又吉直樹さん作品5選~純文学作品からエッセイ、コラボ作まで~

こんにちは、ブクログ通信です。

又吉直樹さんは、お笑いコンビ「ピース」のボケ担当として芸人をする傍ら、執筆を続けておられる異色の作家です。吉本興業の広報誌『マンスリーよしもと』をきっかけに文章の仕事を始め、2009年にはせきしろさんとの共著で自由律俳句集『カキフライが無いなら来なかった』を刊行するなど、じわじわと文壇に名を轟かせます。2015年には初の中編小説『火花』を発表し、第153回「芥川賞」受賞と、華々しい純文学デビューを果たしました。2023年には新作エッセイ『月と散文』が刊行されています。

活字が踊り出す夢を見るというほどの読書家であった又吉さん。今回はそんな又吉さんの作品の中から、特におすすめの5作品を選びました。ぜひこの機会に、手に取ってみてくださいね。

『又吉直樹(またよし なおき)さんの経歴を見る』

又吉直樹さんの作品一覧

1.又吉直樹『火花』『文學界』の歴史を塗り替えた「芥川賞」受賞作

火花 (文春文庫)
又吉直樹『火花 (文春文庫)
ブクログでレビューを見る

本棚に追加する!

あらすじ

売れない芸人・徳永は、熱海の花火大会で漫才を披露していたが、花火が主役のこの場において、彼らの芸を見ている者などほとんど皆無だ。彼らの次に舞台に立った男。それが神谷だった。彼の常識に囚われない笑いに、雷が落ちるほどの衝撃を受けた徳永は、神谷を師と仰ぎ、飲みの席で弟子入りを志願する。神谷は「俺の伝記を書く」ことを条件に、徳永を受け入れるが……。芸人による、芸人の純文学、ここに極まれり!

おすすめのポイント!

売れない若手芸人の葛藤、挫折、焦燥が見事に描かれています。「笑い」を追求する人々の日常を、哀愁漂う文体で書いている辺りに又吉さんらしさを感じます。夢を追い続けることと、年齢と共に否応なく訪れるライフステージの変化との狭間で揺れ動く登場人物達の心情は、夢を追う多くの人に共感を与えるのではないでしょうか。純文学に抵抗がある方にもぜひ読んでほしい作品。本作が掲載された『文學界』の増刷は、創刊以来、資料に残る範囲で初めての出来事でした。

話題になりましたが、なかなか手に取る機会が少なく、だいぶ時間が経ってから読みました。淡々とした描写が続いてはじめはとっつきにくいように感じましたが、後半の展開に感動しましたね。笑いに対して求めるあまり、社会性からちょっとずれている先輩との掛け合いや、直向きな思い、夢を諦めなければいけない現実と葛藤。最後はちょっとしんみりしてしまいました。

はたもとさんのレビュー

2.又吉直樹『人間』38歳。挫折した若者の“その後”

人間 (角川文庫)
又吉直樹『人間 (角川文庫)
ブクログでレビューを見る

本棚に追加する!

あらすじ

38歳の誕生日、もう何年も連絡を取っていない友人から、一通のメールが届いた。件名は「踏むことのなかった犬のクソみたいな人生(笑)」。自分を罵倒しているとしか思えないそのメールを開いた瞬間、痛々しくも濃密な青春が思い起こされる。芸術系の学生が住まう「ハウス」での日々。夢を追いかけ、掴みかけた希望と、打ち砕かれた夢の跡のような今。何者かになること。何者にもなれないこと。「拙くとも人間である」ということは何かを突き詰めた、著者初の長編小説。

おすすめのポイント!

毎日新聞で連載された後、加筆修正したという意欲作。当初は3章編成でしたが、文庫化の際に更に加筆され、4章仕立てに。インタビューでは、単行本の時点では掘り起こせなかった部分を発見できたと語っておられます。又吉さんが大好きだと公表している『人間失格』が随所に出てくることで、本作『人間』との対比も鮮やか。哲学的な思考の渦に圧倒されますが、それが心地良くも感じられます。卑怯だったり脆かったり、それでいて優しかったり。「人間」というものについて、じっくり考えたくなる小説です。

2年ぶりに読んだのだが、大学生になり将来を考えることが現実味を帯びたせいか、痛切に響いた。自分にとって新しい読書体験だった。

banchiさんのレビュー

3.又吉直樹『劇場』クズでしかない男と、信じ続ける女

劇場 (新潮文庫)
又吉直樹『劇場 (新潮文庫)
ブクログでレビューを見る

本棚に追加する!

あらすじ

友人と共に上京し、劇団「おろか」を立ち上げた永田と、女優を目指して上京し、服飾系の大学に通う沙希。二人は、ある日、東京で出会った。徐々に打ち解けてゆく二人だが、結成して3年になる劇団は傾きかけている。ネットやアンケートでの酷評、数少ない劇団員からも見放され始め、不安定な日々を送る永田にとって沙希は、たった一筋の光だった。そして、家賃すら払えなくなった永田は沙希の家に転がり込み——。

おすすめのポイント!

