こんにちは、ブクログ通信です。
深緑野分さんは、2010年に短編『オーブランの少女』が東京創元社主催の第7回「ミステリーズ!新人賞」で佳作に入選し、作家デビューを果たしました。2013年に刊行した短編集『オーブランの少女』は同年の「AXNミステリー 闘うベストテン」にランクインし注目を集めます。2015年発表の『戦場のコックたち』は、第154回「直木賞」や第18回「大藪春彦賞」の候補となり、早い段階から作家として高い評価を得ている作家の一人です。
今回はそんな深緑さんの作品の中から、ブクログ内でも特に人気がある作品を5つ紹介いたします。幻想的な世界観と美しい言葉を巧みに操る深緑さんの作品を、ぜひこの機会に手に取ってみてはいかがでしょうか?
『深緑野分(ふかみどり のわき)さんの経歴を見る』
1.深緑野分『この本を盗む者は』物語の世界を冒険する楽しさをギュッと凝縮

ブクログでレビューを見る
あらすじ
「本の街」と呼ばれる読長町に住む深冬は、有名な書物の蒐集家で評論家の御倉嘉市を曽祖父に持つ。父・あゆむは嘉市のコレクションを集めた巨大な書庫「御倉館」の管理人を務めているが、深冬は本が好きではなかった。ある日、御倉館から蔵書が盗まれ、本の呪いが発動する。町は物語の世界に姿を変え、泥棒を捕まえない限り元の町には戻らないらしい。深冬は、不思議な少女・真白と一緒にさまざまな物語の世界を冒険してゆく……。
おすすめのポイント!
本好きにはたまらない世界観の冒険ファンタジーです。二人の少女・深冬と真白が繰り広げる奇想天外な冒険は、時にコミカルで時に切なく、ジェットコースターのように読者の心を揺さぶります。「本の呪い」とは何なのか、どうしたら解けるのかという謎を追うミステリー要素も楽しめる作品です。深緑さんの想像力を刺激する文章と世界観にぐいぐい引き込まれるので、寝る前に読むときは時間を忘れて読んでしまわないようご注意ください。深緑さんの作品を初めて読む人にもおすすめの一冊です。
ずっと好き。ブックカースの世界、映像化したらどんな風だろと思うけど、本だからこそ表現できるとも思う。主役のズバズバ言うところと善性が良かった。
2.深緑野分『ベルリンは晴れているか』戦後ドイツで数奇な運命を生きる少女とは

ブクログでレビューを見る
あらすじ
1945年の7月、ナチス・ドイツの敗戦によりベルリンは米ソ英仏4カ国の統治下に置かれた。ある日、米国の兵員食堂で働くドイツ人少女・アウグステの恩人が不審な死を遂げる。米国製の歯磨き粉に含まれた毒が死因だという。アウグステは恩人殺害の疑惑を向けられながら、なぜか陽気な泥棒を相棒にして恩人の甥に訃報を伝えるため旅出つが……。
おすすめのポイント!
第9回「Twitter文学賞(国内編)」で第1位、「本屋大賞2019」で第3位を獲得するなど、さまざまなランキングに入った人気作です。第160回「直木賞」候補作にもなりました。本作は、戦後ドイツを舞台にドイツ人少女の人生をダイナミックに描き出した歴史ミステリーです。当時のドイツの詳細な描写や主人公・アウグステの思考がリアルに切り取られています。ストーリー、キャラクター造形、どれをとっても素晴らしく、貴重な読書体験ができる傑作小説です。
戦争によって狂った心、目を覚ました猛獣の存在を自身の内側に感じながら、それと葛藤する自分。何が正義で何が悪なのか。登場人物の心象が緻密にそして生々しく描かれており、映像を見ているかのような錯覚さえ覚えた。1939年、アウグステが中等教育のときの回想にて、迫害を受けていた隣人のイツァークの言葉「どれだけ締め上げられようと人の心は自由なんだよ」がひどく心に響いた。中盤以降、心身ともに傷を負った登場人物たちの一つ一つ行動が物語の最終章へ収縮していく。読み進めるにつれ、引き込まれていき、「ベルリンは晴れているか」という題意を考えさせられた。
3.深緑野分『スタッフロール』映画業界に身を捧げた二人の女性の生き様を描く感動作

