呉勝浩さん作品おすすめ5選!~著者の筆力を堪能できる傑作選~

こんにちは、ブクログ通信です。

呉勝浩さんは、大阪芸術大学映像学科を卒業し、2015年に『道徳の時間』で第61回「江戸川乱歩賞」を受賞しデビューしました。2018年に『白い衝動』で第20回「大藪春彦賞」を受賞し、2020年には『スワン』で第41回「吉川英治文学新人賞」と第73回「日本推理作家協会賞」長編および連作短編集部門を受賞し、大きな話題となりました。2021年に『おれたちの歌をうたえ』で、2022年には『爆弾』で2年連続「直木賞」候補となります。惜しくも受賞は逃しましたが、その圧倒的筆力で幅広い世代から支持されている作家の1人です。

そんな呉勝浩さんの作品の中から、ブクログおすすめの話題作を5つ紹介いたします。重厚な社会派ミステリー作品を得意とし、話題作を発表し続ける呉勝浩さんの作品を、ぜひこの機会に手に取ってみてください。

『呉勝浩(ご かつひろ)さんの経歴を見る』

呉勝浩さんの作品一覧

1.呉勝浩『スワン』現代社会の暗部を抉り出す傑作ミステリーにして代表作

スワン
呉勝浩『スワン
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あらすじ

首都圏にある巨大ショッピングモール「スワン」で起きた無差別銃撃事件。死者二十一名、重軽傷者十七名を出した前代未聞の惨事であった。偶然現場に居合わせ、犯人と接しながらも生き延びた高校生のいずみ。事件後、平穏な日々を取り戻したはずのいずみは、とある告発によって世間から大バッシングを受けるのだった。そんな中、いずみのもとに一通の招待状が届く。それは事件で生き残った5人の集まりへの招待だった。

おすすめのポイント!

「吉川英治文学新人賞」と「日本推理作家協会賞」のダブル受賞作です。惨劇の被害者であるいずみが、とある出来事で立場が反転し、世間から非難されてしまうという描写は、非常にリアリティがあり恐ろしく感じます。そんな中で届く招待状の謎、事件を生き延びた5人の行く末、そしていずみがどうなっていくのか……謎が謎を呼ぶ展開に、ページをめくる手が止まらなくなるはずです。一気読み必至のスリリングな傑作ミステリーなので、決して寝る前には読まないでください。

凄惨なお話です。小説であってくれてよかったです。こんなことが実際にあったら…。想像もしたくないです。平和なショッピングモールと無差別殺人という暴力が、コントラストをなしていて、凶悪さが引き立てられています。誰もが正常に判断できない究極の状況。何が正しいのかも判断できません。大型ショッピングモールには、しばらく行けそうにもありません。

fishbowlさんのレビュー

2.呉勝浩『爆弾』連続爆破事件をめぐる爆弾魔と警察の攻防を描いた衝撃作

爆弾
呉勝浩『爆弾
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あらすじ

些細な傷害事件で1人の中年男が逮捕された。彼の名前は「タゴサク」。住所不定、とぼけた見た目の酔っ払いにしか見えないタゴサクは、取り調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。その直後、秋葉原の廃ビルが爆発した。警察内部に動揺が走る中、男はさらに予言を続ける。「ここから三度、次は一時間後に爆発します」——果たして警察は爆破を止めることができるのか。

おすすめのポイント!

2022年の「直木賞」候補となった作品で、爆弾魔と警察の攻防を描くノンストップ・ミステリーです。緊迫の会話劇が繰り広げられ、その場にいるかのような臨場感を味わえます。本作のテーマは「悪意と正義の対決」だといえるでしょう。正義の側である警察でも刑事たち一人一人に事情や葛藤があり、一枚岩とはいかないのが面白いところです。複雑に絡み合う人間関係、悪と正義の対立、爆破事件の行く末と、気になる展開にぐいぐい惹き込まれる力作となっています。著者の最高傑作との呼び声も高い本作、ぜひチェックしてみてください。

本格的な頭脳戦にシビれました!サイコスリラーから発せられるヒントをもとに爆弾の設置箇所を当てていくゲーム自体は王道な設定ではあるように感じます。しかし、サイコスリラーの狂気性がピカイチで、ヒントの出し方も独特かつ思想犯要素もあって、なかなかの強敵具合に思わず虜になってしまうほどでした。複数の刑事の視点で物語が描かれているため、誰が事件を解決する「探偵役」なのか分からないところも、このお話の1つのミソであると思います。

ネモJさんのレビュー

3.呉勝浩『おれたちの歌をうたえ』無骨なハードボイルド・ミステリー

おれたちの歌をうたえ
呉勝浩『おれたちの歌をうたえ
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あらすじ

元刑事・川辺久則のもとに突然かかってきた電話、それは旧友の死を告げるものだった。小学生時代を共に過ごした「栄光の五人組」、謎に包まれた友の姉・千百合の死……1本の電話によって、封印していた記憶がよみがえってくる。あの日、本当は何があったのか。川辺は40年前の事件を改めて調べ始めるのだった。

おすすめのポイント!

