売上もよくわかるので、投票しやすいと思います。ただ、対象期間の後半では不利であることを投票者側も認識していて、その事情を汲んで投票してくださる方もいますね。

―しかしさきほどの、この有識者票と編集者票、また書店員票によって、順位が違ってくるというのは大変面白いですね。

今回は『未来の年表』で編集者票が突出していましたが、おおよその投票傾向は似てきます。ちなみに、もう少し編集者票について見てみると、岩波新書・中公新書・講談社現代新書など、昔ながらのレーベルの編集者は「売り方がうまいもの」「キャッチーなもの」に票を入れる傾向があって、割と歴史の新しいレーベルの編集者は、「硬めの渋いもの」に票を入れる傾向があります。

―ああなるほど。「隣の芝は青く見える」現象っていうのですかね。「これはうちでは出せないなあ」みたいな感じなんですかね。

11年間で大賞に輝いた数が最も多いレーベルは!?

―過去11年間、どのレーベルが今まで一番取ってるのですか?

上位20タイトルでくくると、中公新書が多いですね。まあ同情票というか「新書大賞運営お疲れ様」という意味も込めての票も多いと思うんですけど(笑)。今年も、上位20タイトルのうち8作品が入っています。大賞は講談社現代新書が4回獲得し、一番多いですね。我々、中公新書の大賞受賞作は2015年度の増田寛也さん『地方消滅』(中公新書 2014年)のみですね。

増田寛也さん『地方消滅』(中公新書 2014年)

―昨年の吉川洋さんの『人口と日本経済 – 長寿、イノベーション、経済成長』(中公新書 2016年)が2位で惜しかったですよね。

吉川洋さんの『人口と日本経済 – 長寿、イノベーション、経済成長』(中公新書 2016年)

惜しくも僅差で涙を飲んだのです。ものにもよりますけど、大賞を獲ると最低でも5万部は増刷がかかるそうです。『バッタ』もとりあえず4万部の増刷が決定したそうですね。

―もう早速増刷!

新書大賞2016の大賞、井上章一さん『京都ぎらい』(朝日新書 2015年)は、10万部以上増刷されたと聞きました。こちらも「新書大賞」を獲る前から既に売れてはいましたけれど、ベストセラーまでではなかったはずです。大賞受賞がきっかけで、書店さんが慌てて展開を始めたようです。

井上章一さん『京都ぎらい』(朝日新書 2015年)

10位以下は「堅実なもの」が選ばれる傾向

―例えば、大賞が発表されると、過去の「新書大賞」も同時に動いたりするものなんですか?

さすがに過去のタイトルは動かないでしょうね。やっぱり今年のトップテンですかね。

―新書大賞トップテンまでは、帯を巻かれるんですよね?

本屋さんでこのエンブレムの帯をみかけたら要チェック!

そうですね。トップテンの各出版社さんには「新書大賞」エンブレムを「自由に使ってください」と配布しています。

―あ!惜しい!11位に池田嘉郎さん『ロシア革命 破局の8か月』(岩波新書 2017年)も入ってましたか。つい先日読んだんですけどとても面白かったです。

池田嘉郎さん『ロシア革命 破局の8か月』(岩波新書 2017年)

上位には結構キャッチーなものが来ますけど、10位以下は堅実なものが選ばれますね。

―20位以内だと服部英雄さん『蒙古襲来と神風 – 中世の対外戦争の真実』(中公新書 2017年)も小川剛生さん『兼好法師 – 徒然草に記されなかった真実』(中公新書 2017年)も入って。やはり中公新書は「歴史」に強いですね。今年も20位以内に8タイトルと結構な数が上位に入っていますよね。例年になく中公新書が、そういう形で堅実な評価を受けたと言うこともできそうですよね。

服部英雄さん『蒙古襲来と神風 – 中世の対外戦争の真実』(中公新書 2017年)
小川剛生さん『兼好法師 – 徒然草に記されなかった真実』(中公新書 2017年)

今回『中央公論』の「新書大賞」特集の中で新書編集者の座談会を実施しましたが、その中でも同様におっしゃっていただきました。中公新書が非常に安定していて、いいものを作っていると。同じ会社の者として嬉しいですが、それに甘んじず……というところでしょうか。

「時代」が反映されている一方で、「時代」の反映だけでは伝えられない作品もならぶ『新書大賞』

―過去11年を振り返って、いろいろと何かトピックスはありますか?

