三崎亜記さん作品5選!~奇抜さと不条理さがクセになる傑作選~

こんにちは、ブクログ通信です。

三崎亜記さんは福岡県出身の作家で、2004年に『となり町戦争』で第17回「小説すばる新人賞」を受賞しデビューしました。久留米市役所在職中から執筆活動を始めた三崎さんですが、第3作の『失われた町』刊行後、市役所を辞して専業作家へと転身します。風刺のきいた不条理小説を幻想的に描き出す独特な世界観が人気を集め、新作を発表するたびに話題を集める、今注目の作家の一人です。

今回は、そんな三崎さんの作品の中から、初心者におすすめの注目作を5つ紹介いたします。
不条理ながらもどこか惹かれる、不思議な中毒性のある世界観を、ぜひ一度体験してみてくださいね。

三崎亜記さんの作品一覧

1.三崎亜記『となり町戦争』日常と隣り合う戦争を描いた革新的なデビュー作

となり町戦争 (集英社文庫)
三崎亜記『となり町戦争 (集英社文庫)
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あらすじ

「戦争」は、ある日、突然始まる。隣接する町同士で、戦争は公共事業として遂行され、見えない死者がどんどん増えていった。会社員の北原は、ある日「偵察業務」を任命され敵地への侵入を試みる。市役所職員の女性・香西との偽装夫婦生活が始まるが……。

おすすめのポイント!

著者デビュー作にして、「日常の延長線上にある戦争」を描いた革新的作品です。本作では、地域振興のために町同士が起こす事業としての戦争が描かれています。一般的に多くの人がイメージする戦争とは異なり、銃声も流血もない、静かで「目に見えない戦争」です。ごく普通の人たちが気づかないうちに戦争に関与している、という鋭い視点が光ります。いつの間にか始まり、いつの間にか巻き込まれてゆく戦争の狂気と恐ろしさを、抒情的な筆致で描き出し、これまでの「戦争」のイメージを一新する作品です。

通常、戦争を描いた作品はその戦争の残酷さ、非日常さをまざまざと描くものが多い。しかし、この作品は違う。主人公は戦争が行われているという実感をはっきりとは得ないまま、偵察業務を行い、そして戦争を終える。同じ戦争に対しても、仕方の無いものだと受け入れる者、憤りを感じながら正義のために参加しようとするもの、単に面白いものと笑うものなど様々な人の視点が見受けられる。そういう様々な人間がいて、巻き込んで、戦争という「2つの町の共同事業」が完遂された。戦争と日常は違うものではなく、日常の延長線上に戦争があるという文が印象的だった。

えとぴりかさんのレビュー

2.三崎亜記『失われた町』「直木賞」候補作となった、町の「消滅」を描く不条理ファンタジー

失われた町 (集英社文庫)
三崎亜記『失われた町 (集英社文庫)
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あらすじ

30年に一度起こる「消失」。その日、町から人々が消える。残された者たちは悲しみを封じ込め、失われた町の痕跡は抹消されてゆくのだった。大切な人を理不尽に奪われた悲しみを乗り越えて、さらなる「消滅」を食い止めようと立ち向かう者たちの姿を描く不条理ファンタジー。

おすすめのポイント!

原因不明、防ぐことはできない、しかし、いつどこで起こるかは予測可能な「消滅」という現象を描いた、第136回「直木賞」候補作です。ある日突然、町から人々が消える「消滅」に翻弄される人々の姿に心揺さぶられます。緻密に練られた設定と抒情的な文章により、「消滅」という現象がよりリアルに感じられる不思議な作品です。日本のどこかを思わせる町が舞台なので、「消滅が起きたとき、自分だったら……」とつい考えてしまいます。何気ない日常の尊さや、人と人とのつながりの温かさを、改めて感じさせてくれる一冊です。

