【桐野夏生さん】オススメ5選~人間の暗部を暴き出す、イヤミス先駆者の傑作選~

こんにちは、ブクログ通信です。

ロマンスからミステリ、ハードボイルドまで、多彩なジャンルの作品を世に送り出している人気作家の桐野夏生さん。1984年に、『愛のゆくえ』がサンリオロマンス賞に佳作入選し、小説家デビューを果たしました。1993年に発表した『顔に降りかかる雨』では、第39回江戸川乱歩賞を受賞し、本格デビューを飾ります。1998年に『OUT』で日本推理作家協会賞受賞、1999年に『柔らかな頬』で第121回直木三十五賞を受賞し、作家としての地位を確固たるものにしました。その後も数々の名作を生み出し、ドラマ化や映画化も相次ぐ人気女性作家の一人です。

今回は、ブクログから桐野さんの代表作や人気作を5選紹介いたします。人間の負の側面や獣性を、えぐり出すように描写する桐野さんのダークな作品世界へ、ぜひ足を踏み入れてみてください。

『桐野夏生(きりの なつお)さんの経歴を見る』

桐野夏生さんの作品一覧

1.『OUT』 日常から逸脱していく主婦の狂気を描いた、著者代表作

OUT(アウト)
桐野夏生さん『OUT(アウト)
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あらすじ

43歳の主婦・雅子は、弁当工場の夜勤パートをしている。ある日、パート仲間の若い主婦から、夫を絞殺してしまった相談を受けた。雅子をはじめとするパート仲間4人は、死んだ男の体をバラバラにして捨てた。このときから、女4人の日常は徐々に狂い始めるのだった……。

オススメのポイント!

どこにでもいそうな平凡な主婦たちが、少しずつ狂気へ堕ちていく姿を描いた、ダークストーリーです。桐野さんの作品の持ち味ともいえる、容赦のない急展開に、嫌でも惹き込まれてしまいます。犯罪が犯罪を呼び、加速していく暗黒世界への堕落ぶりは、読み進めるのが恐ろしいほどの迫力です。しかし、物語の結末が気になり、ページを繰る手は止められないでしょう。また、本作は1999年に田中美佐子さん主演でテレビドラマ化、2002年に原田美枝子さん主演で映画化されています。

桐野夏生の出世作にして傑作。人が人を殺す理由、またそれを庇う理由。日常から非日常へと、転がり落ちていく主婦の様をリアルに書いています。人間という生き物の怖さや醜さ、そして純粋な愛情を書き上げた作品。

lhasa0926さんのレビュー

2.『だから荒野』幸せとは何かを考えさせる、1人の女性の逃避行

だから荒野
桐野夏生さん『だから荒野
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あらすじ

専業主婦の朋美は、46歳の誕生日に家族でレストランに行った。しかし、主役であるはずの朋美を思いやるどころか、夫も息子も自分勝手なことばかり。家族に愛想を尽かした朋美はレストランを飛び出し、そのまま車での逃避行を決意した。行先は、昔好きだった人が住んでいるという長崎だ。東京から長崎まで1200キロ、朋美の自由を賭けた旅が始まる——。

オススメのポイント!

平凡な主婦の朋美が、安定した生活から飛び出していく姿にスカッとします。車と身一つで旅をする朋美と一緒に、自由を求める逃避行を疑似体験してみませんか?本作は、桐野さんの作品にしては珍しく、犯罪色やグロテスクさは控えめです。しかし、朋美を取り巻く人々にはどこか毒々しさがあり、朋美の行動には危うさや不安定さが終始漂います。行き当たりばったりな朋美の旅はどこに行き着くのか、ぜひご自身の目で確かめてみてください。2015年に鈴木京香さん主演で制作された、テレビドラマ版もおすすめです。

この夫婦の関係で妻の気分、分かる分かるって感じでぐいぐい読ませる。ロードムービーのように、旅に出てから騙されてもあっけらかんとしている姿は、颯爽として小気味いい。また、山岡老の「あなたは猛々しい人だ」という言葉が、生き方としてうまく表現していると思った。

hosinotukiさんのレビュー

3.『夜の谷を行く』 過去を封印した女の、悲哀と葛藤を描く力作

夜の谷を行く
桐野夏生さん『夜の谷を行く
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あらすじ

連合赤軍による「あさま山荘事件」の直前、内部メンバー12名が死亡した。西田啓子は、危うく「総括」から逃れた1人だ。事件から四十余年が経ち、啓子は1人で細々と暮らしている。かろうじて交流があるのは、妹の和子とその娘・佳絵くらいだ。そんな啓子のもとへ、元連合赤軍のメンバー・熊谷千代治から連絡が入った。啓子は断ち切ったはずの過去に向き合うことになる。

オススメのポイント!

