こんにちは、ブクログ通信です。
春の風物詩というと、満開の桜を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。華やかで美しく、凛とした存在感を放ちながら、どこか儚さを感じさせるその佇まいは、小説や絵画のテーマとしても人気があります。今回は、そんな桜をテーマにした小説を5選ご紹介いたします。
ブクログのみなさんに人気の作品はもちろん、まだあまり知られていない名作など、桜にちなんだおすすめ作品を集めました。表紙絵の美しさにも注目してみてくださいね!
1.宇江佐真理『雷桜』数奇な運命を力強く生きた少女の、美しくも儚い物語

ブクログでレビューを見る
あらすじ
二つの藩の境目にある、山間の村・瀬田村。庄屋の一人娘として生まれた遊は、1歳になった雷雨の夜、何者かによってさらわれてしまうのだった。15年の月日が経ち、とあるめぐりあわせによって、遊が村に帰還する。一方で、遊の兄・助次郎が仕えている清水家の当主・斉道が静養のために村を訪れた。遊と斉道、二人は運命の出会いを果たす。身分の違いを越えて強く惹かれ合う二人だが——。
おすすめのポイント!
身分の異なる遊と斉道、二人の切ない恋模様を描いた物語です。きっと誰もが、数奇な運目に翻弄され、「狼女」とまで呼ばれた遊の生き様に魅了されることでしょう。身分に縛られ、周囲に理解されずに悩む斉道の心情にも共感必至です。また、風光明媚な瀬田村の情景描写が特に美しく、物語に花を添えています。満開の桜のように鮮烈な遊の人生を、ぜひ体験してみてください。本作は2010年に映画化され、遊を蒼井優さん、斉道を岡田将生さんが好演しました。映画版の美しい映像も、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
美しい、美しい物語だった。本を読んで、切なくて、こらえきれない涙が出たのは、いつぶりだろう。何もなされぬまま物語は終わってしまう。それがいわんとすることに、物語の肝があるのだと思う。ただ、そのことよりも、雷桜の、そこに描き出される風景の美しさに心打たれる物語だった。
2.彩瀬まる『桜の下で待っている』東北の春を旅している気分になれる短編集

ブクログでレビューを見る
あらすじ
30代で夫を亡くし、子供四人を女手一つで育て上げた祖母が、若い男と恋に落ちた。親族の猛反対を押し切って、祖母はその男と再婚する。しかし、祖母の幸せは不慮の事故により、五年ともたなかった——(『モッコウバラのワンピース』)。震災後の東北を舞台に、桜前線と共に北上する人々の人間模様を描く、珠玉の短編集。
おすすめのポイント!
東日本大震災で大きな被害を受けた東北地方を舞台とし、「ふるさと」や「家族」をテーマにした作品を収めた短編集です。北へ向かう新幹線と、北上する桜前線が同調して描かれているので、桜を追って旅している気分を味わえます。登場人物一人一人の心情にそっと寄り添うような、温かみのある文章をぜひ堪能してください。作中には東北の銘菓の数々も登場し、読後にはきっと食べてみたくなりますよ。ぜひ東北銘菓をお供に、春の東北のみずみずしい風景と、深い余韻の残る物語を体験してみてはいかがでしょうか。
なんとも言えない読後感。あったかいとか切ないとか一言で表せない。でもすごく良い本だった。泣かせたくはないかもしれないけど思わず泣いちゃう本だった。郷愁が心に残る。
3.水上勉『櫻守』桜に魅了された庭師の、情熱と生き様に胸打たれる作品

