こんにちは、ブクログ通信です。
京極夏彦さんはグラフィックデザイナー・アートディレクターとして勤務した後、暇な時間に書いた『姑獲鳥の夏』で作家デビューを果たすという異例の経歴の持ち主です。推理小説でありオカルト小説でもある京極さんの作品は、新作が発表されるたびに大きな話題となり、数々の文学賞を受賞してきました。2003年には、『後巷説百物語』で第130回「直木賞」を受賞しています。その後も、京極さんはSF小説やギャグ作品、絵本など、ジャンルにとらわれない活躍ぶりです。直近では人気アニメ『【推しの子】』で、登場人物が『絡新婦の理』を読んでいるシーンが話題になりました。
今回はそんな京極さんの作品の中から、ブクログユーザーさんから特に高く評価されている5つの作品を紹介いたします。独特な世界観にハマる人続出の京極ワールド。ぜひこの機会に、一歩足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
『京極夏彦(きょうごく なつひこ)さんの経歴を見る』
1.京極夏彦『文庫版 姑獲鳥の夏』ミステリ界に新風を吹き込んだオカルトミステリー
あらすじ
梅雨明け間近のある日、関口巽は、旧友の中禅寺秋彦の家を訪ねるようとしていた。彼は陰陽師にして拝み屋であり、古本屋であり、「京極堂」の屋号で活動している。関口は、久遠寺家にまつわる奇妙な噂について、京極堂ならば真相を解き明かせるのではないかと考えていた。久遠寺梗子の夫・牧朗の失踪や嬰児の相次ぐ死、久遠寺家にまつわる「憑物筋の呪い」……久遠寺家の全ての「憑き物」を落とすため、京極堂が動き出す——。
おすすめのポイント!
京極さんの代表作であり、「レンガ本」「サイコロ本」として話題となった分厚さの作品です。とある一族にまつわる「憑き物」の言い伝え、その家族に襲い掛かる不気味な事象の数々を、京極堂をはじめとする不思議な探偵たちが解き明かしてゆきます。一見オカルト小説のような独特な世界観の物語ですが、推理の面では非常に科学的で論理的な展開を見せ、そのギャップにきっと驚かされるでしょう。本書の分厚さにひるんでしまう人が多いのですが、読み始めるとどんどん読み進められるので、ぜひ手に取ってみてください。
再読。これ程長いのに余計な部分が全くなく、みっしりと詰まったボリュームのある物語だった。じっくり丁寧に読みたくなる文章が好き。知らないはずの、戦後間もない薄暗くもどこか熱を持った時代の湿度や匂いを感じられる気がする。
2.京極夏彦『巷説百物語』人気シリーズ第1作!江戸を舞台に描かれるダークな妖怪時代小説
あらすじ
戯作者志望の青年・山岡百介は、雨宿りに寄った山小屋で不思議な人々に出会った。御行姿の男がいれば、垢抜けた女もいて、初老の商人となにやら顔色の悪い僧までいる。雨が降り続く一夜を、江戸で流行っているという百物語で明かすことになった。百介は期せずして、御行一味の実態を知る。それは、闇に葬られる事件の決着を金で請け負うことであった。
おすすめのポイント!
京極さんが贈る時代小説「巷説百物語シリーズ」の第1作です。恨みつらみにまつわる困難な問題を金で請け負い、妖怪の仕業に仕立て上げて解決する小悪党たちの活躍を描いています。本作のユニークなところは、御行の又市ら「小悪党」にスポットを当てているところです。善人ではなくヒーローでもない又市らが、江戸の町で起こる悪事を大胆に解決していく様がとても魅力的に描かれています。マンガ・アニメ・ドラマといったメディアミックスも多数されている人気作です。
ハードカバーからの再読。以前ハードカバーで読んだときは初の京極夏彦で、旧字体や京極夏彦独特の文体に、読むのに時間を要したが、再読までの間の時間に、いくつか京極さんの本を読んだおかげか、比較的すらすら読むことができた。妖怪話をもとに、人間の住まう『現実』を明らかにする、御行又市とその仲間たちご一行の活躍には目を見張るものがある。そしてこの作品を読んで一言。「やはり一番怖ろしいものは人間である」。
3.京極夏彦『嗤う伊右衛門』不器用な男女のすれ違いを巧みに描く、新解釈『四谷怪談』
あらすじ
御先手鉄砲組同心の娘・民谷岩は、2年前に疱瘡を病み、かつての美しい姿を失った。そんな岩を不憫に思う一方で、父・民谷又左衛門はお家断絶を憂いていた。そんな民谷家へ、浪人の伊右衛門が婿入りすることが決まる。伊右衛門は生真面目な男で、ついぞ笑ったことなぞないという。祝言を挙げた岩と伊右衛門は互いを想い合いながらも、徐々にすれ違ってゆくのだった。
おすすめのポイント!