読み物として、世界観を作り出す中で語られる固有名詞、特に地名・人名ではないキーワードとして使われる用語・概念の解説が淡白なので、没入してこないと賛否両論分かれる作品だと思った。映像化はうまくやれば効果的に表現できるのではないかと思った。かなり一気に読み切れる作品だった。分割された登場人物のエピソードが、最後に一気に結合していく感じは良かった。

masaximumさんのレビュー

3.三崎亜記『みしらぬ国戦争』現代的な戦争の新しいあり方を独自の視点から描き出す意欲作

みしらぬ国戦争
三崎亜記『みしらぬ国戦争
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あらすじ

この国は、未確認隣接国家の侵略により「交戦状態」となった。しかし、すでに2年間続く戦争に人々は飽き飽きしていた。そんな「日常」を送る1人であるユイには、両親の形見に刻まれた文字を解明し、幼い頃の記憶を取り戻すという目的がある。文字と同じ言語の歌を歌う少女らと交流を深めながら、その秘密に迫ろうとするユイだったが——。

おすすめのポイント!

本作は、『となり町戦争』以上に謎めいて奇妙な怖さに満ちた作品となっています。『となり町戦争』で描かれた町規模の事業としての戦争が、本作は国家規模にグレードアップし、それに翻弄される人々の日常が多角的に描き出されるのです。戦争をしている国に暮らしているのに、戦争のことに一切触れない国民たち。そこへ現れる謎の言語と歌。いわば国に騙されている人々が、ふとしたことをきっかけに違和感に気づいてゆく様子が秀逸です。「もしかしたらこんなことが実際に起きるかも」とハッとさせられます。

近未来ディストピア風SF、と纏めてはもったいないお話でした。この国には、こんな器用なことは出来ないような気がしますが、面白く読みました。

伊奈さんのレビュー

4.三崎亜記『名もなき本棚』様々な感情が詰め込まれた摩訶不思議なショートショート集

名もなき本棚 (集英社文庫)
三崎亜記『名もなき本棚 (集英社文庫)
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あらすじ

引っ越してきたばかりの「私」に届けられた不思議な本。それは、五人の女性の手で書かれた日記だった。「私」は六人目の書き手となるとなるが——(『日記帳』)。うがいをした拍子に、体の中から部品を失った「僕」。特に不具合もなく日々を過ごしていたが——(『部品』)。幻想やシュール、不条理、感動など刺激的な体験が詰まった全19編。

おすすめのポイント!

三崎さんならではの奇妙で不可思議、そして不条理なショートショートを19編詰め込んだ短編集です。各作品がとても短いのでサクサク読めてしまいます。短いながらも読みごたえのあるショートショートばかりなので、三崎さんの作品をまだ読んだことがない人でもチャレンジしやすい一冊です。摩訶不思議で、様々な感情を呼び起こされる作品なので、刺激的な読書体験を楽しめます。

三崎さん久々に読んだが、面白かった!常識が違う世界の不条理加減が好み。自爆するときってどんな時なんだろう。

ともりぶさんのレビュー

5.三崎亜記『バスジャック』奇抜な世界観と先の読めない物語がクセになる傑作短編集

バスジャック (集英社文庫)
三崎亜記『バスジャック (集英社文庫)
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あらすじ

バスジャックが流行している社会。いかに勇敢に、いかに美しくバスを乗っ取るかが重要視され、大衆の支持を獲得することが求められる。バスジャック犯は互いの功績を競い合い、乗客たちはそれを楽しんでいた——(『バスジャック』)。

おすすめのポイント!

現実世界とよく似た世界を舞台にした、不条理度合いマックスの短編集です。「あえて白黒つけない自由さ」で繰り広げられる物語は、着地点がどこになるか全く読めないため、結末を迎えるその瞬間まで驚きの連続です。どこか懐かしさを感じさせながらも、うっすら恐ろしさをにじませる絶妙な空気感がクセになります。モヤっとした読後感が後を引く、三崎ワールド全開の傑作ばかりなので、ぜひ一度手に取ってみてください。

それぞれ違った印象を受ける。どうやって生きてきたら、こんな世界観を描けるのだろうか?

こんぺいとさんのレビュー


三崎さんの作品は、奇抜なのにリアルな世界観と不条理な物語が魅力です。
モヤっとするのに何度も読み返してしまうその魅力にハマる人続出なので、ぜひこの機会に三崎ワールドを体験してみてはいかがでしょうか?