司馬遼太郎×池波正太郎〜歴史・時代小説の巨匠10選 前編〜

こんにちは、ブクログ通信です。

「もしかしたら、本当にこんな歴史だったのかも……」そんな錯覚に陥る楽しさが、歴史・時代小説の魅力だといえるでしょう。知られざる偉人や謎に満ちた英雄たちの実像を作家独自の視点から描き出すのが、歴史時代小説の醍醐味です。今回はそんな歴史・時代小説というジャンルにおいて、巨匠と呼ばれる2作家の作品を比較してみました!

友人としても交流が深かったとされ、日本の文壇に多大な影響を与えたことで有名な歴史・時代小説作家といえばこの2人、司馬遼太郎と池波正太郎です。それぞれの作品を前後編に分けて5作品ずつご紹介します。前編では、【新選組】【ダークヒーロー】【司馬遼太郎作品で必読】の3テーマをお楽しみください!

『司馬遼太郎(しば りょうたろう)の経歴を見る』

司馬遼太郎の作品一覧

『池波正太郎(いけなみ しょうたろう)の経歴を見る』

池波正太郎の作品一覧

【読者を魅了する新選組作品】

1.司馬遼太郎『新選組血風録』人々に恐れられた新選組の人間味あふれる姿を描く15の物語

新選組血風録 新装版 (角川文庫)
司馬遼太郎『新選組血風録 新装版 (角川文庫)
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あらすじ

勤皇か、佐幕か——。京都は血なまぐさい抗争に明け暮れていた。維新前夜の京洛に、治安維持を任務として組織された剣客集団「新選組」。名刀の真贋と近藤勇の不敗神話を絡めて描く「虎徹」、悲恋に泣いた剣士の素顔を綴った「沖田総司の恋」……。「誠」の旗印のもとに集った男たちの生きざまを鮮烈に描き出す短編集。

おすすめのポイント!

新選組の隊士たちそれぞれの物語を15編収めた短編集です。近藤勇や沖田総司といった人気人物だけでなく、鹿内薫や富山弥兵衛といった、それほど知名度の高くない隊士にもスポットが当てられています。京の都で殺戮集団と恐れられた新選組の隊士たちが、人間味あふれる姿で描かれているのが本作の魅力だといえるでしょう。歴史小説はあまり読まない、という人にも十分楽しめるエンタメ作です。新選組とはどんな集団だったか、どんな人間たちがそこで生きたか、熱量を感じながら読み取ることができる人気作です。

延べ200人を超す新選組隊士。幹部にも平隊士にもそれぞれに物語がある。それぞれ、必死に時代と、そして、己と戦いながら生きていた。そんな熱い男達だから新選組の物語は面白く、ハズレがないのだと思う。

ともくんさんのレビュー

2.池波正太郎『幕末新選組』二番隊隊長・永倉新八の魅力をみずみずしく描き出す長編小説

新装版 幕末新選組 (文春文庫)
池波正太郎『新装版 幕末新選組 (文春文庫)
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あらすじ

松前藩士の息子に生まれ、いたずら好きの腕白小僧だった永倉栄治。栄治は成長すると剣術に明け暮れ、18歳で本目録を受けるまでになった。栄治を藩の能吏にという父の願いもむなしく、元服した栄治は名を新八と改め、剣術ひとすじに生きたいと願うのだった。やがて新選組隊士となった新八は、一剣をもって己の信ずる道をゆく——。

おすすめのポイント!

剣の腕は近藤勇以上と噂された新選組二番隊隊長・永倉新八の、維新後の生涯を描いた長編小説です。作者である池波正太郎は、自身も江戸っ子ということで、永倉新八のまっすぐな江戸っ子気質に深く共感したといわれています。本作は池波作品の中でも初期に書かれたもので、粗削りな部分が多いのも特徴です。しかしそれが、かえって実直な新八の姿とリンクし、より魅力的な物語になっているといえます。知名度では2番手、3番手ともいえる永倉新八の人生を爽やかに描き出し、新選組の意外な実像を浮き彫りにした名作です。

永倉新八の視点から幕末の出来事がすべるように一気に駆け抜ける。息のをのむ展開をさらりと見事に描き出し、人を惹きこむ文章で一息に読ませてしまう池波正太郎の文筆がにじみ出ている。幕末のことを少しでも知りたいと思うならこの本を読めば大筋は理解できるだろう。しかし、敵役の薩長については(当然だが)悪役として端的に描かれているので合わせて薩長側視点のものも読むとちょうどよい。

taki16さんのレビュー

【魅力的なダークヒーロー】

3.司馬遼太郎『梟の城』 2人の忍者の激闘に胸が熱くなる!スリル満点のエンタメ作

梟の城 (新潮文庫)
司馬遼太郎『梟の城 (新潮文庫)
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あらすじ

織田信長による伊賀侵攻から10年。信長に父母と妹、そして一族をも惨殺された伊賀忍者の葛籠重蔵は、隠遁生活を送っていた。仇である信長はすでにこの世になく、重蔵は生きる意味を失い怨念だけを抱えていた。そんなある日、豊臣秀吉暗殺の依頼が舞い込む。忍者としての生きがいを賭け依頼を受ける重蔵。一方、相弟子の風間五平は忍びの道を捨て仕官していた。伊賀を売り、重蔵を捕らえることで出世を狙う五平だが——。

おすすめのポイント!

