こんにちは、ブクログ通信です。
歴史・時代小説の大家である藤沢周平さんは、新聞記者時代に小説の執筆を始めました。妻を急病で亡くし、目の悪い母の看病と育児をこなしながら、コツコツと作品を生み出し続けた藤沢さん。1971年に『溟い海』で第38回オール讀物新人賞を受賞し、注目を集めます。
1972年に『暗殺の年輪』で第69回直木賞を受賞すると、時代小説作家としての地位を確立し、本格的な作家生活をスタートさせました。代表作には、町人ものの『橋ものがたり』、ユーモア色の強い『隠し剣』シリーズなどがあります。数々の名作を生み出し、歴史・時代小説の名手として高く評価され、その功績は今なお色褪せません。
ブクログから藤沢さんのオススメ作を5作紹介いたします。藤沢さんならではの丁寧な心理描写と時代考察が光る名作揃いです。ぜひ参考にしてくださいね。
『藤沢周平(ふじさわ しゅうへい)さんの経歴を見る』
1.『蝉しぐれ』 若き藩士の成長をみずみずしく描いた、著者代表作!

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あらすじ
海坂藩(うなさかはん)の少年藩士・文四郎は、藩内の派閥抗争により父を失う。無念の死を遂げた父の仇を討つため、剣術と学問にまい進して少年時代を過ごす文四郎。2人の友人や幼馴染との交流を経て、文四郎は徐々に剣の腕で頭角を現していくのだった。やがて、大人になった文四郎にお家断絶の危機が訪れる——。
オススメのポイント!
藤沢周平さんの代表作として、高い評価を得ている傑作です。時代に翻弄されながらもひたむきに生きる、文四郎という武士の少年時代から青年期までを描いています。江戸時代という、現代とは価値観の大きく異なる世界で展開する物語ですが、文四郎の生き様や思想、想いには感情移入必至です。また、文四郎が暮らす藩内の景色が、四季折々の美しい描写で描かれている点も本作の魅力だといえます。2003年に内野聖陽さん主演でテレビドラマ化、2005年に市川染五郎さん主演で映画化され、どちらも人気を博しました。
傑作小説だと思う。時代小説を苦手としている人でも、するすると読める。そして、なんといっても清廉で勇敢な主人公が輝いていて、いきいきと生きている。時代背景がら権力争いに翻弄されるのだが、その理不尽ぶりが半端じゃない。この時代に生まれないでよかったと思うこと一回や二回に非ず。よく、武士の時代に生まれたかった、などという人がいるがこのような小説を読むと冗談じゃないと思う。しかし、その制限だらけの時代は人間の生きざまをよりドラマチックにするから不思議。主人公とおふくの違える人生なんていうのはとても切なかった。
2.『用心棒日月抄』迫力の殺陣シーンも魅力!時代劇の王道を行く仇討ち物語

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あらすじ
伸びた月代と薄汚れた衣服で、町を歩いていく青江又八郎、26歳——。故あって人を斬り脱藩し、国許からの刺客に追われる身だ。江戸の裏店で、生活のために用心棒稼業に手を染めた又八郎だったが、いつの間にか請け負う仕事はきな臭い方向へ……。江戸で暮らす庶民の目線で見た「忠臣蔵」を絡めつつ描かれる、又八郎の数奇な運命の物語。
オススメのポイント!
主人公の又八郎が魅力的で、読むほどに惹き込まれる傑作です。江戸の街並み、人々の暮らしぶりも鮮やかに描写され、江戸時代にタイムスリップしたかのような気分も味わえます。時代小説に読み慣れていない人でも、感情移入しやすい主人公なので、藤沢さんの作品を初めて読む人にもおすすめです。度々テレビドラマ化されており、古谷一行さん、杉良太郎さんなど名だたる名優が主演を務めています。
すでにやっていると思うが、これを基にしてテレビ時代劇をリメイクしたいなと感じた作品。内容はやんごとない理由で脱藩した武士が江戸で用心棒を稼業とするなか、赤穂浪士の敵討ちが絡む痛快時代劇。
出てくるキャラクターが存在感があり、それぞれのその後を追いたくなるぐらい魅力的だった。藤沢周平はやっぱり安定した面白さがあると再認識した。
3.『橋ものがたり』 江戸のとある橋の上、10の出会いと別れに心揺さぶられる短編集

