こんにちは、ブクログ通信です。
『羊と鋼の森』で本屋大賞を受賞し、同作が映画化もされた宮下奈都さん。注目が集まっています。ブクログから、宮下さんの代表作・オススメ作を7作紹介いたします。多数の作品の中から代表作をご紹介。そしてブクログユーザーから高い評価を受けている作品、読みやすい作品、知名度のある作品を集めているので、ぜひ参考にしてくださいね。
(最終更新2019年2月20日)
経歴:宮下 奈都(みやした なつ)
1967年福井県生まれ。上智大学卒業。2004年、「静かな雨」で文學界新人賞に入選し、デビュー。日常に起こる感情の揺れを繊細で瑞々しい筆致で描きだす作品で知られる。『スコーレNO.4』が書店員から熱烈な支持を集め、注目を浴びる。
代表作に、2016年本屋大賞、ブランチブックアワード2015大賞、「キノベス!2016」などを受賞した『羊と鋼の森』があり、2018年6月に映画公開された。ほか、福井からトムラウシに移り住んでいた頃の日々を描いた『神さまたちの遊ぶ庭』や、福井での身辺雑記や本屋大賞受賞前後のエピソードなどを描いた『緑の庭で寝ころんで』がある。
1.『羊と鋼の森』 本屋大賞受賞作!皇后陛下も読まれていた作品
2015年に刊行され、紀伊國屋書店による「キノベス!2016」第1位、『王様のブランチ』の「ブランチブックアワード2015大賞」に選ばれました。さらに第154回直木三十五賞にノミネート。2016年に「第13回本屋大賞」で大賞に選ばれました。2018年6月8日に映画化されています。
あらすじ
高校2年のとき、ある日の放課後、外村は学校で調律師と出会った。調律師が生んだピアノの音色に魅せられ、森の匂いを感じた。その森の匂いに引き寄せられるかのように、山で生まれ育った外村は人生の進路を決め、自らも調律師を目指す。彼は専門学校へ進み、技術を習得し、かつて自分に影響を与えた調律師が勤める楽器店に就職する。外村は、楽器店で働く数々の調律師から教えを受けて、様々な依頼、人との出会いを通じて、良い調律師とは何か、良い音とは何かを自問してゆく。
オススメのポイント!
多くの書店員から推薦された本書の内容は折り紙つき。一見すると淡々と語られる調律師としての日々ですが、良い音を求めて苦闘する求道者のような主人公の姿は、読み手に多くの示唆を与えてくれます。
映画化作品は、天皇陛下、皇后陛下がご覧になり、「天皇皇后両陛下がご高覧 『羊と鋼の森』特別試写会」でその様子が詳しくレポートされています(なんと皇后陛下は原作本も予めお読みになっていたそう!)。
両陛下のお墨付きともなったこの作品でした。
2.『スコーレNo.4』 ロングセラーとなった出世作
2007年発行の書き下ろし作。2010年に書店員たちによるTwitterを介した仕掛け販売、「本屋さん秘密結社」から話題になった作品です。そのことに触れている記事も多いですが、「ツイッター発の大ベストセラー本を作ろう1 決起編!」でその当時のことがまとめられ、当時の熱を感じることができます。
あらすじ
古道具屋の父のもとで生まれ育った津川麻子。明るい性格で人気者の次女に劣等感と軽い嫉妬を抱きながら、(自分は平凡だ)と考え続けている三姉妹の長女。けれども中学、高校、大学、就職というそれぞれの段階で、4つのスコーレ(学び、あるいは学びのための時間や場所)と出会い、成長してゆく。彼女が徐々に気付き、発見していく大切なものとはなにか?
オススメのポイント!
一人の少女がコンプレックスと対峙しながら、次第にそれを解消させていく成長小説です。大きな事件が起こるわけでもない、些細な日常。けれども、人生にはつまづきそうになる小石、登るのが億劫になるような坂がある。静かな筆致で、主人公の豊かな感受性が小さな試練に立ち向かうさまが示されています。少女の成長小説ですが、男女問わずオススメしたい一冊です。
3.『よろこびの歌』歌から何かを見つけ出す少女たちを描く青春音楽小説
2009年発行の連作短編集。実業之日本社『月刊ジェイ・ノベル』で連載された作品が単行本化されたもの。小泉今日子さんが「読売新聞読書委員が選ぶ『2009年の3冊』」で『よろこびの歌』をオススメしたことでも知られています。
あらすじ
著名なヴァイオリニストを母に持ち、自らも声楽を志す御木元玲。しかし彼女は音大附属高校の受験に失敗し、新設女子校の普通科に進まざるを得なかった。友人との関係を拒み、ふさぎこみがちな日々を送るなか、校内合唱コンクールをきっかけに、玲の心に変化が生まれる。
オススメのポイント!