「新書」は時事問題が反映されるのが特徴的ですね。2006年に小泉政権が終わりましたが、第1回の新書大賞には、政権を総括するものがランク入りしています。2008年に世界金融恐慌が起こり、2009年の新書大賞は堤未果さん『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書 2008年)、2位の神谷秀樹さん『強欲資本主義 ウォール街の自爆』(文春新書 2008年)が並んでいます。

堤未果さん『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書 2008年)

―確かにそうですね。

一方で、時事的なものばかりではなく、時代に左右されない良書もありますね。端的には、先ほども挙げた第1回大賞の『生物と無生物のあいだ』。2011年新書大賞では、村山斉さん『宇宙は何でできているのか』 (幻冬舎新書 2010年)という時代を超越する本が大賞を獲っています。

村山斉さん『宇宙は何でできているのか』 (幻冬舎新書 2010年)

――内田樹さん『日本辺境論』(新潮新書)が2010年ですか。この年、小池昌代さんの『通勤電車でよむ詩集』(生活人新書 2010年)なんて珍しいものも混ざってたりしたんですね。

新書で「詩集」というのはレアだったので、書店員さんの間でも話題になったようです。新書大賞の講評をいつもお願いしている永江朗さんが仰っていたのですが、「新書はデフレ商品」なんだと。確かに、第1次新書ブームの1954年の頃もデフレだったようです。そう考えると、2000年代に始まる第4次ブームも、デフレに乗ってやってきたのだな、と改めて思うところですね。

小池昌代さんの『通勤電車でよむ詩集』(生活人新書 2010年)

「売り方がうまいもの」が注目されるようになったワケ

―実際、2008年のタイミングの出版点数と、2018年での新書出版点数って、また格段と数字が膨れ上がったりもしているんですかね?

増えていますね。新書は書き下ろしがほとんどですが、最近は単行本を新書化したり、文庫を新書化するケースもあります。企画が十分に練られていないものを出すよりも、過去の名作を新書化したほうが経営効率がいい、という声もありました。

―「アメトーク」読書芸人でカズレーザーさんが紹介されていた眉村卓さん『妻に捧げた1778話』(新潮新書 2004年)も『僕と妻の1778話』で 集英社文庫から2010年に出てますよね。確かに最近よく見かけるような気がしますね。

眉村卓さん『妻に捧げた1778話』(新潮新書 2004年)

取次会社さんに新書のデータを見せてもらうと、レーベル自体の数も増えています。

―そうですよね。本屋さん行っても、やっぱり新書コーナーが一つメインプレイヤーみたいな感じでバーンと積まれてるみたいな印象がいつもありますからね。先ほどお話ししていた、当初は「本屋大賞」的に、「実はいい新書があるからもっとフォーカスしたい!」っていうところから、明確に傾向が変わってきたなぁ……という節目の年はありますか?

どうでしょうね……。編集者票の変化でより顕著だったのは、ここ2回だと思います。例えば以前から投票コメントに、「タイトルの付け方がうまい」というものは結構あったのですが、「売り方がうまい」というストレートな表現は、ここ2回でよく見られているような気がします。

―先ほどの出版不況の話もあり「売り方」はやはり新書を見極めるうえで大事になってきていると。

「新書大賞」の季節が近づくたびに、投票制度を見直すべきか、編集部でも「大賞たる新書とは何か」を議論しています。「売り方」が最優先なのであれば、それはベストセラーランキングを見ればいいわけで、新書大賞が存在する意味がありません。 とはいえ、「内容が良いもの」という指標も人によって当然違うわけです。編集部での議論もいつも何周もするのですが(笑)、最終的には「オススメの新書を5点、順位付けして投票してもらう」という方法に落ち着きます。最善とは言いきれませんが、投票者に総合的に判断してもらう現在のやり方が妥当なのかと思っています。編集者の注目が「売り方」に集まっているのは、出版不況の裏返しなのでしょう。

―可処分時間の奪い合いの中で、出版点数もどんどん増えてくる中で、1年に1回の「新書大賞」ですけれども、先ほどもお話があったように、今後もしかするとあらゆる本が新書化していく可能性があるのではないかと思うと、1年に1回「新書大賞」をやってればいいってレベルから、さらに上半期・下半期みたいな(笑)ことは?

まぁ……そうですね、マンパワーがあればやりたいとは思いますが(笑)

<了>


新書大賞(しんしょたいしょう)とは

2008年に創設された中央公論新社が主催する新書に関する賞。1年間に刊行されたすべての新書から、その年「最高の一冊」を選ぶ賞です。 今回で第11回を数える同賞は、第1回に福岡伸一さん『生物と無生物のあいだ』、第2回は堤未果さん『ルポ 貧困大国アメリカ』、第3回は内田樹さん『日本辺境論』を大賞に選出し出版界に大きな反響を呼ぶ。2018年は前野ウルド浩太郎さんの『バッタを倒しにアフリカへ』(光文社新書)が大賞に輝く。
https://www.chuko.co.jp/special/shinsho_award/

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