イヤミスの女王 湊かなえ 文庫版おすすめ作品 〜後編〜
こんにちは、ブクログ通信です。
イヤミスの女王として名を馳せた湊さんですが、デビュー作=代表作ではなく、魅力的な作品を生み出しつづけています。そんな湊さんの作品の中から、文庫版おすすめ10作(前編5作・後編5作)を発行年順に紹介いたします。進化しつづける作家・湊かなえさんの著書のなかから、とくに気になるものを見つけて読んでみてはいかがでしょうか。
『湊かなえ(みなと かなえ)さんの経歴を見る』
6.湊かなえ『母性』「母」であり、「娘」であるということ

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あらすじ
ある一人の女子高生が、県営住宅の四階にある自宅から転落した。「愛能う限り、大切に育ててきた娘がこんなことになるなんて」と母親は言葉を詰まらせる。警察はこの事件を、事故か自殺か、両方の線で調べを続けることに。台風の夜に奪われた幸福。入り交じる母親の手記と娘の回想が、事件の真相を浮かびあがらせていく。母性とは何か。母とは。娘とは。いびつな母娘の関係を切り取った新機軸の親子ストーリー。
おすすめのポイント!
湊さんが、作家になれたら書きたいと思っていた作品のうちの一つが『贖罪』であり、もう一つが本作、『母性』だそうです。これが書けたらもう、作家をやめてもいいという気持ちで臨まれた本作は、湊さんの作品としては十一作目でありながら、二回目のデビュー作と言っていいほどの強い思いが込められています。女性にはもちろん、女性を少しでも理解したいと思われる男性にもぜひ読んでほしい作品です。
「愛されたい」娘と同じ年頃に同じ感情を抱いていたと思うと、私の母も、何故わかってくれないのかと感じていたのだろう。母性とは必ずしも備わるものではない。それに気がつくのは自分なのか、注がれるべき相手なのか。どちらにせよ、気がついた時の悲しさ。愛情とは。言葉にしなければ伝わらない。私が母になったらどんな感情を抱くのか。読む人によってテーマが様々だと思う。考えさせられる話。
7.湊かなえ『物語のおわり』物語のバトンが進むべき道を照らす

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あらすじ
妊娠発覚後にがんが発見された智子。フォトグラファーの夢を諦めた拓真。就職内定後の不安に苛まれる綾子……。人生の岐路に立ち一人旅をする彼らは、北海道の地で出会い、手から手へと紙の束が手渡されていく。その紙の束は、「空の彼方」という、未完の小説だった。原稿を渡された登場人物たちは、自分ならば……と原稿の結末を考え、それは彼らの人生に大きな影響を与えていく。物語が現実を動かす、連作短編小説。
おすすめのポイント!
生きていると、立ちすくむこと、先が見えないこと、道に迷うことが多々あります。それは、未完の小説のようなものなのかもしれません。本作を読みながら、登場人物たちそれぞれが道を切り拓いていく姿を見ていると、「自分ならばどんな結末を書き記すだろうか」と考えさせられます。人物たちが少しずつ繋がり、重なり、人の縁の妙も感じさせる一作。物語そのものは「未完」ではなく、きちんとオチがあり、希望ある作品です。
とても読みやすくてあっという間に完読しました。綺麗にリレーされていく物語、1人1人にとって話のエンディングが変わり、自分の人生とは自分の周りの人の幸せとは、考えるきっかけになる。面白い構成だったと思います。夢を見ること、夢を叶えること、迷っている人に勧めたくなる本です。
8.湊かなえ『絶唱』喪失と再生。傷はかならず癒える