第165回「直木三十五賞」候補となった作品です。現在と過去が交錯し真実が少しずつ明らかになる巧みな展開で、先へ先へと読み急ぎたくなる傑作小説となっています。昭和から平成、そして令和へと移り変わる物語なので、登場人物たちと一緒に年を重ねてきたような気持ちになり、深く感情移入してしまうこと必至です。読後にはきっと、子供時代の友人を思い出し、懐かしさと切なさの入り混じった感情が呼び起こされることでしょう。600頁以上に及ぶ大長編ですが、夢中で読めてしまいます。

昭和51年に小学生だった5人組が経験した事件で、その少年少女を含む周りの人間の人生が大きく変わる。人生は思った通りにはならない。金塊の場所を示すという詩を解読し、真相にたどり着く。それまでに多くの不幸があった。そして令和元年になり、当時小学生の子供は年齢を重ねた。誰が誰を殺し、どのような思いで殺し、死んでいったのか・・・。雪や台風の描写があり、自分の心にも冷たい風が吹く。過去はやり直せないが、未来は思うようにならない。やるせなさが心を過ぎていく。ミステリの範疇にある作品だと思うが、5人組の何かに翻弄された人生の物語だった。

やすおさんのレビュー

4.呉勝浩『白い衝動』人間の心理に鋭く迫る、読み応えある社会派サスペンス

白い衝動 (講談社文庫)
呉勝浩『白い衝動 (講談社文庫)
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あらすじ

小中高一貫校に新任のスクールカウンセラーとしてやってきた奥貫千早。ある日、彼女のもとを野津秋成という高校1年の生徒が訪れる。「ぼくは人を殺してみたい。できるなら、殺すべき人間を殺したい」——秋成は、ごく普通の悩みを打ち明けるようにそう語るのだった。そんな中、千早の住む町に連続一家監禁事件の犯人が暮らしていることが判明する。不吉な胸騒ぎを覚える千早は、やがて混沌の渦中へとのみこまれていくのだった。

おすすめのポイント!

第20回「大藪春彦賞」受賞作で、「正常な人間とは何か」「本物の悪は存在するのか」といった重厚なテーマを読者に投げかけるサスペンス作品です。殺人衝動を持つもののまだ犯罪を犯していない人間、鬼畜と呼べる所業を犯したが罪を償い社会復帰した人間、そしていわゆる「正常」と呼ばれる人間が登場し、交錯する人間模様が描かれています。誰が正しく何が正義なのか、読むほどにわからなくなる奥深い作品です。「面白かった」の一言では終わらない、大人の心にこそ刺さる社会派サスペンスをお楽しみください。

殺意と殺人願望の違い、そしてただただ殺人願望を持つ人に対して社会ができることは、排除か隔離か包摂(受け入れる)こういう心理学的な内容を組み込みつつ、ストーリー展開もしっかりミステリー。これはなかなか骨太で面白い作品だった。

kimmyjapanさんのレビュー

5.呉勝浩『道徳の時間』江戸川乱歩賞選評員をも唸らせた話題作

道徳の時間
呉勝浩『道徳の時間
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あらすじ

ビデオジャーナリストの伏見が住む鳴川市で連続いたずら事件が発生し、現場にはメッセージが残されていた。ある日、名家出身の陶芸家が死亡する。現場では「道徳の時間を始めます。殺したのはだれ?」という落書きが発見された。同じころ、伏見の元に仕事の依頼が舞い込んだ。かつて鳴川市で起きた殺人事件のドキュメンタリー映画を撮るのだという。13年前の事件を検証する作業の中、伏見は意外な真実へと近づいていくのだった。

おすすめのポイント!

ドキュメンタリー映画の制作を通じて、現在と過去で起こる複数の事件の真相に迫っていくミステリーです。著者は本作で第61回「江戸川乱歩賞」を受賞し、作家デビューを果たしました。まだまだ荒い部分も目立つ本作ですが、入れ子細工のように奥深いストーリーと物語終盤にかけての盛り上がりが魅力となっています。デビュー作でありながらすでに著者の圧倒的な筆力の片鱗が感じられますので、著者のファンの人も初読みの人も、ぜひ読んでみてください。

連続いたずら事件の発生と、地元名士の死亡から、13年前の殺人事件のドキュメンタリー映画の作成。結びつけるヒントがありそうなところで次は次は続きどうなる、ということで読み進めたくなるミステリーだった。道徳の時間というタイトルもよい。久しぶりに乱歩賞受賞作を楽しめた。

プッチさんのレビュー


呉勝浩さんは、社会問題を巧みに取り入れた、リアルで骨太な傑作を数多く生み出している作家です。さまざまな問いと深い余韻を残す呉作品、ぜひみなさんの読書リストに加えてみてはいかがでしょうか。