3月13日、「浅見光彦」シリーズで知られる小説家、内田康夫さんが敗血症のため亡くなりました。83歳でした。ご冥福をお祈りします。
浅見光彦記念館「【訃報】内田康夫 逝去のお知らせ」(2018年3月18日)
経歴:内田 康夫(うちだ やすお、1934年11月15日 – 2018年3月13日)
東京府東京市滝野川区(現・東京都北区)に生まれる。長野市出身の父の実家が戦災で被害を受けたため、長野市から戸隠山麓の村、秋田県羽後町、雄勝町、埼玉県、静岡県沼津市、秋田県秋の宮などに移り住む。これが旅情ミステリー作家の原体験だと指摘する声も多い。
埼玉県立川越高等学校、東洋大学文学部国文学科中退。コピーライターや広告製作会社の社長を経て、小説を書く。1980年『死者の木霊』、1981年『本因坊殺人事件』を栄光出版社(当時。現在は別の出版社から刊行)から自費出版。3000部刊行の前者『死者の木霊』が朝日新聞書評で紹介されたことを機に、作家デビュー。1982年刊行された『後鳥羽伝説殺人事件』が商業デビュー作となり、ここで名探偵浅見光彦が誕生。浅見光彦が登場する作品は116事件。累計で約9700万部を発行、映画やドラマ化もされて人気を博した。
推理・ミステリー小説だけでなく、随筆やファンタジーなども手がけている。2006年には日本経済新聞夕刊で空海を主人公にした歴史小説『地の日 天の海』を連載。作家として様々な顔を持っていた。2008年、日本ミステリー大賞を受賞。
2015年7月26日脳梗塞が見つかったために入院し、毎日新聞で連載していた浅見光彦シリーズ「孤道」は2015年8月12日で終了。後遺症の左半身麻痺のため2017年3月に作家活動を休止、『孤道』執筆分がまとめて刊行された。加えて中断された物語の結末を一般公募し、最優秀作を「完結編」として刊行するという、毎日新聞出版、毎日新聞社、講談社、内田康夫財団連名による「内田康夫『孤道』完結プロジェクト」が広く話題となった。募集は2018年4月まで行われており、この募集期間中の著者逝去となった。
内田康夫先生がご逝去されました。悲しくて言葉になりません。心からご冥福をお祈りいたします。先生のご遺志を継ぎ、当プロジェクトは引き続き「孤道」の完結編を募集しております。皆さまのご応募をお待ちしております。締め切りは4月末日です。https://t.co/fRdA12Lowh
— 内田康夫「孤道」完結プロジェクト (@kodoproject) 2018年3月17日
『孤道』までの累計著作数は163冊、著作累計発行部数は1億1500万部とされている。なお療養中には「内田康夫と早坂真紀の夫婦短歌」というサイトを開き、月二回定期的に更新がなされるほど、旺盛に発表を続けていた。
内田康夫さんの代表作その1 『後鳥羽伝説殺人事件』
広島県の国鉄三次駅構内の跨線橋で起きた殺人事件。三次警察署の刑事、野上はルポライター浅見光彦と出会い、協力して殺人事件に挑む―。
『後鳥羽伝説殺人事件』は、いわずと知れた、記念すべき浅見光彦シリーズ第一作。数多くドラマ化されて知る人も多い本作ですが、原作第一作に登場する浅見光彦は、当初脇役的な存在でした。本作を元に制作されたドラマも、細部の設定が異なっていたり、それぞれに特色と見所があります。原作・ドラマを見比べてみるのも面白いでしょう。
内田康夫さんの代表作その2『天河伝説殺人事件』
新宿副都心高層ビル群の路上で、一人の男が変死。彼の手には、天河神社の御守りが握られていた。天川村、そして能の舞台でも起きる変死事件。数々の事件を、浅見光彦が紐解いていく―。
『天河伝説殺人事件』も内田康夫さんの作品で人気の高い一作で、ドラマ化されたのみならず、1991年には市川崑監督によって映画化されました。製作は角川春樹さんで、過去の市川崑監督作品、「金田一耕助」シリーズに近い世界観となった、独特な映画です。内田康夫さんファン、浅見ファンにとって評価が分かれる作品ですが、『天河伝説殺人事件』という作品が持つ懐の深さを感じさせる一作です。こちらも、映画と原作を見比べてみてはいかがでしょう。
これからも内田康夫さんの作品はテレビドラマ化されていくでしょうし、おそらく『孤道』の完結編が発表される日もいずれ来るはずです。内田康夫さんの作品がより話題となり、様々なかたちで読まれることを願ってやみません。