一穂ミチさん作品5選~読了時、丁寧に本を閉じたい珠玉の作品~

こんにちは、ブクログ通信です。

一穂ミチさんは、大学卒業後に同人誌で二次創作作品を作っていましたが、編集者から声がかかり、2007年に雑誌デビュー。BLジャンルを中心に多数の作品を刊行しています。2014年刊行の『イエスかノーか半分か』は、2020年にアニメ映画化も果たしました。さらに2021年刊行の『スモールワールズ』では一般小説デビューし、人気上昇中。多くの賞を受賞・ノミネートされるなど、目が離せない気鋭の作家さんです。

今回は、多作な作家・一穂ミチさんの作品の中から、選りすぐりの5作品を紹介します。この機会にぜひ手に取ってみてくださいね。

『一穂ミチ(いちほ みち)さんの経歴を見る』

一穂ミチさんの作品一覧

1.一穂ミチ『スモールワールズ』人間のままならなさを受け入れる、救いの連作

スモールワールズ
一穂ミチ『スモールワールズ
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あらすじ

美和はもやもやしていた。子宝には恵まれず、夫は浮気中。モデル業も30を過ぎてから需要が減ったように感じ、思うようにいかないことばかりが重なる。そんなある日、美和は中学生男子・笙一と出会った。水槽の中でしか生きられない熱帯魚のように孤独なその少年と美和は、夜のコンビニで逢瀬を続け——。(『ネオンテトラ』)他、5編から成る6つの短編集。BL界から大きく踏み出し、著者の名を広く知らしめた代表作。

おすすめのポイント!

書簡形式を取る、主語を書かないなど、多彩な文章表現を取った6つの作品はどれも新鮮です。作中の人物たちが剥き出しの人間らしさを感じさせ、読者も喜怒哀楽、様々な感情を引き出されてしまうでしょう。全体としては「家族」をテーマにした作品が多いですが、作品ごとの繋がりも上手く伏線が張られていて、読み終わると同時にまた読み始めたくなるような構成になっています。「直木三十五賞」「本屋大賞」などにノミネートされた他、第43回「吉川英治文学新人賞」、第9回「静岡書店大賞」を受賞。

読後の余韻に浸っています。一人ひとりの人間が生きる世界とは、小さな世界だけど、さまざまなドラマがつまっている。一つ一つのエピソードは本当にすぐそこに生きる人々の苦しみや喜びを見たようで、とても切なく、それでいて愛しくなりました。最も好きなお話は「魔王の帰還」。お姉さんの圧倒的な存在感と、繊細な一部分にぎゅっと切なくなります。花うた」はやや美化している気もしましたが、こういうことがあってもいい、と思える作品でした。

まんまるさんのレビュー

2.一穂ミチ『イエスかノーか半分か』器用で不器用。絶妙な二人の関係が尊い!

イエスかノーか半分か (ディアプラス文庫)
一穂ミチ『イエスかノーか半分か (ディアプラス文庫)
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あらすじ

旭テレビ所属の若手人気アナウンサー・国江田計は、王子と称される完璧な外見とは裏腹に、心の中では「愚民め」が口癖の極端な性格をしていた。計はある日、取材で知り合ったアニメーション作家・都築潮とオフモードの状態で再会してしまう。くたびれたジャージとマスク姿の男を人気アナウンサー・国江田計とは結び付けなかった潮。しかし、行きがかりで怪我を負った潮の仕事をしばらく手伝う内に、計の心にある感情が芽生え……。

おすすめのポイント!

「このBLがやばい!2016年度版」第1位となったこの作品。オフモードで出会ってしまった潮に対し、計は自分の名前を「オワリ」と名乗り、素性を偽ったまま、二人の関係は続いていきます。計の性格にオン・オフがあるとバレるシーンは、タイミングも展開も最高!作品全体を通して、毒舌・ツンデレが好みの方にとっては萌えポイントの嵐です。BLとしてはもちろん、お仕事小説としても楽しめるのが本作の大きな魅力の一つ。良質な小説を読みたい方にもおすすめしたい作品です。2020年には期間限定でアニメ映画化も果たしました。

★4.5面白かったー!読み始めた時から最後まで面白くて読み終わるのもったいなかった。計の徹底した二重人格っぷりが見事で、笑顔の下での悪態がおかしくておかしくて(笑)毒舌が気持ちよくて爽快wすべてを知っても受け入れてくれる都築と出会えて本当に良かった!後半の竜起が絡んだ話も良かった〜!竜起のポジションすごくいい感じ。

touhaさんのレビュー

3.一穂ミチ『雪よ林檎の香のごとく』心の中で静かにジワるデビュー作

雪よ林檎の香のごとく (ディアプラス文庫)
一穂ミチ『雪よ林檎の香のごとく (ディアプラス文庫)
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あらすじ

中・高と受験に失敗した志緒は、来年の編入試験に向けて勉強漬けの日々を過ごしていた。そんなある日、早朝の図書室で志緒は、担任の桂が涙を流しているところを見てしまう。飄々としているように見えていた桂の透明な涙は、志緒の心にさざ波を立てる。思春期特有の純粋さや激しさを持て余していた志緒だが、互いに傷を負った二人は次第に寄り添い合うようになってゆき……。初々しく、清らかな言葉で紡ぐ教師×生徒のBL小説。

おすすめのポイント!

