こんにちは、ブクログ通信です。
畑野智美さんは東京都出身の作家です。東京女学館短期大学国際文化学科を卒業後、2010年に『国道沿いのファミレス』で第23回「小説すばる新人賞」を受賞して作家デビューを果たしました。
恋愛小説やSF、犯罪小説など、さまざまなジャンルで多彩な表現を見せる女性作家として、今注目の作家の一人です。
今回は、そんな畑野さんの作品の中から、ブクログユーザーさんの注目を集めている話題作を5つご紹介。
読めば明日への勇気や元気をくれる作品ばかりなので、ぜひこの機会に手に取ってみてくださいね!
1.畑野智美『若葉荘の暮らし』 一人で生きてゆく不安や孤独さを感じる人に、そっと寄り添い勇気をくれる物語
あらすじ
感染症の影響で仕事が減ってしまったミチルは、家賃の安い家に移ることを余儀なくされる。たどり着いたのは、40歳以上独身女性限定のシェアハウス「若葉荘」だった。管理人のトキ子さんや同世代の千波さんと幸子さんをはじめ、逞しく生きる住人達との交流の中で、ミチルは自分の幸せについて考え始めて……。
おすすめのポイント!
「一人で生きている女性」だけが住むことのできるシェアハウスを舞台に、40代以上の女性が感じる生きづらさや生きにくい社会の実像を浮き彫りにしてゆく作品です。健康のことやお金のこと、老後のことなど、独身女性を取り巻く「リアル」が描かれています。大きな事件やドラマチックな展開は起こりませんが、何気ない日常の中で生まれる心の揺れ具合が共感を呼ぶ物語です。主人公のミチルと同年代の女性はもちろん、若い女性にもぜひ読んで欲しい一冊となっています。
40歳以上独身女性限定のシェアハウス、何だか面倒臭そうと思いながら読み始めたが、この若葉荘、適度な距離感で暮らしていざという時は助け合える何とも素敵な空間だった。素っ気ないようで温かいミチルの人柄にも惹かれました。やっぱり畑野智美さんいいなあ。
2.畑野智美『トワイライライト』三軒茶屋のおしゃれな街並みを背景に描かれる、コロナ禍の青春模様
あらすじ
進学のために上京した森谷未明は、三軒茶屋でひとり暮らしを始めるも、感染症の影響で憧れていたような学生生活は送れずにいた。ある日、本屋「twililight」に足を踏み入れたことで、未明の生活は変わり始める。新たな出会いがあり、夜の街を歩いて初めてのお酒を飲み、そして恋をする
おすすめのポイント!
女子大生の未明を主人公に据え、コロナ禍で様々な制約を受けた学生たちの青春を切り取った短編小説です。作中では三軒茶屋の街並みと実在するお店がたくさん登場し、三軒茶屋での暮らしを疑似体験できる楽しみもあります。東京に慣れていない未明が少しずつ都会での暮らしになじみ、成長してゆく姿が印象的です。コロナ禍の日常をリアルに描いている記録的作品だとも言えるでしょう。さらりとしたスタイリッシュな読み心地の作品です。
ちょうど本作を購入した頃に高校卒業以来数十年ぶりに三軒茶屋に行き世田谷パブリックシアターにも行ったので、街並みを思い出しながら読んでいました。自分が小説を読むときは、この作品は映像化してほしいなーと思う時もあれば、小説の中だけで完結して自分だけのものにしたいと思う時もあって、本作は後者でした。でも相変わらずの登場人物を甘やかさない畑野さんの作品で、ああ少しさみしい結末かと思いきやすごく嬉しくなる結末で、読み終えた後は、やっぱり映像化してほしいかも、と思いました。恋愛話は少しもどかしいくらいが一番いいよねと思ったすごく読後感の良い作品でした。今度三軒茶屋に行ったらtwililight にも行ってみよう。
3.畑野智美『世界のすべて』「普通」からはみ出した人々を柔らかく照らし出す、切なくも温かい作品
あらすじ
5年間勤めた会社を辞めて、喫茶店「ブルー」でアルバイトを始めた鳴海優輝。「ブルー」の店主である啓介は心優しい人物で、彼を慕って秘密を抱えた人々が集まってくるのだった。常連客の悩みに向き合う鳴海にも、人には言えない想いがある。デザイナーの北村、高校2年生のヒナ……様々なセクシャリティを抱えた人々の「普通」を描く意欲作。
おすすめのポイント!
