こんにちは、ブクログ通信です。
朝井まかてさんは、2008年に『実さえ花さえ』で小説現代長編新人賞奨励賞を受賞し、小説家デビューしました。2014年に、歌人・中島歌子の生涯を描いた『恋歌(れんか)』で第150回直木三十五賞を受賞し、一流作家としての地位を確立しています。井原西鶴を主人公に据えた『阿蘭陀西鶴』で第31回織田作之助賞、葛飾応為の生涯を描いた『眩(くらら)』で第22回中山義秀文学賞を受賞しました。朝井さんは、他にも多くの文学賞を獲得している、時代小説の名手です。
ブクログから、そんな朝井さんの人気作・オススメ作を5作紹介いたします。物語展開の巧みさ、魅力的なキャラクター造形に定評のある朝井さん。その数ある作品の中でも、特に読み応えがあり、朝井さんの作品が初めての人にもおすすめの作品を揃えました。ぜひチェックしてみてください。
『朝井まかて(あさい まかて)さんの経歴を見る』
1.『恋歌』 歌人・中島歌子の愛に満ちた人生を描いた、直木賞受賞作
あらすじ
歌塾「萩の舎」の主宰者である中島歌子は、樋口一葉の歌の師匠としても知られている。——歌子は、江戸の裕福な宿屋に生まれ、何不自由なく育ったのんきな娘だった。水戸藩士の林以徳に恋をし嫁ぐものの、平和な生活は長くは続かない。以徳と共に、血で血を洗う水戸藩内乱に巻き込まれていくのだった。新婚生活わずかにして、夫と離れ離れになった歌子。義妹と共に牢獄に入れられ、苦難に耐え忍ぶ日々が始まる。
オススメのポイント!
歌人・中島歌子の、激動の人生をドラマチックに描き出した長編小説です。幕末の水戸藩における「天狗党の乱」についても丁寧に描写されており、時代劇が好きな人にはたまらない作品だといえるでしょう。また、この作品では歌子の恋が大きなテーマとなっています。情熱的で一途な歌子が、夫・以徳への深い愛情を和歌で表現したシーンは、涙なしには読めません。歴史に詳しい人はもちろん、普段時代物は読まないという人にも、ぜひ一度手に取って欲しい傑作です。
わずか31文字に秘められた深い情念。運命の過酷さと、豊かな愛に彩られた主人公の生涯に目も眩む思いでした
2.『雲上雲下』昔話の新解釈!ありそうでなかった、大人のためのファンタジー
あらすじ
どこからともなくやってきた子狐が、目の前の草に言った。「草どん、語ってくれろ」。草は最初はしぶしぶだったが、徐々に語ることが楽しみになっていく。いつからここにいるのか、自分のことは何一つ思い出せないのに、物語だけはするすると口をついて出るのだった。山姥、乙姫、天人……。民話の主人公たちが、笑い、苦悩し、闘う、大人のファンタジーがここに開幕。
オススメのポイント!
日本の昔話でおなじみのキャラクターが大集合した、どこか懐かしく温かいファンタジックな世界観の物語です。誰もが一度は聞いたことのある昔話も、朝井さんの手にかかれば斬新な物語に生まれ変わります。この作品は、「昔話の主人公たちが、存亡の危機に瀕している」という設定がユニークです。不安を抱える昔話キャラクターたちの行く末が気になり、ページを繰る手が止まらないことでしょう。優しく心に響く物語です。第13回中央公論文芸賞を受賞しています。
物語ることで、雲上の神々と雲下の民が繋がる。そもそも民が語ることが、神々を存在させていたのだという。物語自体がおもしろい上に、深い。草どん、子狐、山姥、登場人物が愛しく、切ない。昔話のあの人、あのものを、こんな形で一つのお話に登場させるとは…おもしろい!
3.『類』 時代の波に翻弄される、森鴎外の末子・類の物語
あらすじ
文豪・森鴎外の末子として誕生した類は、優しい父と美しい母、2人の姉と共に、何不自由ない少年時代を過ごしていた。しかし、大正11年に父が亡くなると生活は一変する。自分の生きる道を探して、姉・安奴と共にパリへ留学した類。帰国後は母を看取り、画家の娘・美穂と結婚し家庭を持つ。しかし、戦争により財産を失ってしまうのだった……。時代の荒波に揉まれ、自分の道を模索し続けた類の生涯を描く長編小説。
オススメのポイント!
