伊与原新さん作品5選!~自然科学の面白さに目覚める傑作選~

こんにちは、ブクログ通信です。

伊与原新さんは神戸大学と東京大学大学院で学び、大学勤務を経て、作家デビューを果たしたという異色の経歴の持ち主です。専攻した地球惑星科学に関する知識を存分に活かしたストーリーが持ち味で、デビュー作の『お台場アイランドベイビー』では「横溝正史ミステリ大賞」を受賞しています。その後も、新作を発表する度に注目を集め、2020年下期には「第164回直木賞」の候補作にも選ばれました。

今回は、そんな伊与原さんの作品の中から、自然科学がテーマの5作品を紹介いたします。大地や宇宙、星々といった自然にまつわる読み応えある名作揃いです。
ぜひ最後までチェックしてみてくださいね。

伊与原新さんの作品一覧

1.伊与原新『お台場アイランドベイビー』もしもの未来を連想させる、リアリティあふれるハードボイルド小説

お台場アイランドベイビー
伊与原新『お台場アイランドベイビー
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あらすじ

大震災により、壊滅寸前になった東京。それから4年後、息子を亡くした元刑事の巽丑寅は、不思議な少年・丈太と出会う。謎めくその少年は、最近起きた「震災ストリートチルドレン」の失踪と関係があるらしい。謎を解くすべての鍵は封鎖された「島」、お台場にある可能性が出てきて!?

おすすめのポイント!

首都直下型の大地震で東京が大ダメージを受け、人々の暮らしが一変した近未来を舞台にした作品です。荒廃した東京の様子が描写されるシーンはかなりリアリティがあり、近い未来に起こるかもしれないという恐怖を感じさせます。そんなシリアスな舞台設定で展開されるハードボイルド小説ですが、時折挟み込まれるクスリと笑えるポイントが絶妙で、重くなりすぎずバランスの良い物語です。登場人物も魅力的で惹き込まれます。

大地震によって崩壊し、封鎖されて孤立した島となった東京お台場が舞台の近未来を想定した小説です。無国籍孤児やストリートチルドレンといった社会的階級層にスポットを当て、事件の重要な位置づけをさせた作者の独創性に脱帽。事件・事故で、犠牲になるのはいつもきまって、弱い立場のチルドレンたちなのですね。

アーミーさんのレビュー

2.伊与原新『八月の銀の雪』何気ない日常が新鮮に感じられる、自然科学がテーマの短編集

八月の銀の雪
伊与原新『八月の銀の雪
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あらすじ

コンビニのベトナム人店員グエンは、手際が悪くいつもお客にストレスを与えている。理系大学生の堀川は、就活連敗中だ。そんな堀川に、グエンは意外な真の姿を見せる……(『八月の銀の雪』)。会社を辞めて一人旅に出た辰朗は、ある男と出会う。彼の父親は太平洋戦争に従軍した気象技術者だったというが……(『十万年の西風』)。他3篇を収録。

おすすめのポイント!

自然科学にまつわるテーマと、ふとしたことで生まれる人と人とのつながりを、巧みに掛け合わせた短編集です。豊富な知識に裏付けられた奥深いストーリーが、心にじんわりと染み込んできます。少し不器用な人々の日常を、科学的な視点から切り取って描いている点がユニークです。海や地核、生命の神秘といった自然の存在に興味を掻き立てられます。読み終わった時には、いつもと同じ風景がどこか違って見えるかもしれませんよ。 

五つの短編に描かれる景色がどれもとてつもなく美しい。地球の中心にあるかもしれない銀の鉄の森。深海で唄うクジラに夕焼け空を飛ぶ鳩。人間には生み出せない玻璃の芸術品。ピンクに輝く白い凧。詳しいことまで理解できなくても、情景の美しさだけで何度も読み返したいと思える本。

はるさんのレビュー

3.伊与原新『月まで三キロ』人生の岐路に立つ人々を明るく照らす、科学ロマンあふれる作品集

月まで三キロ
伊与原新『月まで三キロ
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あらすじ

事業に失敗し、家族の介護にも疲れ果てた男は樹海を目指した。死に場所を求めタクシーに乗りこんだ男を、運転手は山奥へと誘う。この先に「月に一番近い場所」があるんです——(『月まで三キロ』)。とある気象オタクの男性に恋する女性。しかし相手は同性愛者で——(『星六花』)。自然科学に造詣が深い著者が贈る珠玉の短編集。

おすすめのポイント!

