こんにちは、ブクログ通信です。
NHK Eテレで放送されている人気番組NHK「100分 de 名著」公式ページの2018年8月度は、夏休み特別編「for ティーンズ」。25分×4作品で、ヤマザキマリさんが『星の王子さま』、瀬名秀明さんが『ソロモンの指環』、若松英輔さんが『走れメロス』、木ノ下祐一さんが『百人一首』を紹介します。

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今回のブクログ通信では「100分 de 名著」で扱われる4作品をご紹介します。番組で使われる本をご紹介するだけでなく、さまざまな翻訳や版、手に入れやすいものも一緒に見比べていきましょう。複数の出版社から発売されているものも取り上げますので、番組が始まる前に参考になればと思います。夏休みの読書感想文でも定番の作品もありますから、感想文の参考になれば幸いです!
8月6日放送 自分の足場をつくる サン=テグジュペリ『星の王子さま』

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児童文学の古典であり名作、サン=テグジュペリ『星の王子さま』をヤマザキマリさんが取り上げます。放送は8月6日(月)で、再放送が8月8日(水)、8月9日(木)にありますね。ヤマザキマリさんによれば、「『星の王子さま』は、いつ読んでも、『最初の自分』に戻ることができる本です」。そして、「この本が長い間ベストセラーになっているのは、たくさんの人にとって、人生で何度も読み返す本になっているからだと思います」。
『星の王子さま』は砂漠に不時着した飛行機操縦士が、どこかの国から来た王子さまと出会い、これまでの星をめぐった旅の来歴を聞きながら、親しくなっていく物語です。この作品はフランスの作家・飛行機パイロットだったサン=テグジュペリによって1942年に書かれ、1943年に出版されました。しかし1944年の戦時下、サン=テグジュペリは飛行機で偵察飛行に飛び立ち、地中海で消息を絶ちました。
『星の王子さま』の翻訳について
『星の王子さま』の翻訳は内藤濯(ないとうあろう)さんによるものが長く親しまれており、これまでに一番読まれてきた定番訳のひとつとされています。今回の「100分 de 名著」で使用されているのも内藤さんの翻訳書です。表現にやや古い部分があるかもしれませんが、読みやすい訳となっています。
なお2005年に独占翻訳権が切れたため、多数の翻訳が刊行されました。もし「100分 de 名著」から離れて他の訳書を探すなら、以下に挙げる翻訳が手に入りやすく、評価が高いです。

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作家・池澤夏樹さんによる翻訳です。端正で、大人向けの文学作品に仕立てるかのような日本語訳になっているので、中学生から上のかたがたが読むのに適しているかもしれません。

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フランス文学者の野崎歓さんによる翻訳です。フランス語を忠実に訳しており、題名も『ちいさな王子』と原題に近いものになり、各訳語は現代的なものが使用されています。「~だ」「~である」などの言い回しを用いていることもあって、児童文学的な雰囲気がやや弱まって、古典文学の印象が強く出る翻訳となっています。
それぞれタイプが異なる翻訳で、これ以外にも多くの翻訳があります。大きめの書店でそれぞれをチェックして、自分に合う訳文を見比べてみるのもいいかもしれませんね。
8月13日放送 科学の本は面白い! ローレンツ『ソロモンの指環』

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動物行動学者コンラート・ローレンツの『ソロモンの指環』を取り上げるのは、作家の瀬名秀明さん。放送は8月13日(月)で、再放送が8月15日(水)、8月16日(木)にあります。瀬名さんはこの本から得られるものを、「動物の行動は、生まれつきの遺伝的なものと後天的な学習との、バランスの結果であること。そこから人間という動物についても、学ぶことができること。そしてなにより、科学の本は面白い!ということです」と述べています。
『ソロモンの指環』は、ローレンツがまだ若かったころの逸話から動物にまつわるエッセイまでをまとめた一冊で、ローレンツが観察した動物たちの面白い行動、娘が動物たちに攻撃されケガしないよう庭の檻の中に娘を入れた逸話などなど、興味深い逸話満載です。1949年に出版されていますが、内容はけして古びておらず、読み手を楽しませてくれます。
『ソロモンの指環』の翻訳について
1963年、初めて邦訳が早川書房から単行本で刊行されました。その後1970年、1975年、1987年の改定を経て、1998年に初の文庫化。なお2006年に単行本新装版が刊行されています。いま入手可能なのは、先に挙げた文庫版と、単行本新装版です。

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今回の「100分 de 名著」で主に使われるのは文庫版ですが、大きな文字で無理なく楽しく読める単行本版もオススメです。なお古本で過去発売された版も出回っていますが、翻訳が古かったり(1970~1987年の版には原著「第二版のまえがき」未収録)、本文の組版が読みにくかったりすることがありますのでご注意ください。
8月20日放送 「主人公」は誰か 太宰治『走れメロス』