文豪で、医師としても思想家としても活躍した森鴎外の、不肖の息子と呼ばれた類の物語です。常に周囲から期待され、個性的な姉兄に囲まれ、自分の道をなかなか見つけられずにいる類の生き様が、丁寧な心情描写で浮かび上がります。類の目を通して描かれる、鷗外や姉たち、森一族の姿にもぜひ注目してください。作中で描かれる、千駄木の鴎外邸の豪華な様子や、美しい庭園の描写も見どころです。この作品は、第71回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞しました。
傑物の息子で゙あることのずっしりした重たさと、風に吹かれて彷徨うような世間知らずの頼りなさ。母志げの歯痒さと心配はいかばかりだったか。妻美穂の心許なさはどれほどだったか。親は選べない。そこには幸せもあれば、不幸せもある。親と子は全くの別物。それでもひと繋がりのものを見出そうとしてしまう。不自由、だったろうか。それでも、美しいものをたくさん、見ることもできたろうな。人生、山あり谷ありなんだな。森茉莉作品に傾倒した時期があったので、あの話は類から見ればこうだったのか、裏側にはこんなことがあったのかと思ったり、作品には出て来ない茉莉の姿を知ったりする楽しさもあった。
4.『グッドバイ』 長崎の女傑・大浦慶の、豪胆な生き様に心躍る歴史フィクション
あらすじ
大浦屋は、菜種油を扱う長崎の大店だ。店の跡継ぎ娘・希以(けい)は、新しい商売を始めようと考えていた。しかし、番頭の弥右衛門は古いしきたりを重んじる人間ゆえ、いい顔をしない。希以は祖父の言葉を胸に、独りで大浦屋を支えることを誓うのだった。そんな中、英吉利で茶葉が不足していると聞いた希以は、ここぞとばかりに日本の茶葉を売り込む——。
オススメのポイント!
「長崎三大女傑」の1人、大浦慶の半生を描いた作品です。慶は、幕末から明治にかけての激動の時代に、商才と人脈によりその名を馳せました。黒船騒ぎで世の中が浮足立つ中、何度も挫折と失敗を繰り返しながら、成功をつかみ取る慶の生き方は感動的です。また、慶だけでなく、慶と交流する人々も個性豊かな魅力があり、見どころの1つとなっています。江戸末期の長崎の情景を鮮やかに切り取る朝井さんの文章を、ぜひ堪能してください。作中のシーンがありありと思い浮かび、映画を見ているような感覚で読み進められます。
安定感ある朝井作品。大浦慶を主人公にした幕末維新の大河ドラマ。大浦慶の名前は知っていても詳細は存じ上げなかったので、大変勉強になりました。
5.『すかたん』 天下の台所で繰り広げられる、美味しいものと恋のお話
あらすじ
武士の夫と共に、江戸から大坂へやってきた知里。しかし、頼みの夫が急死してしまう。子供たちに手習いを教えて糊口をしのぐ知里だが、言葉遣いをからかわれ失職。さらに空き巣に入られ、家賃も払えず困窮するのだった。そんな知里の前に、青物問屋の若旦那・清太郎が現れる。清太郎の店に女中奉公することになった知里。遊び人でトラブルメーカーの清太郎に呆れながらも、野菜にかける情熱を知り、次第に惹かれていくが……。
オススメのポイント!
テンポの良いストーリーと、個性豊かな登場人物に魅了されること請け合いの傑作です。大阪が舞台ということで、さまざまな美味しいものが登場する点も、本作の見どころとなっています。亡夫と清太郎の間で心揺れる知里、破天荒なのに憎めない清太郎、そして2人を取り巻く、ひと癖もふた癖もある人々……どの人物も、好きにならずにはいられません。知里と清太郎の恋の行方も気になるところです。読後には爽快な感動が待っています。スカッと小気味よい小説を読みたいとき、ぜひ手に取ってみてください。
とってもよかった~!
夜更けに読み始めて、そのまま読んでしまった。軽快な恋愛ものでありつつ、舞台である大阪の人たちが好みそうな勧善懲悪ものでもある。かっこつけたキラーフレーズとか、取り澄ました一文とかがあるわけじゃないのに、ああすきだなあと思わされる文章だ。朝井まかて、やはりとてもすき。
朝井さんの作品は、確かな時代考証に裏打ちされた巧みな筆致が持ち味です。今回は、時代小説はあまり読まないという人にもおすすめの、エンタメ性の高い作品をご紹介しました。ぜひチェックしてみてくださいね!