本作は、六つの物語が収められている短編集です。つらい想いを抱え、人生の岐路に立たされている人々が、小さな出会いと科学知識をきっかけに少しだけ前向きになる様子が繊細に描かれています。「理系科目は拒否反応が出る」「科学的なことはよくわからない」といった人にはぜひ読んで欲しい一冊です。読めばきっと、科学的な事業や知識に興味がわいて、身の回りの自然現象をもっと深く知りたいと思えるようになります。人生に行き詰ったとき、ちょっとした知識が人生を明るくすると教えてくれる作品集です。

表題作を含む六編の短編集。理系の著者の文章はとても読みやすく、普段触れることのない理科系の小説なので、読み終わると何だか頭が良くなったような気分になれる。この作品集は余韻に浸れるものばかりなので、とても良かった。

借買無 乱読さんのレビュー

4.伊与原新『オオルリ流星群』「大人の青春」を過ごす旧友たちのまぶしくてビターな物語

オオルリ流星群
伊与原新『オオルリ流星群
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あらすじ

「スイ子」が秦野市に帰ってきた。太陽系の果てを観測する天文台を、手作りで建てるのだという。28年ぶりに再会した高校時代の同級生・種村久志は、彼女の計画を手伝うことにした。思い出すのは、高校最後の夏。文化祭で巨大なタペストリーを制作した日々に思いを馳せるが、天文台作りをきっかけに、あの夏に起きた出来事の真実が明らかになるのだった。

おすすめのポイント!

青春時代の光と影、過去と現代が交錯する、読み応えのある群像劇です。高校最後の夏と、28年ぶりに仲間が集まった現代の夏、二つの時代の鮮やかな対比により、キラキラした青春時代の意外な真実が暗く浮かび上がります。読んでいると、自分の高校時代を思い出し、懐かしくもちょっと切ない気持ちになる作品です。天文台の建設という壮大なプロジェクトは、「大人の青春」と読んでも良いようなまぶしさがあります。きれいなだけではない、リアルな「青春」を疑似体験したい人におすすめです。

ままならない人生を生きている主人公たちが28年ぶりに地元に戻ってきた彗子を通して天文科学と出会い、天文台を作る手伝いをすることになる。徐々に明らかになる高校生だった28年前の出来事。45歳になった彼ら彼女らは自身の葛藤を抱え天文台を作りながら自問自答する。伊与原新さんはもともとミステリを書いていたが、この科学に人が触れて変化する物語を描き始めてから独自性がでてきた。これまでの短編も抜群に良かったけれど、長編でもこんなにも良い。少し年齢を重ねた人にこそ心に刺さる小説だ。

marin2011さんのレビュー

5.伊与原新『宙わたる教室』今年10月にドラマ化決定!定時制高校で発足した壮大な夢物語

宙わたる教室
伊与原新『宙わたる教室
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あらすじ

東京・新宿にある都立高校の定時制には、さまざまな事情を抱える生徒たちが通っていた。負のスパイラルに陥っている21歳の岳人をはじめ、学校に通えなかったアンジェラや中卒で集団就職した70代の長嶺など、年齢も環境も多種多様だ。「もう一度学校に通いたい」という思いで集った生徒たちは、科学部を結成し、学会で発表することを目指す——。

おすすめのポイント!

定時制高校を舞台に、いろいろな事情を持つ四人の生徒が、一人の教師の導きで科学部を結成するというドラマチックな物語です。彼らは学会で発表することを目標として、「火星のクレーター」を再現する実験を始めます。この一見途方もなく思える壮大な夢が叶うのかどうか、ドキドキワクワクしながら一気に読んでしまいたくなる一冊です。個性豊かな登場人物たちに、ついつい感情移入してエールを送りたくなることでしょう。いくつになっても挑戦する面白さ、学ぶ楽しさは色褪せないと教えてくれる傑作です。

科学をモチーフにしたストーリーが面白い伊与原さん。今回は最高傑作。晴れやかになれます。オポチュニティの轍はすぐに画像検索して、同じ感慨深さを味わいました。モチーフになった実在する高校があるのも素晴らしい。

やんやんさんのレビュー


伊与原さんの作品は、豊富な科学知識に彩られた繊細な人間ドラマが魅力です。科学はこんなにも身近なものなのだと教えてくれます。
読めばきっと虜になるその世界観を、ぜひこの機会に体験してみてくださいね!