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批評家・若松英輔さんが『走れメロス』を解説します。初回放送は8月20日(月)、再放送が8月22日(水)、8月23日(木)です。若松さんは「メロスは主人公か?」という問いを投げかけて、「確かにメロスがいなければ物語は進まない。しかし、もっとも大きな変化を経験したのはメロスではなく、『王』ではないでしょうか」と語ります。そして、メロスの心と王の変化を中心に物語を読み込んでいくのです。
1940年に発表された太宰治『走れメロス』は原稿用紙にして26枚、非常に短い物語です。さまざまな出版社から『走れメロス』の題で文庫が発売されていますが、太宰のその他短編・中篇が同時収録され、一冊の文庫になっています。それぞれのレーベルで収録作品が違っているので、読みたい作品が収録されているものを選んでもいいかもしれません。代表的な文庫レーベルをご紹介します。
『走れメロス』主な文庫レーベルの収録作
「100分 de 名著」で主に用いられるのは先にご紹介した新潮文庫版『走れメロス』ですが、ここでの収録作は『ダス・ゲマイネ』『満願』『富嶽百景』『女生徒』『駈込み訴え』『走れメロス』『東京八景』『帰去来』『故郷』の全9編です。奥野健男の解説と、詳細な年譜が収録されています。

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岩波文庫版『走れメロス』は、ほかに『富嶽百景』『東京八景』『女生徒』『きりぎりす』『駈込み訴え』『魚服記』『ロマネスク』『満願』『八十八夜』が収録されています。戦前の作品10篇に絞っていること、そして井伏鱒二による解説が収録されていることも大きな特徴です。

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文春文庫版『走れメロス』には、『斜陽』『人間失格』『ダス・ゲマイネ』『満願』『富嶽百景』『葉桜と魔笛』『駈込み訴え』『走れメロス』『トカトントン』『ヴィヨンの妻』『桜桃』が収録されています。『斜陽』『人間失格』という著名な二大中篇が収録されているのがポイントです。また奥野健男作成の年譜、臼井吉見による作品案内と作家評伝も情報量が詰まっています。
8月27日放送 古典と友だちになる 『百人一首』

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『百人一首』を紹介するのは木ノ下裕一さん。放送は8月27日(月)で、再放送が8月29日(水)、8月30日(木)にあります。木ノ下さんは小学校低学年の頃、『百人一首』の蝉丸の札への興味を通じ、その世界に入っていきました。そして「和歌や古典文学にあまり触れたことのない初心者にとってこれ以上、お得な教材はほかにはない」「初心者だけでなく、中・上級者が読んでも十分楽しめる内容になっている」ことから、古典の入り口として『百人一首』をオススメしようと考えたそうです。
公家・藤原定家が京都・小倉山で選んだとされることから「小倉百人一首」としても知られる秀歌撰、『百人一首』。藤原定家が宇都宮頼綱の求めにより『百人一首』の原型となる『百人秀歌』をまとめたのが1235年頃。これは歌人百人の秀歌を一首ずつ選び、年代順に色紙にしたためたものです。『百人一首』成立のはっきりした年代は分かっておらず定説がありませんが、多くの論者が13世紀前半頃の成立と推測しています。
『百人一首』を楽しむための主な書籍
「100分 de 名著」で用いられる『百人一首』の本は講談社学術文庫版で、出典、詠歌の場や状況、作者の心情を記した明快な解説、そして注解が充実しているのが特色です。他にも非常に多くの書籍が発売されています。

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また、オールカラーで写真も豊富、解説も懇切丁寧、競技かるたハンドブックもついている、何より値段が税込594円という安さの『百人一首』本がこちら。この一冊を持っておくと、『百人一首』に必要な知識はほぼ心配ありません。
また、人気コミック『ちはやふる』が競技かるたや『百人一首』の普及に貢献したことも記憶に新しいですね。コミックを読み直すのも楽しいものですが……。

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『ちはやふる』の関連ガイドブックが発売されており、これも入門として優れており、定評があります。コミックの『ちはやふる』を読んでいる方は、この本を持っておくとすんなり『百人一首』と競技かるたの世界に入ることができそうです。
今回、「100分 de 名著」で扱われる書籍と、そのバリエーションや入門書、翻訳について取り上げました。今回の番組を観るための参考になれば幸いです。
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参考リンク
「NHKオンライン」:NHK「100分 de 名著」公式ページ
「NHKオンライン」:NHK「100分 de 名著」「おもわく」