こんにちは、ブクログ通信です。
早見和真さんは、2008年に自身の経験を基に書き上げた『ひゃくはち』でデビュー。その後、本作は『月刊ヤングジャンプ』にて漫画化されました。2010年頃から静岡・愛媛と移住し、『イノセント・デイズ』や『ザ・ロイヤルファミリー』などの作品を著し各賞を受賞。現在は東京で生活をしながら精力的に執筆を続けています。
不条理をテーマにした作品を得意としている早見さんの作品では、人間の不屈さや強かさに気付かされます。今回は、そんな早見作品の中でも、特におすすめの5作品を選びました。ぜひこの機会に気になるものを手に取ってみてください。
『早見和真(はやみ かずまさ)さんの経歴を見る』
1.早見和真『イノセント・デイズ』理不尽なまでの孤独と、裁き

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あらすじ
死刑判決が下った時、田中幸乃は控訴しなかった。横浜市緑区のアパートで起こった放火事件により、一人の女性とその双子の子供が焼死。逮捕されたのが幸乃だ。二年前、幸乃は焼死した女性・美香の夫である敬介から一方的に別れを告げられた。不遇な生い立ちの幸乃にとって、敬介に捨てられることは恐怖だった。ストーカー行為を繰り返した後の凶行は世間の耳目を集める。しかし、事実は余りにも哀しみに満ちており……。慟哭の長編ミステリー。
おすすめのポイント!
切なくて苦しいのに、読み進める手が何故か止まらない。この本の魅力は、その「重さ」にあるのではないでしょうか。家族の愛や友情など、ほんの一つ何かが違えば、人生は変わっていたかもしれない。だけど、幸乃の人生はそうではなかった。運命や宿命という言葉で片付けるのも空しく、悶々と魂を揺さぶられる衝撃作です。第68回「日本推理作家協会賞」長編及び連作短編集部門を受賞。2018年には、本作に惚れ込んだ俳優・妻夫木聡さんの熱望により、妻夫木さん主演でテレビドラマ化も果たしました。
死刑囚となった女性の生い立ちや犯行に至るまで、そしてその後を周り視点で書かれた物語。なぜ彼女は犯行を犯したのか、なぜ死刑を受け入れたのか、数ページごとに疑問が解決されては新しい疑問が浮かんで、ページが進むごとに「凶悪犯罪を起こした女性」のイメージが変わっていく。ページを捲る手が止まらなかった。
2.早見和真『新!店長がバカすぎて』書店員絶賛!現代のリアルな苦悩を描いたドタバタコメディー

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あらすじ
武蔵野書店・吉祥寺本店の正社員となった谷原京子は、三年ぶりに「バカすぎる」店長が復帰したことで、かつてのイライラを思い出していた。忙しい書店員の一日を潰しにかかる異常な長さの朝礼に始まり、店長は人を苛立たせることにかけては天才的な能力を持っている。書籍や書店を取り巻く環境が厳しくなってきている中、新人アルバイトや創業者である社長の息子など、新たな「バカ」達も加わり、それでも京子は日々、奮闘している。「本」の未来のみならず、人が生きる希望までも問う、シリーズ第二作。
おすすめのポイント!
前作『店長がバカすぎて』では、多忙なわりに薄給な契約社員の書店員のリアルを描き、2020年「本屋大賞」にもノミネートされました。書店員からの支持を得ただけでなく、京子の感じる苛立ちや悩みは働く多くの人の心を代弁しており、「日常」という戦いを生き抜く姿にハートを撃ち抜かれます。書店が好き、お仕事小説が好きという人にもおすすめ。抱腹絶倒のシリーズは、第三弾にも期待の声が上がっています。本への愛情に満ちた本作は、ただ笑うだけでは終わらない快作です。
1作目の流れをそのままに新たな登場人物を加え面白さがパワーアップした2作目。始めから終わりまで飽きる事なく読み終えました。前作から一人一人の個性がしっかりと描かれているので久しぶりの続編でも違和感なく楽しめました。
3.早見和真『笑うマトリョーシカ』政治小説と見くびるなかれ