ブクログでレビューを見る
あらすじ
丹波の山奥で大工の子として生まれた弥吉。京都の植木屋に奉公に出た弥吉は、桜に魅せられ、桜を守り育てることに情熱を傾けるようになる。48歳で亡くなるまでの一生を桜に捧げた、弥吉の庭師としての生き方を描く代表作『櫻守』。木造建築の伝統を守り、誇り高く生きた宮大工の人生を描く『凧』も併せて収録。
おすすめのポイント!
方言を用いた柔らかな文章で描かれる、一人の庭師と桜の物語です。桜を通して、人間と自然の在り方や、桜の歴史についても考えさせられます。春の風物詩としておなじみの「ソメイヨシノ」の、意外な来歴が述べられている点にも注目してほしい作品です。読後には、今まで何気なく見ていた桜を、これまで以上に興味深く見られるようになっていることでしょう。人生をかけて一つのことを成し遂げることの重さ、偉大さをしっとりと描き出した、余韻の深い物語です。
表題ともなる「櫻守」と「凩」の二編収録。一言で言えば、美しい作品。情景描写がとても繊細に描かれていて、豊かな自然の景色が目の前まで浮かんでくる様。二編共に職人堅気が主人公の作。仕事に対する執着さと頑固気質もありながら、どこか憎めない純朴さもあったりして、その感情の起伏が読んでいてとても楽しかった。人生とは何か、生きるとは何かを考えさせられた作品。
4.宇山佳佑『桜のような僕の恋人』桜と共に移ろう、美容師とカメラマンの儚い恋

ブクログでレビューを見る
あらすじ
美容師の美咲に一目ぼれした晴人は、あるアクシデントをきっかけに、美咲をデートに誘った。デート中に投げかけられた美咲の言葉に背中を押され、一度は諦めた夢を再び追い始める晴人。その姿を見て、美咲の方も徐々に晴人に心惹かれてゆくのだった。やがて、晴れて恋人同士になった二人。しかし、幸せな時間を過ごす中、美咲はある病気を発症してしまう——。
おすすめのポイント!
晴人と美咲の恋模様が、四季の移ろいと共にみずみずしく描かれています。二人の出会い、恋人同士になってからの甘い時間、病魔との闘い、そして結末……と、桜をキーワードに描かれる二人の様子から、目が離せません。恋をする楽しさ、切なさを、美しい文章で綴った珠玉のラブストーリーです。涙腺を刺激するシーンが多いので、通勤・通学の途中に読むには要注意です。桜咲く季節に、邪魔の入らない空間で、じっくりと読んでみてはいかがでしょうか。ジャニーズの中島健人さん主演で映画化。
後半は文字が霞むほどに涙がとめどもなく溢れてきて拭うのももどかしく読み続けてしまった。悲しくも切ないラブストーリーと言葉にしてしまうと薄っぺらくなってしまう。お互いを想い合う2人の気持ちが複雑に交錯して悲しいはずなのにどこか暖かみも感じてしまう深いお話だった。桜がキーワードとなって喜びも悲しみも様々な感情を優しく包み込んでいたなぁ。いつもそばで見守ってくれた兄の存在も不可欠。私にとってとても大事な一冊になった。
5.二宮敦人『最後の医者は桜を見上げて君を想う』「最善の死」とは何かを問う、医師たちの物語

ブクログでレビューを見る
あらすじ
武蔵野七十字病院の医師である桐子は、「死神」と呼ばれている。死期が近い患者に対して、無駄な延命治療をすすめないからだ。死を受け入れ、残された日々を大切に生きる道もあると、桐子は患者に説くのだった。一方で、桐子の同期であり、病院の副院長を務める福原は、患者を助けるため最後の最後まで全力を尽くす医師である。対照的な桐子と福原は、それぞれの信念のもと、患者の生死に向き合っているのだが……。
おすすめのポイント!
「生きるとは」「死ぬとは」を突きつける、心揺さぶる医療小説です。作中に登場する難病患者たちと、桐子・福原のやり取りを通じて、読者の私たちも、自分の「もしも」について思い馳せずにはいられません。読み進めるうちに、心に重く響くものを感じられることでしょう。ときに読むのがつらいシーンもありますが、ぜひ最後まで読んでみてください。きっと、読んで良かったと思えるはずです。
三編から成るストーリーの主人公は、死を迎える3人の患者。助からない命を何とか救いたい者。苦しまずに最後を迎えさせてやりたい者。様々な意見や可能性の中で病気と闘いながら、自分の最後をどう迎えるかを決めなければいけない者。それぞれが必死の思いだからこそ、生きて、迷って、苦しみ抜く様子がリアルで、心を動かされる。
お花見に行くのが難しい時は、読書で桜の美しさを堪能してみませんか?今回ご紹介した作品では、桜の持つさまざまな表情を楽しむことができます。桜にちなんだ美しい物語の数々、ぜひチェックしてみてくださいね!