本作のテーマは「セクシャリティ」です。主人公の鳴海をはじめ、多様なセクシャリティを持つ人々と、彼ら彼女らが抱える想いや葛藤が繊細に描き出されています。「恋愛感情を持てない」「同性を好きになる」「複数の異性を同時に好きになってしまう」など、いわゆるマイノリティとされる人々にスポットを当てた現代的な作品だと言えるでしょう。普通とは何か、普通の人生とはどういう生き方か、を深く問いかけてくる印象的な一冊です。
前半は同じ感じがずっと続いて、なかなか読み進めるのがきつかったけど、後半は事態が動き出した感じがしておもしろく読めた。普通を意識するのは、自分が普通じゃないと思っているからで。普通でない人を嫌悪しつつ、普通だと思う自分を嫌悪している人もいて。この物語に出てくる人は、歳を重ねていく中で自分と周りと向き合って、少しずつ生きやすくなっている。こんなふうに希望につながっていく歳の重ね方はいいなと思う。
4.畑野智美『ヨルノヒカリ』恋人でも友達でもない、かけがえのない存在の温かさを描いた人間ドラマ
あらすじ
いとや手芸用品店を営む35歳の木綿子は、これまで恋人がいたことがない。ある台風の日、28歳の光が従業員募集の張り紙を見てやってきた。住み込みで働くことになった光は、「普通の生活」をしたことがないという。そんな男女2人の奇妙な同居生活を見て、周囲の人たちは二人が付き合っていると思うが……。
おすすめのポイント!
大人の男女二人が一緒に居れば、それも同じ屋根の下で暮らしていれば、恋人同士だと追うのは当然。そんな風に思ってしまう人は多いのではないでしょうか?しかし本作では、そんな「当たり前」が本当に当たり前のことなのかを考えさせられます。恋愛感情がよくわからない木綿子と、家族というものがよくわからない光。そんな二人の不器用でままならない関係を、温かく包み込むような空気感で描いた優しい小説です。
よく、男女で友情は成り立つか、と話の種になるけど友達でもない恋人でもない家族でもない、当てはまる名前のない関係があってもいいと思う。恋愛感情がわからない木綿子と家族の存在がわからない光がいとや手芸洋品店で色々模索しながらも共同生活を送る姿がぎこちないのに心地よくゆったりとしていてとてもよかった。光の周りにいる美咲含め成瀬の家族やじいちゃんたちの存在がずっと光を支えてきた経緯が優しくあったかくて泣ける。司さん家族もとてもすてき。読みながら、家族とは、と考えたり過去を思い出したり。柔らかい読後感に包まれた。
5.畑野智美『大人になったら、』大人になってもままならない、恋の楽しさと辛さが胸に刺さる恋愛小説
あらすじ
カフェの副店長として働くメイは、35歳の誕生日を迎えた。「いつから彼氏いないんですか?」「何が目標なんですか?」と迫る失礼な後輩に憤慨しながらも、それなりに充実した日々を過ごしている。そんなメイの日常の一部だった風景は、ふとしたことで変わり始めるのだった。
おすすめのポイント!
アラフォーに差し掛かり、10年間恋愛ごととは遠ざかっていたメイの日常とときめきを、丁寧な心理描写で描き出した恋愛小説です。独身女性の淡々とした暮らしぶりと、久しぶりの恋の予感に戸惑う姿のギャップが可愛らしく、大人の女性が強く共感できる作品となっています。30代半ばは多くの女性にとって人生の分岐点と言える年頃です。そんな不安定で悩み多き時期をひたむきに生きるメイの姿に、勇気と元気をもらえます。
個人的にとても好きな作品だった。女って社会で上を目指すことが正解なのか、男性を見つけて結婚やその先を考えるのが正解なのか、分からない。そんな「大人」特有の悩みを一緒に抱えてくれてるような小説だった。新人へ「働く」とは何かを伝える描写はすごく納得のいくシーンでスッキリした。誰かに言いたいことを言えたり、会いたい人に会えたり、上司に正当な評価を貰えるって素敵だなと心から思えた。もっかい読みたい!
畑野さんの作品は、大人になったからこそ感じる想いや葛藤を描いた作品が多く、大人の不器用さを肯定してくれる柔らかな世界観が魅力です。
人生に迷ったとき、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?