こんにちは、ブクログ通信です。
道尾秀介さんは、商社で営業職として働きながら執筆した『背の眼』で第5回「ホラーサスペンス大賞」特別賞を受賞し、2004年に小説家デビューを果たしました。翌年に専業作家へ転身すると、発表作品が次々にミステリー・ランキング上位にランクインし、優れた推理小説家として大きな注目を集めます。2008年に「このミステリーがすごい!」2009年版で作家別投票第1位に選ばれたほか、5回連続で「直木賞」候補になるなど、名実ともに偉大な作家の一人です。
そんな道尾さんの作品の中から、ブクログ内でよく読まれているおすすめ5作を紹介いたします。どの作品にも凝った仕掛けが施されており、道尾ワールドを堪能できる名作ばかりですので、ぜひ手に取ってみてくださいね。
『道尾秀介(みちお しゅうすけ)さんの経歴を見る』
1.道尾秀介『月と蟹』少年少女の狂気的な純粋さを描く「直木賞」受賞作
あらすじ
小学生5年生の慎一は、海辺の町で暮らしている。2年前に転校してきた学校にはなじめず、今も孤立している。同じ転校生の春也だけが友達だ。放課後、二人は岩山に行く。そこでヤドカリを飼っているのだ。「ヤドカミ様に、お願いしてみようか」——いつしか、ヤドカリを神様に見立てる儀式に夢中になっていく慎一と春也。そこに同級生の鳴海が加わったことで、ねじれた祈りが暴走し始める。
おすすめのポイント!
2011年に第144回「直木賞」を受賞した作品です。思春期の入り口に立つ少年少女を軸に、閉鎖的な海辺の町で繰り広げられる人間ドラマと少年たちの心の成長を描いています。自然豊かな海辺の町の描写が美しい一方で、慎一をはじめとする子どもたちの抱える「闇」がちらつき、不穏なコントラストを生じさせる物語です。登場人物の誰もが心に秘めたものを抱えており、複雑に絡み合う関係がどんな結末を迎えるのかドキドキハラハラさせられます。読者を惹きこむ構成力、繊細な心理描写、そして驚きの結末と、三拍子揃った名作です。
子どもの純粋さと残酷さ、大人の事情に振り回された何とも言えない想いがひしひしと伝わって、最後まで読んでしまった。秘密基地でのやりとり、嫉妬からくる行動などの描写がすぐ近くで見ているような気分で引き込まれてしまった。子どもたちのその後も知りたくなる。
2.道尾秀介『いけない』新感覚の体験型ミステリー短編集
あらすじ
地方有数の自殺の名所である”弓投げの崖”。車を運転中に崖を見ると死亡事故が起きるという。保育士の安見邦夫は、崖付近のトンネルで崖の方を見てしまい……(「弓投げの崖を見てはいけない」)。他3篇を収録。騙されては、いけない。けれど絶対、あなたも騙される。ミステリの名手・道尾秀介から読者への挑戦状ともいえる連作短編集。
おすすめのポイント!
「体験型ミステリー」と称される通り、読みながら参加し楽しめる作品です。各章の最後に写真が挿入されており、それを見ると物語の真相がわかる仕組みになっています。三つの事件+書き下ろしから成る本作品は、一つ一つが独立した味わい深い物語です。しかし、それぞれの事件の結末と真相が分かった時、そして本作品をすべて読み終わった時、それまでとは全く違った世界が見えてきます。緻密に張り巡らされたトリックと巧みな構成により、読後に大きな衝撃を受ける人続出の一冊です。
まさに道尾秀介ワールド。読後感というものがありますが、こんなにいい意味で気持ちが悪いのは初めてです。笑 どこかスッキリしないのに次のページの絵や写真を見てさらに「?」となり、しばらくして「!?」になる。もちろん道尾さんの作品ということで構えて読んでいたのに、見事に死角から殴られました。各章のお話が絶妙に繋がっていて、そこに気づくと気持ち良いですね。再読するときにまた新しい発見があると思います。
3.道尾秀介『カラスの親指』秀逸なトリックにうなるクライムミステリー
あらすじ
人生に敗れ、詐欺で生計を立てている中年2人組の武沢とテツさん。ある日、二人の生活に少女が舞い込んだ。やがて同居人が増えていき、気づけば5人と1匹の奇妙な生活が始まっていた。皆それぞれに秘密と残酷な過去を抱えている。理不尽な社会でもがきながら、やがて各々の人生を懸けた大計画が始まる。
おすすめのポイント!