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あらすじ
幸助の仕事場に、幼馴染のお蝶が訪ねてきた。奉公に出るからもう会えない、と別れを告げに来たのだ。「5年経ったら、また会おう」と約束する2人。時が経ち、年季が明けた幸助は、萬年橋の袂でお蝶を待っている。あの約束を果たすために……。江戸の橋を舞台に、市井の人々が繰り広げる何気ない出会いと別れの物語を10篇収めた、連作短編集。
オススメのポイント!
「橋」を舞台にした、時に切なく時に甘い、10の物語を楽しめる1冊です。登場するのは、武士や貴族ではなく、江戸の町に暮らすごく普通の人々。「当時はこんな様子だったのかな」「江戸時代では、こんな制約があったのかな」などと、想像が膨らみます。橋の上で巻き起こる男女の喜怒哀楽が情緒たっぷりに描かれ、作者の持ち味が存分に発揮された名作です。短編集ながらも読みごたえがあるので、じっくりと何度も読み返したくなりますよ。
隅田川近辺にかかる橋を舞台とした江戸の市井の人々が繰り広げる人間ドラマの数々。
今よりも一つひとつの地域の色の違いがはっきりしていた時代だからこそ、それらを結ぶ「橋」には多大なロマンを持ち合わせていた。そこから生まれる物語は時に世知辛く、また時にすがすがしいものとなっている。
4.『三屋清左衛門残日録』 これぞ理想の隠居生活?のんびり読みたい日記風小説

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あらすじ
三屋清左衛門は隠居の身だ。もとは藩主に使える用人だったが、藩主の死に伴い、隠居を申し出て認められた。家督を譲り、離れに起臥する身となった今、清左衛門は日録を記すことを己に課している。このまま静かに日々を過ごすものと思っていた清左衛門だったが、藩内の派閥争いや民たちのトラブルなど、次々と問題が持ち込まれるのだった……。
オススメのポイント!
お役目を終え、隠居生活に入った清左衛門が、さまざまなトラブルを解決していく物語です。酸いも甘いも噛み分けた、いぶし銀の清左衛門がなんともカッコいいので、ぜひ手に取ってみてください。清左衛門の周りで巻き起こるトラブル、隠居生活を彩る人間関係、若い頃の思い出など、清左衛門の人生を一緒に疑似体験している気分が味わえます。読後感は爽やかで、清左衛門の凛とした生き様に触れ、温かい気持ちになれる時代小説です。テレビドラマ化、舞台化など、メディアミックスも度々されています。
乾いた土にやさしく雨がしみこむように、心にしみいる小説。簡潔であたたかい文章が美しく、音読したくなります。再読すればするほど感動がます、大人のための物語。
5.『消えた女―彫師伊之助捕物覚え』 ほろ苦い余韻を残す、江戸が舞台のハードボイルド小説

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あらすじ
版木彫り職人の伊之助は、元凄腕の岡っ引きだ。女房に逃げられ、男と心中されたことが心に引っかかり、浮かない日々を過ごしている。そんな伊之助のもとに、弥八親分から知らせが入った。娘のおようが失踪したというのだ。重い腰を上げ、おようの行方を追うことになる伊之助。しかし、おようの行方を追って行く先々で怪事件が頻発する。調べていくうちに、材木商高麗屋と作事奉行の黒いつながりが浮かび上がってきて——。
オススメのポイント!
江戸時代を舞台にしたハードボイルド小説と名高い傑作です。主人公の伊之助が完全無欠なヒーローではなく、妻に逃げられたショックを引きずっている点も味わい深いといえます。江戸の町を舞台に繰り広げられる、陰謀と策略に満ちたスリル満点の物語です。ストーリーの面白さに加えて、目に浮かぶほどいきいきと描かれる、江戸時代の人々の暮らしぶりも本作の魅力となっています。時代小説のイメージを覆すような、カッコよくて迫力のある物語なので、ぜひ一度手に取ってみてはいかがでしょうか。
本書の解説に「アメリカのハードボイルド派の探偵小説である」とありますが、まさにそんな感じ。主人公の一匹狼っぷり、悪党の悪党っぷり、様々な伏線がひとつにまとまっていく様子など時代背景を現代に置き換えても違和感なさそう。藤沢作品は武家モノしか読んでいなかったので新たな魅力発見となりました。
歴史・時代小説作家の筆頭にあがることの多い、藤沢周平さん。その作品は、一度読んだら虜になる人続出の名作ばかりです。時代小説が初めての人にも読みやすい作家さんなので、ぜひチェックしてみてくださいね!