デビュー作ではありますが、それまでにも同人活動をしていたということもあり、すでに一穂作品として出来上がっている!とユーザーのみなさんからも高評価の本作。北原白秋の短歌から取られたタイトルも美しいですが、物語の中にも心が浄化されるような美しい言葉が散りばめられています。真っ直ぐで危なっかしくて、だからこそ愛おしい志緒にきゅんきゅんします。『スモールワールズ』で一般小説を刊行し、読者層も厚くなった一穂さんですが、ぜひデビュー作にも手を伸ばしてほしいと思います。

瑞々しくて柔らかできらきら。流れるような清らかな文章と会話のテンポにぐんぐん引き込まれました。志緒の10代特有の思い込みの激しさ、純粋さ、どうにもコントロール出来ない焦燥感や苛立ちにハラハラしたり、きゅっとなったり。良くも悪くも浅はかでナイーブで純粋な志緒だからこそ、ぽっかりと空白を抱えて生きる桂の感情を掬い上げ、寄り添えたんだろうなーと。純粋で真っ直ぐで清冽な子供達と、ずるさや脆さを抱えた大人たちの対比がとても鮮烈。一穂さんは人間観察が本当に上手い人だなぁと思わされる作品でした。

らいさんのレビュー

4.一穂ミチ『砂嵐に星屑』共感度高し!心が丸ごと掴まれる傑作

砂嵐に星屑
一穂ミチ『砂嵐に星屑
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あらすじ

社内不倫の前科がある40代独身女子アナ。娘との冷戦や同期の早期退職について悩む50代報道デスク。望みゼロと分かっているのに、片思い中のゲイと同棲を始めてしまった20代タイムキーパー。向上心皆無、彼女にも振られ、うっすらと自分に絶望している30代非正規AD。大阪のテレビ局を舞台に、様々な年代、職業の男女の悩みを描いた4つの作品。さらっと読めるのに深く刺さり、明日を生き抜く原動力になる群像小説。

おすすめのポイント!

報道の世界を垣間見せるお仕事小説でありつつ、登場人物たちの心のひだを一つ一つなぞるような繊細な群像劇を見せてくれる本作。穏やかなのに人生を集約したような濃密さが味わえるのが魅力です。生きる意味や特別な使命感なんてなくて、朝と夜を繰り返している内に季節が変わってゆく。そんなリアル感が、読者の共感を呼ぶのではないでしょうか。読後感も心地よく、前向きになれると評判の本作。読めばあなたも「一穂ミチ中毒」になってしまうかもしれません。

人とのことで悩んだり失敗したりするけれど、結局は誰かによって救われる。きっとそうなるって思えるからどんどん読んでしまう。さらっと流れそうな場面も細かい描写でしっかり想像させられて、なのにさらっと読めてしまう。それだけ魅力的な文章だからなのかな。

maplesさんのレビュー

5.一穂ミチ『光のとこにいてね』最高純度で書かれた感動の最新作!

光のとこにいてね
一穂ミチ『光のとこにいてね
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あらすじ

一瞬の幸せが永遠になれば良い。そんな出会いをしたことはありますか?7歳の時、古びた団地の片隅で出会った彼女とは、何もかもが違っていて、だけど感情を共有するだけで幸せだった。だが、彼女は突然いなくなる。15歳になった私は彼女と再会する。しかし、やはり彼女はいなくなる。さらに10年以上の月日が経ち、彼女は私の前に現れる。「光のとこにいてね」という言葉で私を縫い止めた彼女との四半世紀を描いた愛の物語。

おすすめのポイント!

子供には、親や家庭の事情に抗えないことが多々あります。主人公・結珠と果遠の二人は、互いの親の元に生まれたからこそ出会えたという側面と、だからこそ引き裂かれたという側面とがあり、読んでいて切なくなります。側にいなくても強い絆で結ばれている二人が、境遇という「影」を乗り越えていく姿がグッときます。ラストには「光」が感じられ、祈るような気持ちで本を閉じる方もいるのではないでしょうか。雨などの情景描写も巧みで、映像が脳裏に浮かんでくるシーンも多い作品です。

小学生の時に偶然出会った結珠と果遠。そこから別れと再会をくれ返していく二人。長い期間一緒にいたわけでもないのにお互いに忘れられない人になっていく。小学生の時に、高校生の時、そして大人になってから。その時々で本書のタイトルにもなっている「光のとこにいてね」という言葉がとても効果的に使われる。ただただお互いにとって必要な人でそこには誰も入ることのできないものがある。高校生の時の音楽室でのある場面、あの一瞬の出来事がとても印象的で読み終わった後も残り続けるし二人を象徴しているような輝いた鮮やかな瞬間が忘れられない。

MISERYさんのレビュー


どんな愛も、どんな悩みも否定しない。どんなありのままも受け入れてくれる作品だからこそ、多くの人々の心に優しく染み渡るのでしょう。この機会に、気になった作品から手に取ってみてくださいね。