昭和史に残る大事件をベースにしつつ、桐野さんの筆力が存分に発揮された秀作です。実在の人物と架空の人物が絶妙に交錯し、重厚かつリアリティのある作品に仕上がっています。熱に浮かされたように罪を犯し服役、出所後は死者のようにひっそりと暮らしてきた啓子の姿が、桐野さんならではの筆致で暗く重い空気をまとって描き出されています。本作の見どころは、罪を犯した者だけでなく、その家族の実態についても、容赦ないリアルさで描き出している点です。桐野さんの取材力、表現力にも唸らされる名著だといえます。

面白かった。さすが桐野さん。調べたらこの主人公は架空の人物らしいが、それでも連合赤軍の事が良く分かり、改めて興味を持たされた。西田啓子の描写も実に丁寧でリアルで、実在する人を描いたのかと思ったほど。長年身を潜めて来た女性が醸し出す雰囲気、昔の仲間に対する感情、彼らの今の動静に対しての関心の寄せ方・・細かな描写によって感情移入し、話に入り込めた。昔の「夫」や、一緒に逃走した仲間との再会、その時のやり取りはとても読み応えがあった。

amayさんのレビュー

4.『日没』 現実に起こるかもしれない、言論統制の恐怖を描いた衝撃作


日没
桐野夏生さん『日没
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あらすじ

ある日、小説家・マッツ夢井のもとへ1通の手紙が届く。「文化文芸倫理向上委員会」と呼ばれる組織からの召喚状だ。出頭先に向かった彼女を待っていたのは、断崖に建つ療養所だった。その実態は全く自由のない収容所で、減点を食らう度に収容日数が伸びていくという。彼女の収容理由は、読者からの告発——社会に良い影響を与えない作品を書いている、というものだった……。

オススメのポイント!

一見突拍子もない設定に思えますが、現代日本社会に通じる危うさが感じられ、身近な恐怖として疑似体験できる作品です。国主導での言論統制や、表現の自由が奪われた世界の描写は、本が好きな人にとってかなりショッキングだといえるでしょう。少しずつ体力も気力も奪われていく主人公に、感情移入してしまうこと必至。現代社会への皮肉や警鐘も込められており、読後には深く考えさせられる1冊です。

何者かによって自由を奪われる恐怖や怒り、絶望が生々しく描かれた作品。
ラストシーンまで一縷の希望を求めながらの一気読み。刺激を欲している方にお薦めします。

マルガリータさんのレビュー

5.『とめどなく囁く』 嘘と秘密で隠された真実を暴く、スリル満点のダークミステリー

とめどなく囁く
桐野夏生さん『とめどなく囁く
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あらすじ

超高級分譲地の瀟洒な住宅で暮らす塩崎早樹は、親子ほども年の離れた資産家の夫と共に暮らしている。夫は前妻に先立たれ、早樹の前夫は海難事故で行方不明になったきりだった。ある日、すっかり縁遠くなっていた前夫の母から電話が入った。7年間行方不明になり死亡認定もされた前夫を見かけたという。早樹は真相を探るため、前夫の釣り仲間に話を聞くのだが——。

オススメのポイント!

ミステリーのようであり、ヒューマンドラマでもあり、人間の暗い部分を丁寧にあぶりだした桐野ワールドでもある、多彩な魅力の詰まった作品です。7年もの間、夫を待ち続けた早樹の心の揺れ、気持ちの変化が繊細に描き出されています。真相に近づくほどに、心の暗い部分を露わにしていく早樹の様子は、恐ろしくも目が離せません。物語前半で描かれる平和な日常と、後半で不穏さを増していく早樹を取り巻く環境の対比は、さすが桐野さんと思わせる鮮やかさです。展開の巧みさや伏線の上手さにも、唸らされます。

海で行方不明になった夫は果たして死んでしまったのかそれとも生きているのか。どっちつかずの状態で待ち続けるのは、さぞつらいだろうなと思います。自分だったらどうするかなと絶えず考えながら読みました。また、人の悪意が自分に向けられるのは本当に怖いです。早く結末が知りたくて読み始めるとやめられませんでした。

readerさんのレビュー

桐野さんの作品は、後味の悪さや結末の曖昧さが、かえって作品に奥深さを与えています。モヤモヤするのに面白い、読後は心にずしりと来る、そんな桐野作品をぜひ味わってみてください。