第25回「泉鏡花文学賞」受賞作にして、第118回「直木賞」候補となった作品です。鶴屋南北『東海道四谷怪談』と実録小説『四谷雑談集』をベースにして、伊右衛門とお岩夫婦の物語を新解釈で描き出しています。愛と憎しみ、美しさと醜さ、正気と狂気……対照的な感情の境目を曖昧にしてゆく幻想的な文章に、京極さんの筆力が発揮された傑作です。おどろおどろしい作品として知られる『四谷怪談』が、京極さんの手にかかると切なくも美しい物語へと昇華されています。その驚きの変貌を、ぜひご自身の目で確かめてみてください。
伊右衛門とお岩の悲恋を中心に、様々な登場人物の心情や秘密が交錯する。ホラーというにはあまりに論理的だが、ミステリーというにはあまりに幻想的。江戸下町文化の奥深さにも気付かせてくれたし、実りのある読書だった。
4.京極夏彦『ルー=ガルー ―忌避すべき狼』仮想世界での過酷な運命を描く新感覚SFミステリー
あらすじ
21世紀半ばの、清潔で無機的な都市——。管理され統制された都市に住む人々は、常に現在地情報が監視された状態におかれ、物理接触(リアルコミュニケーション)は希薄になっていた。少年少女にとっては、学校だけが唯一のコミュニケーションの場だ。あるとき、14〜15歳の少女だけを狙った連続殺人事件が発生する。リアルな「死」を目前にして、少女たちは覚醒するのだった。
おすすめのポイント!
近未来を舞台に描かれる、京極さんの新境地を切り開いた作品です。京極さんの代名詞とも言える怪談もの・妖怪ものとは一風異なる、ライトでポップかつ少しダークな世界観をお楽しみください。本作は、1998年から始まった「F・F・N」(フューチャー・フロム・ナウ)という企画を元に作成されました。読者から募集した「設定」や、近未来に対する様々な着想が作中に登場していることでも話題となった、異色の物語でもあります。「SF」の枠に収まりきらない新感覚の物語です。
設定を一般に公募するという新しい試みから生まれた作品。寄せられたアイデアも面白いが、それをここまでのエンタテインメントにまでまとめあげる著者の力に唸るしかない。SF的舞台設定もそこにおいて少女たちが繰り広げる人間劇も、最終的にはミステリを読んだような気持ちにさせられるラストの展開も、1ページめの1行目から最終ページ最終行まで読み手のテンションは下がることがない。
5.京極夏彦『地獄の楽しみ方 17歳の特別教室』トラブル回避に役立つ京極流処世術
あらすじ
「今の十代の皆さんは、私が十代だった頃に比べても、はるかに優秀です。しかし、大人になった皆さんを待ち受けているのは地獄のような現実です。」——現代社会=地獄を生きる先輩として、言葉の匠・京極夏彦が指南する処世術。たった一度の言葉の行き違いで簡単に変わってしまう「あなたの世界」を、より楽しく生きるための言葉の使い方をお教えします。
おすすめのポイント!
学校では教えてくれない「知恵」を伝える「17歳の特別教室」シリーズの第5弾に、京極さんが登場しました。SNS炎上や対人トラブルなど、「言葉」の失敗が招くトラブルについて、京極さんならではの知見を述べているエッセイです。タイトルにある「地獄」とは、不安定な現代社会を指しています。何かと生きづらい現代を強く生き抜くため、どうやって「言葉」と向き合うべきか、ユーモアたっぷりに書いた指南書的作品です。10代はもちろん、大人にとっても勉強になります。
人は自分の知っている言葉でしかものごとを考えられない。世の中の仕組みを「言葉」を軸に説き、楽しく生きていく術を伝える。あらゆる争いは言葉の行き違いから起きる。前半はまるで憑き物落としのようであり、後半は若い人たちを信頼し見守る眼差しが素敵です。
京極夏彦さんの作品は、唯一無二の世界観と的確な文章表現が魅力です。今回は、そんな京極さんの魅力を存分に味わえる作品を取り揃えました。気になる作品は、ぜひ手に取ってみてくださいね!