どうしようもないクズ男と、徹底的に甘やかす女を描いた、著者初の恋愛小説です。明確な告白や性描写はなくても、この作品が恋愛小説であることは分かる。そんな、日本の文学らしさを持っている作品です。決して完璧ではない私達は、誰かに夢を託したり、諦めたことを認めたくなくて、現実から目を逸らしてしまうこともあるのではないでしょうか。傷を舐めているように見えて、実は互いを追い詰め合っているような二人の関係に、心が苦しくなります。2020年には映画化され、大きな話題となりました。

面白かった。最初はうまく物語に入っていくことが出来なかった。登場人物が魅力的に思えなかったから、それが独立したものに感じなかったからだ。いくつもの舞台を通して、馴染むようにキャラクターを理解していく。情景描写がとてもリアルに感じた。主人公の主張は正しいとも思えるし、間違っているとも思える。それこそ、状況に拠る。主人公が報われないのがよかった。ラストシーンは少し臭かったが最後くらいそれくらいの方がかえって良い。

米山さんのレビュー

4.又吉直樹『第2図書係補佐』読書は生活

第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)
又吉直樹『第2図書係補佐 (幻冬舎よしもと文庫)
ブクログでレビューを見る

本棚に追加する!

あらすじ

渋谷の真ん中に、すり鉢状の劇場があります。若手芸人達がしのぎを削り、傷を舐め合うこの劇場。そこで発行されていたフリーペーパーに、僕は本を紹介するコラムを連載させていただいていました。人様の作品を解説・批評する能力なんてありません。だけど、生活の傍らに常にあり、僕を助けてくれる本という存在について、書いてみようと思いました。膨大な読書量の著者が、自身の経験を通して作品を紹介する、一風変わったブックレビュー×パーソナルエッセイ。

おすすめのポイント!

古本屋で安い本ばかり探していたあの頃。何故か下巻ばかり買ってしまったあの本。小説作品にも通ずる、家族や子ども時代の思い出。太宰治との不思議な縁についても。読めば「読みたい本」が増えてゆく、巧妙な仕掛けになっています。巻末には中村文則さんとの対談も収録。次に読む作品を探している方に、特におすすめしたい一作です。一作品に割かれているページ数が少ないので、通勤・通学や、寝る前の軽い読書にも向いています。

こんな風に、本のある景色や本が読みたくなるエピソードを文章化できたらいいなあと、羨望というより感動と感謝の気持ちが強くなる、又吉直樹さんの、本にまつわるパーソナルエッセイ集。紹介されている本は全部読んでみたい。読書家とか本好き、ではなく背表紙で本読み、と紹介されているのもすごくいい。自分も本読みになりたい。本読みでありたい。

sonica00さんのレビュー

5.又吉直樹『その本は』大人気絵本作家・ヨシタケシンスケさんとのコラボ作!

その本は
ヨシタケシンスケ『その本は
ブクログでレビューを見る

本棚に追加する!

あらすじ

あるところに、本をこよなく愛する王様がいました。今まで沢山の本を読んできた自負のある王様ですが、年を取り、目はもう、ほとんど見えません。王様は、二人の男を城に呼び、ある命令を下します。それは、世界中を回って、「めずらしい本」について知っている者を探し出し、その本の話を聞かせてほしいというものでした。1年後、旅から戻った二人は、寝たきり状態の王様の元へ行き、夜な夜な「その本は……」と語り出します。

おすすめのポイント!

りんごかもしれない』など、ユニークな絵本作品で人気のヨシタケシンスケさんとの共著作。想像力豊かな二人の男は、どんな本のお話を聞かせてくれるのでしょうか。クスリと笑えたり、深く考えさせられたり。こんな本もあったのか!と内容に驚かされるだけでなく、この本自体のオチもしっかりとあり、読み応え抜群です。「やっぱり本って良い物だなあ……」と改めて本が好きになります。可愛らしいイラストや空想が好きな方にもおすすめです。

ヨシタケさんと又吉先生の作品が交互に書かれており、珍しい構成の本でした。小学生でも読める内容で、面白いと言えば面白い。絵本で描かれているヨシタケさん独特の表現は少し弱めなのかなって気がしました。又吉先生の作品は初めて読みましたが、キレイな文を紡ぐんだなと思いました。

ゆうさんのレビュー


多彩な才能を発揮している又吉さん。小説だけでなく、自由律俳句や本にまつわるエッセイもあり、又吉さんの作品を通して、他のジャンルや未読の作家を発見できるのも嬉しいですね。ぜひ気になる作品からチェックしてみてくださいね。