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あらすじ
27歳の若さで代議士となり、40代にして官房長官となった清家一郎には、有能な秘書・鈴木俊哉がいた。二人は高校時代、愛媛・松山の名門校で出会った。当時から一郎には不思議な魅力があり、俊哉もその魅力に取り憑かれた一人だ。そしてある日、総理大臣への道を駆け上がる一郎の元へ、一人の女性記者が取材に訪れる。インタビューをしながら彼女は、「この男が、もしも誰かの操り人形だったら?」と感じ——。
おすすめのポイント!
「知ったような気になっていること」が、思いのほか沢山あるのではないか。早見さんの作品を読んでいると、そんなことを考えさせられます。『イノセント・デイズ』では、死刑囚となった女性が本当に悪人なのか、悪人とは何なのかということを突き詰めていましたが、本作ではさらに深く、「人間とは何か」というテーマを抉り出しています。マトリョーシカの持つ不穏なイメージが全体に張りつめていて、最後の最後まで目が離せない。一郎を支配する黒幕は誰なのか、推理も楽しみながら読み進めてほしい一作です。
官房長官になった男が、実は誰かの操り人形だったら?では操っているのは誰?という物語。途中までは何か「白夜行」のような世界観だなと思っていたが、思わぬ結末へ。それぞれの思惑が交錯し、最後に笑うのは誰か。「見くびるな」が印象的でした。
4.早見和真『ザ・ロイヤルファミリー』馬主一家を追った継承の物語

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あらすじ
クリスは父を亡くし、空虚な心を持て余していた。そんな時、ビギナーズラックで当てた馬券を縁に、人材派遣会社「ロイヤルヒューマン」に就職し、後に会社の社長である山王耕造の秘書となる。競馬に首ったけの社長は「ロイヤル」の名を冠した馬と共に有馬記念を目指しており、クリスは彼の夢を支え続けた。打ち砕かれた望みは継承され、そして最後の有馬記念……。波瀾万丈な馬主一家の20年を描いた夢とロマンの長編物語。
おすすめのポイント!
生産者、馬主、調教師、騎手と、競走馬を取り巻く人々の目線で語られる第一部だけでも涙が出ますが、「継承」というテーマをより強く感じさせる第二部では、物語はさらに盛り上がりを見せてくれます。競馬というとギャンブルのイメージが強いかもしれませんが、どんな世界にも、本気で向き合い、全身全霊で挑んでいる人々がいます。本作を読むと、ちょっと競馬を見てみたい。そんな気持ちになるのではないでしょうか。先入観なく読んでみてほしい作品です。2019年度「JRA賞馬事文化賞」、第33回「山本周五郎賞」をW受賞。
競走馬に人生を賭ける企業主とマネージャーと呼ばれる個人秘書、家族、生産者、競馬関係者たちを巻き込んだら2代にわたる壮絶な感動物語。
競馬がやりたくなった。面白い。
5.早見和真『あの夏の正解』コロナ禍。「最後の夏」を奪われた球児達に向き合ったノンフィクション作品

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あらすじ
2020年。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、春のセンバツに続き、夏の甲子園までもが中止となった。かつて、桐蔭学園の野球部に属していた著者は、甲子園の魅力、そしてその魔力を痛切なまでに知っている。いてもたってもいられなかったのか、著者は車を走らせる。強豪校である愛媛・済美高校と石川・星陵高校を訪れ、渦中にいる球児や監督へインタビューをするためだ。迷いの中、彼らは何を思い、どんな答えを導き出してゆくのか——。
おすすめのポイント!
誰も経験のないパンデミックの中、甲子園という大きな夢に、挑戦することすら許されなかった球児達を、「可哀想」だと思った人もいるでしょう。ですが人生には、理不尽であっても受け入れなければならない、どうにもならない出来事が起こりうるという現実があります。野球を続ける意味、頑張る意味。一人ひとりが自分に問いかけ、自分だけの答えを見つけるために前を向く姿に、「可哀想」という言葉で済ましてはならない人生の重みを感じます。世界中が体験したあの特別な夏を思い出しながら読んでみてはいかがでしょうか。
コロナの蔓延から早3年半。コロナの流行により今までの当たり前がそうでないことに気づいた人も多いのではないか。2020年の甲子園が中止になった時、当時の高校球児たちが何を思ったのかがありのままに書かれており、彼らの状況を容易に想像することができ、思いを馳せることができる作品であった。逆境や苦しみの中で、彼らがもがき苦しんだ姿から、学ぶことはたくさんあった。ただ一つの目標、目指すべき場所が失われた時、自分ならどう気持ちを切り替え行動するか、考えさせられる作品だった。壁にぶつかった時、また戻ってきたいと思う。
フィクションでもノンフィクションでも、「人間」を鋭く観察していなければ到達できない真実を感じさせる早見作品。気付きを得たい、濃密な読書体験がしたい方には特におすすめです。気になったものからぜひ読んでみてください!