少女たちの姿がただただ眩しい一作です。ザ・ハイロウズの名曲をモチーフにしており、それを知っている人はニヤリとしてしまうかもしれませんね。歌を通じて成長し、前を向いていく主人公たちの青春が、読む人の心を掴んで離さないはず。女子高生たちの友情、ぜひお楽しみください。なお本作の三年後を描いた『終わらない歌』も刊行されています、少女たちの後日談を知りたい方はぜひチェックしてみてください。
4.『太陽のパスタ、豆のスープ』 人生の挫折から回復し、復活するための術を教える青春小説
2010年刊行の作品です。集英社の『青春と読書』に連載されていた『ドリフターズ・リスト』を追記・改題した作品です。
あらすじ
彼氏と2年付き合って式場まで予約しておきながら、結婚直前に破談になった明日羽。真っ暗な日々を送る明日羽の前に、叔母のロッカさんが現れて「リスト」を作るよう勧めてきた。やりたいこと、楽しそうなこと、ほしいもの……それらを一つ一つこなし、前を向いていく明日羽。確かな日々を発見していく物語。
オススメのポイント!
最初、どん底状態から始まる主人公の姿に思わずのけぞりそうになりますが、大事なものを失った女性が日常を次第に取り返していく姿は、多くの人たちを勇気付けるものになりそう。心温まる物語です。タイトルにあるとおり「食」にまつわるシーンが多いので、食べ物が好きなかたには特にオススメしたい作品。
5.『誰かが足りない』 大事な人の不在―優しい語りに満ちた一冊
2011年刊行。『小説推理』で連載された作品で、2012年本屋大賞でノミネートされ7位の成績を収めています。
あらすじ
評判のレストラン「ハライ」における、10月31日午後6時に店にいたお客たちそれぞれの物語。認知症の症状が出始めて、時折亡くなった主人のことを思い出す老婦人。人の失敗の匂いを感じてしまう女性。さまざまな人生、それぞれの後悔と悩み。ハライの予約と食事をきっかけに、みなが前に進もうとする―。
オススメのポイント!
一緒にいたい人、いるべき人が欠けているレストランの予約者たち。生きている限り人生には色々なことがある、ということを改めて思わされます。悩む人の背中をさするように優しい数々の描写に、思わず読んでいるこちらまで癒されるようです。
6.『田舎の紳士服店のモデルの妻』 地方に生きる女性達の肯定
2010年刊行。『別冊文藝春秋』で連載されていた作品で、東京で生まれ育った女性が夫の故郷に移り住むことになって始まる物語。
あらすじ
夫がうつになって会社を退職したことをきっかけに、東京から彼の故郷へと移り住むことになった梨々子。東京生まれ育ちだった梨々子は田舎で戸惑う日々を送る。夫とすれ違い、そこで出会った男性に胸を騒がせて。30歳から40歳までに至る10年間、梨々子が田舎で暮らす日々が綴られていく。
オススメのポイント!
一人の女性が抱く焦燥感に、考えさせられることは多いです。田舎で暮らすこと、主婦をすること、子育てをすること等々、描かれている様々な場面における梨々子の感情の揺れ動きから目を離せなくなります。大人の女性の成長小説、と言えるかもしれません。一見して単調とも思える生活から何かを見出そうとする梨々子に、思わずエールを送りたくなる作品です。
7.『緑の庭で寝ころんで』 宮下さん珠玉のエッセイ集
2017年に刊行されました。福井の月刊情報誌『fu』の連載がもとになったエッセイ集です。
あらすじ
ふるさと福井、北海道の大自然の中で成長する三人の子どもたちの様子や、自らの体験を記した「緑の庭の子どもたち」4年分を完全収録。そして読書日記、2014年以降の自作解説、創作、そして本屋大賞受賞作の『羊と鋼の森』誕生前夜から授賞式までの記録など、様々な文章を収録したエッセイ集。
オススメのポイント!
『神さまたちの遊ぶ庭』でも記されていた北海道の日々を味わえるだけでなく、本屋大賞受賞前後のことを自ら記した文章など、さまざまな種類のエッセイが楽しめる贅沢な一冊です。宮下さんは優れたエッセイの書き手で、ここでオススメした以外の『はじめからその話をすればよかった』、新刊『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。』もぜひ手にとってご覧ください。
今後の活躍がますます期待される宮下奈都さん。読み手を暖かい感情で満たしてくれる様々な作品、ぜひ手にとってみてくださいね。
どうか最初の一冊目が良い出会いでありますように!
参考リンク
「私もつぼみだったんだな」 — つぼみの形でしか書けなかったもの 宮下奈都さん『つぼみ』刊行記念インタビュー前編
花開く前のつぼみの姿というのはすごく魅力がある — 宮下奈都さん『つぼみ』刊行記念インタビュー後編
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