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あらすじ
同棲中の彼氏・裕太の前から姿を消した毬絵は南の島に着いた。毬絵は五歳のときに喪った自分を取り戻すため、ある風景画に描かれた場所を探し——。(「楽園」)約束を果たすため、逃げだすため。「死」にまつわる秘密を抱えた四人の女性は、阪神淡路大震災とトンガを共通項に結びついていた。著者の経験を色濃く映した渾身の連作短編集。哀しみと絶望の底に芽吹く、再生と希望の物語に目頭が熱くなること必至。
おすすめのポイント!
全編を通してといってもいいですが、とくに表題作「絶唱」は、阪神淡路大震災を経験し、青年海外協力隊員としてトンガに二年間赴任していたという湊さんの過去が鮮やかに浮かぶ一作です。阪神淡路大震災から二十年という節目の日に刊行されたこの作品は深い思いを持って書かれたものでしょう。ミステリの分野で活躍されている湊さんの人となりを感じる作品となります。第28回山本周五郎賞候補作。
阪神淡路大震災とトンガをつなぐ沢山のつながり。マリエにしても、りかこにしても、杏子にしても、過去にとらわれ生きてきた人間が、人や時間、環境の変化の中で自分を取り戻していく。どの人物にも言えるし、私自身の心にもとても響いたが、何もせずに諦めて無気力になるのではなく、未来は変えられる。過去に捕らわれているばかりではなく、変われる自分を信じる、ということが心につーんときた。
9.湊かなえ『ポイズンドーター・ホーリーマザー』女王の毒は心をえぐる!王道イヤミス短編集

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あらすじ
母親の反対を押し切り女優となった弓香だが、母の呪縛はいつまでも残っていた。あるとき、「毒親」について討論するトーク番組のオファーが舞いこみ——。(「ポイズンドーター」)毒親、毒娘、聖母……。親子という唯一無二の血のつながりゆえ「毒」が効いた全六編。答えのない「愛」を手探りで探す子育ては「愛」か「エゴ」か。物語のなかから飛びだして読者にも浴びせかけられる毒に後味の悪さを感じるイヤミスの骨頂。
おすすめのポイント!
良かれと思ってやったのに、相手にとってはありがた迷惑ということは案外よくあります。やってあげたのに!と逆上するのは本来お門違いなのでしょうが、とくに親子関係ではこのようなことがよくあるのではないでしょうか。まるで自分の心のなかを覗かれたような内容ばかりが書かれていて、愛とは守る剣であり殺す剣である、両刃の剣なのだと思わせられます。2019年、寺島しのぶさん、足立梨花さんらをキャストに迎えドラマ化。
引き込まれ過ぎて一気に最後まで読みました。なんて表現が素晴らしいのだろう。心に刺さりすぎて怖くて鳥肌がとまりません。深すぎる愛情の害、本当に心と心を通わせることができる真のコミュニケーションがとれてない場合こうなるんだなと感じました。うわー怖い!自分もこうなるかもしれない!と身が引き締まり、震えました。
10.湊かなえ『ブロードキャスト』デビュー十周年を迎えた意欲作!

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あらすじ
中学時代、陸上部で全国大会を目指していた圭祐は、わずかな差で全国大会出場を逃してしまった。陸上の強豪校に進学したものの、とある理由から競技人生を断念。同級生に誘われ放送部員となることに。初めは陸上への未練を残していた圭祐だが、放送部員たちの熱意に触れるうち、少しずつ面白みに気付いていく。放送の分野で新たな目標を見つけたものの、部内では対立が起こり……。青春のぎゅっと詰まった高校部活シリーズ第一作。
おすすめのポイント!
「イヤミス」からスタートした湊さんの作家人生ですが、10年という年月を経て、真っ正面から勝負に挑んだ青春小説を上梓されました。本作は初の新聞連載作品でもあり、各地の公立高校の入試問題にも採用されるなど、新たなフィールドを広げることとなった意欲的な作品です。2021年3月にはシリーズ第二作目となる『ドキュメント』が刊行されました。挑戦することに臆してしまう方に、とくにおすすめの作品です。
「放送部」という知らなかった世界を教えてくれました。自分以外の体験を追体験できるという意味で、読書冥利に尽きる。終盤はミステリー的な要素もあり、飽きずに最後まで読めました。湊かなえ、こういう青春小説も書けるとは、さすがという表現しかしようがない。
後味の悪さで定評のあるイヤミスだけでなく、悲しみや愛に向き合った作品、若者の成長を描いた作品まで書きわける湊さんの作品を紹介しました。猛毒から青春まで。気になったものからチェックしてみてくださいね。前編5作品はこちらからチェック!