こんにちは、ブクログ通信です。
国語の教科書で取り扱われ、誰もが一度は触れたことのある作家・芥川龍之介。日本を代表する文豪は、その名を冠する「芥川賞」でもよく知られています。
とはいえ、教科書以外で芥川作品を読んだことがないという方も多いのではないでしょうか。今回は、35歳という若さでこの世を去った芥川龍之介の人生をなぞるように、発行年順に10作品をご紹介します。短編ばかりですので、通勤・通学やお休み前のひとときにオススメです。
『芥川龍之介(あくたがわ りゅうのすけ)の経歴を見る』
6.芥川龍之介『舞踏会』文明開化に思いを馳せて

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あらすじ
明治十九年、明子は父とともに、鹿鳴館の舞踏会へと赴いた。初々しい薔薇色の舞踏服、品のよい水色のリボン、濃い髪に匂う一輪の薔薇。日本の少女らしい美を備えた明子は、フランス人将校と「美しく青きドナウ」のワルツを踊ることに。その後、アイスクリームを食べながら、将校は明子を褒めた。そして二人は腕を組んだまま、星月夜のバルコニーに佇む。明治の日本を鮮やかに写し取った、芥川龍之介、中期の傑作。
おすすめのポイント!
芥川の作品のなかでもファンが多い本作は、三島由紀夫の戯曲『鹿鳴館』の下敷きにもなっています。「ロココ的才能が開花している」と三島に言わしめた本作には、美しい文章が散りばめられており、読むだけで恍惚とした気持ちにさせられます。一方でそれは、現実よりも美化された幻影のようにも感じ、芥川特有のナルシシズムのようなものも描かれていることを思わせます。苦しみながらも美を求めつづけた、芥川らしい名短編です。
「蜜柑」誰が何と言おうと、この作品が好きです。この作品に出会えたから、私は、芥川龍之介の全作品を読めたんだと思います。
7.芥川龍之介『アグニの神』妖しげな異国情緒あふれる文章に惹きつけられる!

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あらすじ
上海の、ある薄暗い家の二階で、人相の悪いインド人の婆さんが占いを営んでいた。魔法すら操るこの婆さんは、「アグニの神」からお告げを受けて占いをするという。婆さんのもとには女の子が一人いたが、婆さんに良いように使われ、いたぶられていた。今夜もまたアグニの神にお伺いを立てるという日、遠藤という書生がやってきた。遠藤は「私の主人のお嬢さんがインド人にさらわれたのだが」とピストルを取り出し——。
おすすめのポイント!
雑誌『赤い鳥』で発表された本作は、ヒンドゥー教の火の神である「アグニ」をモチーフに書かれた童話です。古典などを題材に書かれた童話作品が多いなかで、本作は純粋な創作であることが特徴でしょう。戦争やピストルといった物々しくリアルなものと、魔法使いのような夢想的なワードが入り交じり、歪みのあるおとぎの国へと読者をいざないます。『赤い鳥』で発表されていますが、全年齢を対象にしても素晴らしい一作です。
何作品も載っているのでお得感満載。こうした全集でないと読まないであろう作品もあり、短編だから特に興味がなくても読みやすい。読んでみると心動かされたりで、食わず嫌いは良くないね。
8.芥川龍之介『藪の中』真相は今も謎のまま