ブクログでレビューを見る
あらすじ
戦後ハリウッドの映画界で、特殊造形師のマチルダは”クリーチャー”を作り、特殊メイキャップをする仕事にのめり込んでいた。幼い頃に見た「怪物」が忘れられず、自分も爪痕を残すべく奮闘する日々だ。現代のロンドンでCGアニメーターとして働くヴィヴィアンは、天性の才能を発揮し充実した日々を送っていた。しかし、アカデミー賞受賞を逃したヴィヴィアンは、自分の才能に疑問を持ち始めて……。
おすすめのポイント!
「好き」を突き詰めた世界で働く二人の女性の人生と不思議な邂逅を描いた作品です。女性が少ない業界で差別や圧力にさらされつつも、充実した日々を送るマチルダの姿は読者に勇気を与えます。一方、才能と環境に恵まれながらも自信を失いつつあるヴィヴィアンの生き方は、現代の多くの人と重なる部分があることでしょう。本作は、彼女たちの生き様を通して「働くことの意義」や「生きるとはどういうことか」を問うメッセージ性の強い作品だと言えます。読後感の爽やかなお仕事小説です。
戦後ハリウッドで奮闘した特殊造形師と現代CGアニメーターの話。フィクションではあるものの、実存する作品や人物の話も混ぜながら映画製界を描写する所が映画好きとしては楽しい。随所に映画愛が感じられる小説で、製作者側でもなんでもないのにいちいち泣きそうになった。派手な展開はあまりないけれど、静かに染み渡るようなラストは見事。
4.深緑野分『戦場のコックたち』若きコック兵たちの命のきらめきが胸に迫る戦争ミステリー

ブクログでレビューを見る
あらすじ
1944年6月6日のノルマンディ——若き合衆国コック兵たちは初陣を迎える。祖母の影響でコック兵を目指したティム、いつも落ち着いているリーダーのエド、陽気なムードメーカーのディエゴなど、個性豊かな仲間たちは過酷な戦場に身を置くのだった。戦闘に参加しながら炊事をこなす日々の中、彼らの心を慰めるのは戦場の片隅で見つける小さな「謎」だ。しかし、戦況は深刻さを増してゆき……。
おすすめのポイント!
第154回「直木賞」候補作で、2016年版「このミステリーがすごい!国内編ベスト10」で第2位を獲得するなど注目度の高い作品です。兵士として戦いながらコックもこなすという、過酷な仕事を担う若者たちを描いています。本作の見どころは、臨場感あふれる戦争シーンです。まるでその場に居るかのような没入感を味わえます。一方で、「日常の謎」のようなライトなミステリー要素もあり、シリアスなシーンと謎解き要素の絶妙なバランスも魅力です。若い兵士たちの行く末は、ぜひご自身の目で確かめてみてください。
戦争の凄惨さだけでなく、兵士として従軍した人の精神の変化も感じられて辛くなった。でも、今読むことに意味のある本だと思ったし、読んでよかった。とりあえず今はクラムチャウダーが食べたい。解説に感じたことがまとまっていた。
5.深緑野分『空想の海』SFから児童文学まで、多彩な物語を閉じ込めた短編集

ブクログでレビューを見る
あらすじ
植物で覆われた家には四人の子供が居た。それぞれ使う言葉が異なるので分かり合えない。それでも同じ家で生きざるを得ない彼らに、ある事件が起きる——(『緑の子どもたち』)。突如として大地に開いた穴。そこから無数の土塊が天へと昇ってゆく。土塊昇天現象と名付けられたその現象を巡り、哲学者・物理学者・天文学者たちは戦いを始めた——(『空へ昇る』)。11の物語が詰まった幻想短編集。
おすすめのポイント!
深緑さんのデビュー10周年記念作品集です。ミステリー、幻想ホラー、SFなど、さまざまなジャンルの作品が贅沢に詰め込まれています。小説のような詩のような、美しくも不思議な作品世界をぜひ体験してみてください。深緑さんの作品を読んだことがある人も無い人も、本書で深緑さんの新たな魅力に気づかされること請け合いです。本作に収められている11の物語は、切り口も世界観もジャンルも、全く異なる個性豊かな作品となっています。色とりどりの物語を楽しめる贅沢な一冊なので、ぜひ手に取ってみてくださいね。
本作を読んだ方は、ぜひレビュー投稿をお願いいたします!
深緑さんの作品は、臨場感あふれる文章と重厚な物語が魅力です。読むほどに味わい深い作品ばかりで、再読する楽しみも味わえます。この夏の読書のお供に、ぜひ深緑作品を手に取ってみてはいかがですか?