第140回「直木賞」および第30回「吉川英治文学新人賞」候補作であり、第62回「日本推理作家協会賞」長編及び連作短編集部門の受賞作です。2008年に発表されると高く評価され、道尾さんの筆力を広く知らしめた作品でもあります。物語はクライムミステリーであり、社会の暗部で生きる人々の姿を描き出したヒューマンドラマとも呼べるでしょう。登場人物はみなクセが強く魅力的で、ついつい感情移入してしまいます。他人同士の奇妙な共同生活を送る彼らがどんな結末を迎えるのか、ぜひご自身の目で確かめてみてください!
最後の最後まで騙され続けてこの小説の世界にいたんだなぁ〜。詐欺とマジックの違い、そんなこと考えたことなかったけど、ものすごく体感できました。騙されてたとしても読んでる時はすごく楽しくて、次へ次へと読みたくなる、そんな道尾さんの素晴らしい才能に触れることができました。
4.道尾秀介『N』読み方も結末も、すべてあなた次第の物語
あらすじ
これは、あなたがつくる720通りの物語。全6章、読む順番で世界は変わっていく。「笑わない少女の死」「落ちない魔球と鳥」「飛べない雄蜂の噓」「眠らない刑事と犬」「名のない毒液と花」「消えない硝子の星」——すべての始まりも結末も、あなた自身がつくりだす。「本」という概念を覆す一冊。
おすすめのポイント!
全6章からなる本で、どこから読み始めてもいいし、どの順番で読んでもいいという不思議な作品です。時に後ろから、時に上下逆さまにと、読み方も変幻自在となっていて、ページを開いた瞬間からワクワクさせられます。六つの物語は一部の登場人物を共有しているものの、特に大きなつながりは感じられません。しかし、全ての章を読み終わった時、それまでとは違った目で物語全体を見られるようになります。この不思議な感覚を、ぜひ一度体験してみてください。
どこが始まりで、どこが結末なのか。自分が読んだ順がきっと正解だという思いと、そんなはずないという思い。本当に読む人それぞれの読み方で、それぞれのストーリーが描かれるんだろう。どうしよう、新感覚。ひとつだけ共通していえること。ある港町から始まる物語。
5.道尾秀介『雷神』読む手が止まらなくなるノンストップ・ミステリー
あらすじ
藤原幸人は15年前に妻を亡くして以来、娘の夕見を育てながら、父から受け継いだ店を守ってきた。ある日かかってきた一本の電話をきっかけに、幸人は夕見と姉の亜沙実と共に、新潟県羽田上村を訪ねる。村では幸人の母が31年前に川で溺死し、毒キノコを食べて村の金持ちが二人亡くなった。また、幸人と姉は落雷に遭ってそれぞれに傷を負った場所でもある。幸人たちは31年前の事件の真相を求め、動き始めるのだった。
おすすめのポイント!
第5回「未来屋小説大賞」ノミネート作品です。選りすぐりの読書好きな店員が作品を選考する「未来屋小説大賞」は、本好きをも唸らせる本当に面白い本ばかりがノミネートされます。もちろん、本作もその一つです。物語冒頭からダークでミステリアスな雰囲気に包まれたこの作品は、道尾さん自身が公的に述べるほどの自信作ということで、物語展開もトリックも見事な一冊となっています。本格的なスリルとサスペンスを堪能できる、道尾さんの新境地と呼ぶべき傑作です。
これは傑作です。名作と言ってもいいと思います。道尾さんが書き続けてきた、この世界の皮肉と悲しみと愛おしさがすべて詰まった作品となっています。終章の答え合わせが若干複雑ですが、幾重にも重なりあった偶然、それこそが運命と呼ばれるものなのでしょう。「月と蟹」の慟哭を再び味わうことができました。素敵な作品をありがとうございます。
今回は、ミステリーの名手・道尾秀介さんの作品の中から、インパクトある「仕掛け」を楽しめる作品を5作ご紹介しました。道尾作品未読の人も、読後に待ち受ける衝撃の数々を、ぜひ味わってみてください。