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あらすじ
馬も通らぬ藪の中、男の遺体が発見された。殺人と強姦をめぐり、四人の目撃者と三人の当事者が、思い思いの証言をする。男を殺したのは誰か、何のためか、本当に殺しはあったのか。矛盾する証言のなかには、どれだけの真実と嘘が織り交ぜられているのか。没後95年を経て、今なお研究されつづける、迷宮入りの名作。今昔物語集をベースに書き記した、著者最後の王朝物に込められた真実とは。
おすすめのポイント!
人は誰しも、見たいように現実を見ているのかもしれません。だからこそ、同じ場面に遭遇しても、人によって証言が異なるということは、よくあることなのではないでしょうか。さらに人は簡単に嘘をつくこともでき、短編小説という限られた情報のなかで、人物が嘘をついていた場合、それを見破る方法はありません。不可思議ながらも魅力に満ちた本作は、今も大いに研究され、また、さまざまな作品のモチーフともなっています。
一人の殺された男と、その妻と、その妻を手ごめにした盗人。誰が男を殺したのか、なぜ殺したのか?それぞれが語る真相は食い違っている。真相は藪の中。違う視点から見ると物事はまるで異なる側面を見せる。という意味もあるし、一人の人間の中でも状況などにより正反対の顔を見せる。本心は、当の本人にもわからない。とくに男女間においては。というメッセージにも読める。空のようにころりと変わる女の心、その態度に燃えたり冷めたりする男心。おもしろく読みました。
9.芥川龍之介『歯車』ヒリつくような幻想と死の足音

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あらすじ
知り合いの結婚披露式に招かれた僕はその道中、レインコートを着た幽霊の話を耳にする。ことあるごとに現れる、季節外れのレインコート、肉にうごめく蛆、火事の予感、セピア色のインク……。耳に目に、入ってくるものごとのすべてが、「死」への導きのように感じられる。さらに時折、僕の視界には半透明の歯車が見えた——。芥川龍之介の遺稿となった作品のうち、唯一、小説として残された生涯の大傑作。
おすすめのポイント!
読んでいるだけで心が締めつけられるほど、精神的に追い詰められた芥川の姿が如実に表れている晩年の作品です。何を見ても、何を聞いても辛い。そんな気持ちになることは誰しもあるかもしれませんが、そんな苦しみすら「小説」という形に昇華させられたところに、芥川の驚くべき才能を感じます。川端康成など、同時代の作家たちが最高傑作とまで評した本作。初めて芥川を読む方も、たくさん読んでこられた方も、ぜひ一読ください。
芥川竜之介晩年の代表作3篇「玄鶴山房」「歯車」「或阿呆の一生」まさに遺書を開くときの厳粛な気持ちになった。構造が複雑だった
10.芥川龍之介『或阿呆の一生』断片的に紡がれた自伝的遺稿

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あらすじ
「最も不幸な幸福の中」に暮らす僕は、久米正雄にこの原稿を託す。僕は、物語の主人公である「彼」について、先生の危篤や妻への小言、友との会話などを思い出すように、ぽつりぽつりと紡いだ。短く切り取られる人生には、いつもぼんやりとした不安とともに「死」の影がつきまとっている。天才ゆえ、つねに苦悩を抱えこみ、そのなかで、もがきながらも書くことを諦めなかった文豪・芥川龍之介の最晩年作。
おすすめのポイント!
僕であり彼である自分の分身を主人公とする私小説的表現は、芥川の晩年の作品によく見られます。人生を振り返り、苦しみや不安について書き綴り、生死について深く考えている様子が見て取れる作品です。また本作は、芥川の死後に発見された遺稿の一つでもあります。自殺という道を選んだ芥川龍之介ですが、その死は社会に衝撃を与えました。最晩年の心をなぞる作品になっていますので、芥川を知りたい方の必読書となるでしょう。
芥川龍之介最晩年の作品集。「河童」を除けば全体的に陰鬱で鬼気迫る短篇が多く、気分が沈んでいる時に読んだら危険かもしれないと思うほどに、負の引力が物凄かった。 一番印象に残っているのは、「歯車」。世の中の様々なものに対し語り手は不吉な予感を抱いてしまい、どんどん追い詰められてゆく。自分の中の無意識が自己を破滅させようとする極限の精神状態が描かれている(気がする)。「或阿呆の一生」と共に、何かに絡め取られている感は、絶望している時に強く感じるもの。かなり危険な物語だけど、好みでもある。
没後百年近く経つ芥川の作品ですが、今なお鮮やかに光彩を放つ短編ばかりです。ここに紹介されたもののほかにもたくさんの短編がありますので、この記事をきっかけに、さまざまな作品に触れていただければ幸いです。前編5作品はこちら!