1960年前半期の直木賞受賞作です。本作は戦国末期の権力争いをベースに忍者の実像をいきいきと描き出し、歴史小説というジャンルに新風を吹き込みました。重蔵と風間という2人の忍者と、彼らを取り巻く魅力的な登場人物たちによる、ドキドキハラハラの物語を楽しめます。司馬遼太郎がまだ新聞記者だった頃に書かれた作品で、本作で直木賞を受賞したことをきっかけに本業作家になった転機の作品です。裏切りあり、騙し合いあり、恋模様ありと、ジェットコースター的展開に翻弄される楽しさをぜひ味わってみてください。

この時代に生きている人を、忍者を、本当に見てきたかのような見識と描写。司馬遼太郎にしかなしえない、取材力と想像力を結集した最高傑作。描かれた一人一人の思考に没入しすぎてしまう中クライマックスの、優しさというか司馬遼太郎らしさが、またカッコよすぎる。

ganwさんのレビュー

4.池波正太郎『殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一)』 江戸の市井に生きる仕掛け人の悲哀を描いた短編集

新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)
池波正太郎『新装版・殺しの四人 仕掛人・藤枝梅安(一) (講談社文庫)
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あらすじ

藤枝梅安は、品川台町に住む鍼医師だ。表の顔は名医だが、その正体は冷酷な仕掛け人である。金次第で、「生かしておいては、世のためにならぬやつ」を闇から闇へと葬り去る。そんな梅安の相棒は、楊枝職人兼仕掛人である彦次郎だ。針で人を助け、針で悪人を葬る。善と悪、2つの顔を持つ梅安の人間味あふれる姿と活躍を描いた痛快時代小説。

おすすめのポイント!

表の顔は医者、裏の顔は暗殺者という、善と悪を併せ持つダークヒーロー小説です。梅安と相棒の彦次郎の絆、2人を取り巻く人々、いきいきと描かれる江戸の暮らし……そんなたくさんの魅力にあふれた名作です。スピーディでほろ苦い物語展開に、思わず引き込まれること必至!また、本作の魅力は酒と料理の描写にもあります。季節に合わせて描かれる食べ物の描写は、読んでいるだけでお腹が空いてくるほど。殺伐とした物語の中のオアシスとして、心も胃袋も刺激されること間違いなしです!

何十年ぶりかで再読。著者自身があとがきで述べているように、人間は良いことも悪いこともしながら生きている。それを体現した魅力的な登場人物。各短編の中に見える人生が味わい深い。著者の作品の一番の魅力は季節感のある酒と小料理のシーンだろう。そのシーンを読みたいがためにこの本を読んでいるところがある。次巻以降も食事のシーンが楽しみだ。

BlueOceanさんのレビュー

【司馬遼太郎作品を読むならまずはこちら!】

5.司馬遼太郎『坂の上の雲』男たちの生き様を通して、近代日本の黎明期を描く大長編作品

新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)
司馬遼太郎『新装版 坂の上の雲 (1) (文春文庫)
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あらすじ

明治維新を遂げ、近代国家の仲間入りを果たした日本。先進国に追いつくため国を挙げてがむしゃらになる中に、四国松山出身の3人の男がいた。病と闘いながら俳諧の革新に挑んだ正岡子規と、日露戦争でコサック騎兵を破った秋山好古、日本海海戦の参謀秋山真之兄弟である。昂揚の時代・明治の明暗と、近代国家誕生にかけた人々の姿を描き出す群像劇。

おすすめのポイント!

明治維新後の激動の時代を舞台に、3人の男たちの熱い生きざまを描いた大河小説です。俳人として有名な正岡子規の人間味あふれる姿を知ることができます。また、あまり知名度が高くない秋山兄弟についても、その偉業と魅力を存分に味わえる作品です。本作は史実に基づく部分もありますが、作者によるフィクションもかなりの部分を占めます。それでも、日本の近代化を支えた人々の偉大さは十二分に伝わってきます。かなりボリュームのある作品ですが、司馬遼太郎作品を読むならぜひ一度はチェックしてほしい傑作です。

ドラマ版が大好きで何度もみました。小説だと当然ですが、より細かく出来事、描写がありひきこまれます。

ヨーコさんのレビュー

前編では司馬遼太郎3作品、池波正太郎2作品をご紹介しました。どの作品も、甲乙つけがたい名作です。日本の文壇に多大な影響を与えた巨匠たちの作品を、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか?後編はこちら!